SIMの可能性広げる、ソネット「月額0円」の狙い
料金競争が加速し、低価格化が進んでいるMVNO(仮想移動体通信業者)の通信サービス。そうした中でもひときわ目を引くのが、ソネットの「0 SIM」だ。初期契約時に3000円を支払う必要はあるものの、以後は月500MBの上限を超えなければ月額料金は発生しない。
しかしなぜ、ソネットは基本料が0円という思い切ったサービスの提供に至ったのだろうか。また基本料0円の料金体系で、そもそも採算がとれるのだろうか。こうしたさまざまな疑問を、ソネットで0 SIMの企画を担当した、モバイル事業部門 ビジネス開発部 ビジネス開発課の亀井健男氏と、ネットワーク基盤事業部門 営業部 マーケティング課 兼ブランド推進室の岡部南海子氏に聞いた。
2、3台目の需要開拓を狙ったサービス
岡部氏によると、そもそも0 SIMのアイデアが生まれた背景には、MVNO同士の価格競争が加速する中、ユーザーの裾野を広げるべく、従来とは異なる軸のサービスを提供したいという狙いがあったとのこと。そこでメーンで利用するスマートフォン(スマホ)ではなく、タブレットなど2、3台目の需要を開拓するための通信サービスを企画していたという。
しかしながらメーン端末向けではないサービスとなると、ユーザーが常時利用するとは限らないことから、一定の月額料金を支払ってもらう従来のスタイルでは契約のハードルが高くなってしまう。そこで「必要なときだけ料金を支払うモデルがあってもいいのではないか」(岡部氏)と考えた結果、通信量上限を定めて基本料を0円にするという、0 SIMのアイデアが生まれたのだそうだ。
常時利用するとは限らないユーザー向けのサービス提供形態としては、利用するときだけ料金を支払う、プリペイド方式という選択肢も存在する。あえてプリペイド方式を採用しなかった理由について、亀井氏は「プリペイド方式では事前に使用する容量を考えて、購入しなければならないわずらわしさがある。月額課金モデルであれば利用した分だけ後から請求されるので、そうしたわずらわしさがない」という。ユーザーの心理的なハードルを下げる目的が大きかったようだ。
0 SIMが基本料0円という前例を作ったことから、激化しているMVNOの料金競争を一層加速しかねないようにも感じる。だが亀井氏はこの点に関して、「あくまでサブ機向けであり、1台目向けのサービスとはターゲットが違う。ポジションが違うことから、価格競争の激化を狙ったものではない」と話す。SIMを挿入して利用するというスタイル自体まだ定着したものではないことから、普段使っていないデバイスにSIMを挿入するなどして、利用者の裾野を広げるのがあくまで目的だとしている。
ヘビーユーザー向けでない料金体系
0 SIMが注目されたのは2015年12月。サービスの正式提供前に発売されたエムオン・エンタテインメントの雑誌「デジモノステーション2月号」に、0 SIMが同梱(どうこん)されていたことが大きい。同誌は発売直後からネット上などで大きな話題となり、多くの書店で売り切れとなり、0 SIMは基本料が0円で済むというメリットの大きさから「神SIM」と呼ばれるなどして大きな評判となった。
こうしたプロモーション施策を展開した理由について、岡部氏は「エムオン・エンタテインメントは弊社のグループ会社。雑誌としても"デジモノ"を扱っていることから、特にITリテラシーの高い人に認知してもらうのに適切な媒体だったため」と話す。雑誌の付録としてSIMを提供するケースは過去にもあったが、月額料金が0円で利用できるSIMが付いてくることのインパクトは非常に大きかったようだ。
だが一方で、ITリテラシーの高いユーザーが多いとなると、大量にデータ通信をしたり、0円を超えないよう調整しながら利用したりするユーザーが多くを占めるなどして、売り上げやインフラの負荷などに不安があるようにも思える。こうした点について、ソネット側はどのように考えているのだろうか。
亀井氏は「そもそも0 SIMは、メーンの回線としては利用しづらい料金設計になっている」という。実際に0 SIMの仕組みを見ると、通信量が500MBまでは確かに0円だが、それ以降は100MB毎に100円の料金がプラスされ、2GBを超えると1600円の料金がかかってしまう。さらに5GBを超えると速度制限がかかり、高速通信を継続するには有料でのチャージ(100MB当たり500円から)が求められる。
確かに、多くのMVNOのデータ通信SIMが月額1000円未満で3GBのデータ通信ができることを考えると、0 SIMはライトな利用には得だが、大容量通信には向かないことが分かる。亀井氏も「0 SIMはヘビーユーザーからすると安くない料金体系。メーンで利用するユーザーは別のサービスのほうがお得」としており、料金設計の工夫によって回線にかかる負担を減らしているようだ。
基本料金だけでなく、500MB分まで無料にした理由についても、亀井氏は「スマホではバックグラウンドでの通信が発生するため、1MBでも通信したら料金が発生するというのであれば実質的に無料とは言えない」と答えている。ソネットでは、スマホやタブレットを使う上で必ず発生する通信容量を500MBと見積もり、それを超える料金分を支払ってもらうという考えだ。
当然ながら、ユーザーが500MBを超えて利用しなければ、料金が発生しないためソネットとしては損になってしまう。亀井氏によると「サービスを始めたばかりだが、想定通り一定数は500MBを超えて使ってもらえている」とのことで、500MBを超えるユーザーはある程度存在するようだ。現在はITリテラシーの高いユーザーの利用が多いこともあって、500MBの通信容量を超えないよう意識して使う傾向も強いとのことだが、今後幅広い層に利用が広まるに従って、状況も変化していくのではないかと、亀井氏は話している。
サブ機向けながら音声通話も提供する理由
0 SIMは2、3台目での利用に主眼を置いたサービスであることから、「SNSなどで利用動向を見る限り、スマホやタブレットをカーナビ代わりとして使うのに用いたり、台所で料理のレシピを見るのに用いたりするケースもある。両親がタブレットデビューする際に、0 SIMを購入することもあるようだ」(岡部氏)とのこと。メーンよりもサブ、あるいはライトユーザー向けの活用が進んでいる様子が見られる。
しかしながら一方で、0 SIMにはSMS(ショートメッセージサービス)が利用できる「データ+SMSプラン」や、音声通話が利用できる「データ+音声プラン」も用意されている。一部の機種で、SMSがないとバッテリー消費が早くなるという問題があるため、SMSのサービスを提供することは理解できる。しかし、2、3台目の需要を狙っているにもかかわらず、メーンの利用向けとなる音声通話を提供することには疑問を抱くというのが正直なところだろう。
この点について岡部氏は、「待ち受け専用の携帯電話を持っている人もいることから、音声の2台目需要もあるのではないかと考え、音声プランも提供している。実際、音声の利用は想像していたよりも多く、ライトユーザーのスマホデビューに適しているようだ」と語る。音声の2台目需要を狙う上でも、必要以上の料金がかからない0 SIMは効果を発揮しているようだ。
また0 SIMは、3カ月間利用がないと自動的に解約される仕組みになっており、SIMを長期間、寝かせておくことはできない。その理由について亀井氏は「SIMを定期的に利用してもらうことを前提にサービスを提供している。やはり利用されないと困ってしまう」と話している。無料とはいえプリペイドではなく月額課金制のサービスであることから、あくまで継続利用してもらうことが前提となっている。
セット販売よりSIMの可能性を広げることに注力
現在のところ、0 SIMはあくまでSIM単体で提供されているが、2台目需要を開拓するならば、タブレットなどとセットで販売することも考えられる。だが亀井氏は「売り方の選択肢としてはあると思うが、セット販売によって発生する制約をあえて設けたくなかった」と答えており、端末とのセット販売を積極的に展開する考えはないとのこと。あくまで0 SIMはSIMとして提供し、ユーザーの目的に応じたスタイルで利用してほしいという考えだ。
同様に、ソネットが提供している1台目向けの通信サービスと、0 SIMをセットで販売することも、現在のところ計画はないという。0 SIMの提供が、ソネットのMVNO事業全体の注目を高めていることは確かなようだが、あくまで0 SIMは、SIMの利用や可能性を広げるためのサービスとして位置付けられている。
では、個人向けのセット販売に広げるのでなければ、ソネットはこれから、0 SIMをどのような形で広げていこうと考えているのだろうか。亀井氏はこの点について「今後はIoT(Internet of Things、モノのインターネット)が広まることから、スマホやタブレットだけでなく、IoTを見据えた使い方を探っていきたい」と話す。2台目需要だけでなくIoT向けに0 SIM拡大の可能性を見いだしているようだ。
実際ソネットには、0 SIMの提供以降、IoT関連の企業から0 SIMの活用に関する問い合わせがいくつか来ているらしい。それゆえ同社では、IoTの広がりを見据えながら今後のサービスに関する議論を進めているというが、現在の0 SIMのサービスが、必ずしも法人向けのIoT機器に適しているとは限らない。それゆえ「まずは現在のユーザーの利用スタイルを見極めながら、今後のサービスについて考えていきたい」と、亀井氏は語った。
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。
[日経トレンディネット 2016年3月25日付の記事を再構成]
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