新任女性リーダー、私の流儀 これまでの歩みと仕事観
キャリアの扉スペシャル
ホンダ執行役員・日本本部営業企画部長、鈴木麻子さん
「行きます」。1998年にタイの現地法人に赴任しないかと打診され、即答した。欧米を除くと女性の海外赴任は社内初。上司も迷い、本人の意思を尊重しようと考えたようだ。すでに結婚しており「旦那はいいのか?」と逆に心配された。
日本の技術力を生かしてアジア・アフリカ諸国の経済発展に貢献したい。それが入社の動機だ。チャンスを断る理由はない。帰宅後に夫に報告したら喜んでくれた。「私の夢は分かっていたので、いつか1人で行ってしまうと思っていたのでしょう」
それまでもバイクの海外事業を手掛けていた。ただ責任の重さが違った。経済成長を見越して96年にタイ工場が本格稼働した。だが翌97年にアジア通貨危機が起き、開店休業状態に。そこでタイ工場で生産する自動車をオーストラリアなどに輸出する事業を任された。
「タイ製ですか……」。同じ車種なのにオーストラリアの販売会社は難色を示した。輸出車専用の検査ラインを新設し、タイ見学ツアーを実施するなど変わらぬ品質をアピール。「輸出車を積んだ船が初めてオーストラリアに出航するときは感動した」
チャンス、迷わずつかむ
輸出事業が軌道に乗ると次にマレーシアで合弁会社を立ち上げた。「やるか?」と上司に声を掛けられて「行きます」と再び即答。タイからマレーシアに直接転勤した。「会社の立ち上げに関わる機会はめったにない。タイでの成功が自信になっていた」と振り返る。
海外赴任は計15年に上る。4月から自動車の国内販売の指揮を執る。「入社29年で国内販売は実は初めて。でも顧客の立場で考える基本姿勢はどこも同じ」と闘志を燃やす。
YKK執行役員・工機技術本部技術企画室長 山崎幸子さん
YKKにこの春、女性初の執行役員が2人就任した。その1人が技術企画室長を務める山崎幸子さんだ。グループの技術開発の中核を担う工機技術本部で、生産設備の品質や生産性の向上に向けた取り組みを主導する。「製造現場に適応する設備開発と、中長期視点での技術開発という2つの方針を、現場に落とし込むのが仕事。トップと1300人(の部員)をつなぎたい」と力を込める。
大学で情報科学を学び、「地元の富山で働きたい」とYKKに入社した。均等法第一世代。システム開発で20年キャリアを積んだ。
32歳で同期と結婚し2人の子をもうけた。短時間勤務制度がない中、夫婦で予定をやりくりしながら仕事と子育てを両立してきた。
転機は2010年。品質保証室長に抜てきされた。未経験の領域に戸惑ったが、「品質は事業そのもの」という上司の言葉に突き動かされた。国内外の工場を対象に生産設備に関する満足度調査を実施。現場の声を開発方針に反映させるなど、品質や安全性を高める施策を指揮してきた。
分からないことは誰が相手でもすぐに聞きに行く。密なコミュニケーションと感謝の言葉が、スピード感ある仕事を支える。
執行役員として力を注ぐのは、工場の機械の稼働データなどを分析し、生産性向上に生かすこと。「設備総合効率を5%あげる」ことを16年度の目標に、各部門のやる気を引き出す。
努力の先、世界は広がる
「仕事が一つ終わったら風景が変わり、さらに一歩上がったらまた風景が変わる、という感じでここまで来た」と振り返る。「きちんとやれることをやっていけば、その先に広がる世界があると示せればと思う」
東京ガス執行役員・業務改革検討プロジェクト部長 鴫谷あゆみさん
「私は糸電話。社内のこの人とこの人がしゃべれば化学反応を起こして、何か新しいモノが生まれると思えば、引き合わせるのが楽しいんです」
東京ガスの鴫谷あゆみさんは4月、生え抜き女性で初の執行役員に就いた。主にIT(情報技術)を活用するプロジェクトにいくつも関わった。パソコン、コンピューターシステムをビジネスに、出勤情報の管理に、経理に、顧客サービスに活用・定着させる特命を期間限定で仕上げてきた。
例えば若手の時に参加した「EUCプロジェクト」は、社内に眠る様々なデータを自由にエクセルにダウンロードして使えるようにするもの。とにかく現場、各オフィスを回り、どんなお宝データがあるのかと話を聞きまくった。
「そんなもん役に立つのか」。疑問の声が返ってきても何のその。会社の部署にはどんな仕事があり、何を目標にした人がいるのかを広く掘り出した経験は、人と人を結ぶ「人間糸電話」の礎をつくったという。
人と人の科学反応、生む
東京ガスはエネルギー自由化に直面し、規制に守られたビジネスモデルから全く違うものを生み出す転換点にある。1年で結果を出す業務改革検討プロジェクトのリーダーとして「社員が働きやすく、お客さんも喜ぶ種を見付ける。人と人の組み合わせが、前に進む何かを生むはず」。
着物デザイナー、紫藤尚世さんのファンで、和服の着付けからお茶、長唄三味線、日本舞踊、和太鼓と次々と趣味の枠を広げてきた。「正直に気持ちのいいことを目指すのは楽しい。仕事でもモットーは本音でしゃべること。同僚にも『我慢はしないでほしい』が口癖です」
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