新ドラマ発表の場で見えたネットフリックスの製作力
米国で恒例のTCA(Television Critics Association/テレビ批評家協会)のプレスツアーが、現地時間1月下旬、カリフォルニア州パサデナのホテルで開催された。TCAは、テレビ番組を扱う米国とカナダのジャーナリスト約200人からなるグループ。
1月頭の全米家電協会によるCES(Consumer Electronics Show)で、ネットフリックスはCEOのリード・ヘイスティングスが全世界190カ国でサービスの利用可能を宣言する基調講演を行うなど、定額制動画配信会社として今最も勢いがある。今回、TCAでは12本もの新作を一挙に紹介。作品の多さだけでなく、コメディからアクション、ドキュメンタリーまで幅広いジャンルを手がけており、同社が今や単なる映像配信会社ではなく、オリジナルコンテンツを製作するスタジオに成長したことを強く印象づけた。デヴィッド・フィンチャーがエミー賞監督賞を受賞した『ハウス・オブ・カード』や『オレジン・イズ・ニュー・ブラック』などで、同社の作品の質の高さは既に証明済み。TCAで発表された新作から注目すべき作品はどれなのか。
カッチャー自身がプレゼン
最大の特徴は、全体的にコメディ色の強いラインアップだった点。コメディの第一人者ジャド・アパトーが手がけた『ラブ』、ジェーン・フォンダとリリー・トムリンの夢の競演で話題の『グレイス&フランキー』のシーズン2、往年の大ヒット・コメディ『フルハウス』をオリジナルキャストで再スタートさせた『フラーハウス』、そして、アシュトン・カッチャー主演の『ザ・ランチ』などが出そろった。
プロデューサーの1人に名を連ねているカッチャーは、TCAのメイン会場でパネラーとして壇上に上がり、同社との初コラボについて「今回僕らは既成の枠にとらわれずに自由な発想で作品を作ることができた。観客がいる昔ながらの撮影方法を取っているけど、スタジオの中でしか撮影しないという従来の方法に縛られず外でも撮影した。CMで中断されることもないので、シーンの終わりにジョークを押し込んだり、22分の枠に物語を収める必要もない。これらが、番組のストーリー性を高めることにつながったと思う」と語り、大いに刺激を受けた様子だった。
また、2015年のアカデミー賞にノミネートされたレオナルド・ディカプリオ製作のドキュメンタリー『ヴィルンガ』のような質の高いドキュメンタリー作品が見られるのも、ネットフリックスの魅力となりつつある。『殺人者への道』は、冤罪(えんざい)で一度無罪となった人物が、別の事件で再び殺人犯として収監されるという実話を、2人の監督が10年以上の歳月をかけて描いた10話からなるシリーズもの。2015年後半、配信されるやいなや、全米中を揺るがす人気番組となった。
監督の1人、ローラ・リッチアーディは、「私たちはずっと、この作品をできるだけ多くの観客に届けたいと願っていたけど、ネットフリックスとパートナーを組む前は、どの程度海外の観客に見てもらえるか全く分からなかった。それが今、世界中の観客にこの作品を届けられる可能性があるのは、本当に信じられないことだと感じている」と、その影響力について興奮気味に語った。
従来のネットワークの作り方に縛られない、クリエーター中心の独自の番組作りは、今後ハリウッドの監督や脚本家、役者たちの間でさらに人気を呼ぶのは間違いないだろう。米国のテレビ界の台風の目となったネットフリックスが、ハリウッドの映像作りに今後どう影響を与えていくのかが垣間見えたイベントとなった。
(ライター 細谷佳史)
[日経エンタテインメント! 2016年4月号の記事を再構成]
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