iPhone SEは小型高性能好きの日本に受け入れられるか
6sより3万円以上安い「SE」
米国時間の3月21日、かねてより噂となっていたアップルのスマートフォン「iPhone SE」が正式に発表された。
iPhone SEはiPhone 5sの系譜を継ぎ、最近では珍しい4インチディスプレーを採用したコンパクトなスマートフォン。外観のデザインもiPhone 5sと比べ大きな変化はないようだが、カラーバリエーションにはピンクゴールドが加わり、計4色となっている。
一方で、性能は大幅に向上している。CPUとコプロセッサーにそれぞれ、iPhone 6sと同じ「A9」「M9」を採用するほか、1200万画素のカメラを採用し、4K動画の撮影やLive Photoなどにも対応。NFCを搭載したことで新たにApple Payが利用可能になるなど、iPhone 6sとそん色ない性能を実現する"コンパクト・ハイエンド"というべきスマートフォンに仕上がっているのが分かる。
そしてもう一つ、注目されるのは価格だ。iPhone SEは、ストレージ容量に応じて16GBと64GBの2モデルが用意されているが、米国では16GBで399ドル、64GBで499ドルと発表されている。
日本での価格は、SIMフリー版で16GBが5万2800円、64GBが6万4800円と、現在の為替レート(1ドル112円)を考慮すると高く感じてしまう設定ではあるが、それでもSIMフリー版iPhone 6sの価格(16GBで8万6800円、64GBで9万8800円)と比べれば3万円以上安い。
アップルは発表会において、iPhone SEを発売した理由について、4インチクラスのモデルに根強いニーズがあるためとしている。
実際アップルによると、iPhone 6sを発売した2015年であっても、4インチサイズのiPhoneを約3000万台販売しているとのこと。また4インチクラスのiPhoneユーザーの中で、新しいiPhoneに変えたいというニーズも中国を中心に多く存在するという。そうした市場動向からアップルは、4インチサイズのiPhone SEを発売するに至ったようだ。
日本人は小型高性能モデルが好き
iPhone SEは先に触れた通り、デザイン的にはiPhone 5sと大きく変わらないし、機能・性能的に見ればiPhone 6s相当であることから、目新しさはなく新製品としてのインパクトが弱いのは事実だ。
だが現在の日本のスマホ市場を見るに、iPhone SEは多くの人が待ち焦がれた"待望のスマートフォン"となる可能性が高い。
まずはユーザーの視点から見てみよう。4インチサイズのスマートフォンは手のひらに収まりやすいのに加え、片手操作でも画面の隅々まで指が届くというメリットがある。日本では片手での日本語フリック入力が主流なため、片手操作を重視するユーザーが多い。そうしたことから4インチサイズのモデルに対するニーズは非常に高い。
加えて日本では、ゲームや動画、カメラなどに高い性能を求めるユーザーが多い。そうしたことからコンパクトでハイエンドな4インチクラスのスマートフォンというのは、ある意味日本のユーザーが求める理想形ともいえるものなのだ。
実際、5インチクラスのスマートフォンが主流となった現在でも「iPhone 5s以前の小型のサイズ感がよかった」と話す人の声を耳にする機会は多いと感じている。
一方、グローバル市場の視点で見ると、もともと両手で文字入力する傾向が強いのに加え、最近は動画やゲームの利用拡大などによって大画面に対するニーズが高まっている。そのためハイエンドモデルは5インチ以上のモデルへと移行。日本では決して人気が高いとはいえない5.5~6インチの大型画面スマホ「ファブレット」も、アジアを中心として海外では人気を博している。
4インチクラスの小型モデルは、世界的なニーズの減少と共に、低価格・低性能のローエンドモデルの一部で採用される程度となりつつある。そうしたグローバルでの動向を受けてか、「Xperia Z5 Compact」など4インチクラスのモデルを継続的に投入してきたソニーモバイルコミュニケーションが、新シリーズの「Xperia X」でディスプレーサイズを5インチに統一するなど、4インチクラスのモデル投入を止める国内メーカーも出てきている。
つまり4インチクラスのハイエンド・コンパクトスマートフォンは、日本でのニーズが非常に高いにも関わらず、世界展開する上でのコスト効率の悪さなど"グローバルの都合"に押され、新機種があまり登場しない状況となっているのだ。
それだけに、高性能コンパクトモデルのiPhone SEが新機種として登場したことは、日本のユーザーにとっていかに大きな意味を持つかがよく理解できるのではないだろうか。
5万円前半の価格はMVNOにとっても魅力
そしてiPhone SEは、大手キャリアや、格安スマホ・格安SIMを提供する仮想移動体通信事業者(MVNO)にとっても待望の製品となる可能性が高い。その理由は、価格が非常に安いiPhoneだからだ。
先に触れた通り、iPhone SEの価格はSIMフリーモデルで5万2800円からとなっている。3月22日時点でワイモバイルのオンラインショップにて販売されている、iPhone 5s(16GB)の一括払い価格(6万3504円)よりも安い。
そうしたことから大手キャリアにとってiPhone SEは、販売奨励金を大幅に抑えつつ、iPhoneの新機種を安価に提供できるという大きなメリットが得られるわけだ。
現在、キャリアは総務省の要請によって端末の0円販売を自粛しており、その影響から端末の販売が大幅に減少していると聞く。それだけにiPhone 6sよりはるかに安いiPhone SEの登場は、キャリアにとって新たな目玉商品となる可能性が高い。
3月22日昼の時点では、ドコモとau、ソフトバンクが取り扱うと発表している。
MVNOにとっても、iPhone SEの登場は大きなメリットとなる。いくら格安SIMに変えると毎月の携帯電話料金が安くなるといっても、8万円を超えるSIMフリー版のiPhone 6sを購入してまでMVNOに移行したいというユーザーは決して多くない。
だがiPhone SEであればSIMフリー版でも5万円程度で購入できるため、SIMロック解除ができないiPhoneを持つユーザーが、キャリアから格安SIMに移行する上でのハードルを大幅に下げてくれる可能性が高いのだ。
もちろん、SIMフリースマートフォンの主流は3万~4万円程度の価格帯であることを考えると、iPhone SEの価格がやや高いというのは事実だ。だが5万円台前半でiPhoneが使えるとなれば、利用環境を大きく変えたくないiPhoneユーザーであれば、iPhone SEを選ぶ可能性も高いのではないだろうか。
このように、iPhone SEは新製品としては一見地味であるものの、現在のユーザーやキャリアの動向を考えると、日本市場にとって非常に重要な意味を持つモデルとなる可能性が高い。低迷しつつある国内のスマホ市場を、iPhone SEが再び活性化してくれるのかどうか、大いに注目されるところだ。
(フリーライター 佐野正弘)
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