ロック・OL・仏教… 女性落語家が異色の新作
「ロック落語」や「仏教落語」など、自身の興味を生かした創作落語を手がける女性の活躍が目立つ。女性落語家の増加を背景に、個性で勝負しようという機運が高まっている。
「いつまでも音楽なんかやっていないで、ちゃんと仕事してちょうだいよ」と怒る妻に「俺は伝説のバンド『クイーン』のベーシストなんだぜ」と力説する夫。「伝説より何より、仕事の面接を受けてちょうだい」。ロックファンが集まった会場から、爆笑が起こる。
真打ちとして活躍する川柳つくしの創作落語「ディーコン」は、英国の人気バンド、クイーンにいながらも地味と思われがちな楽器を担当しているためになかなか注目されないディーコンが主人公。実在のアーティストをモデルにした作品で、ベーシストの悲哀が面白おかしく描かれる。ロック好きのつくしが10年ほど前に作り、ロックファン向けの会で披露してきた。
「ひょっとしたらこんな夫婦の会話があったんじゃないか、と想像を膨らませた。普段の落語会とは違う客層に聞いてもらえるのがうれしい」とつくし。この「ロック落語」をきっかけにほかの落語会に足を運ぶようになったファンもいるという。
この作品で手応えを得て、ビートルズ、ローリング・ストーンズなどを題材にネタを創作。年に1、2回の「ロック落語会」で披露してきた。今月30日にも、渋谷・アップリンクでビートルズ来日50周年を記念した落語会を開く。
働く女性を題材にした「OL落語」で注目を集めるのが、三遊亭粋歌。女性落語家の草分け、三遊亭歌る多の弟子で、入門11年目の二ツ目だ。
代表作「影の人事課」は、バブル世代とゆとり世代に挟まれた35歳の女性会社員の不満を描く。自身も落語家になる前、企業の人事課で7年間、働いていた。その時の経験をもとに構想を練ったという。表情をくるくると変え、あいきょうたっぷりに演じるのが持ち味だ。
これまでに作ったネタは30本以上。転職がテーマの「銀座なまはげ娘」、かつてテレビ番組で戦隊ヒーローを演じていた女性の今を描く「ヒーロー」など、働く30代女性をテーマにした作品が多い。ファンは30~40代の男女が中心で「仕事の後に聴きに来た会社員に『共感した』と言われる」と笑う。
関西では、「仏教落語」をライフワークとする露(つゆ)の団姫(まるこ)が強烈な個性を放つ。高校時代から落語と仏教に興味を持ち、2005年に露の団四郎に入門。12年に比叡山で修行をし、天台宗の僧侶となった。テレビ番組にもたびたび出演し、知名度を上げている。
「カミよりも仏の道を選びます」。舞台でオチの直前にショートカットのカツラをひょいっと持ち上げ、丸刈りの頭を披露すると、観客は拍手喝采。仏の役割をギャグを交えて紹介する「仏は君をホットケない」だ。
ほかにも「般若心経落語」「弥陀(みだ)の心、子知らず」など、仏教を題材に8作を手がけてきた。「宗教と政治のネタはダメだと思っていたが、思い切ってやってみたら師匠もお客さんも認めてくれた」と団姫。「説教臭くなったら終わり。今っぽいキーワードを入れるようにしている」と明かす。
男性しかいなかった落語界に、女性が進出するようになって30年ほど。色々な師匠が弟子にとるようになり、今では珍しい存在ではなくなった。落語情報誌「東京かわら版」編集人の佐藤友美氏は「女性ということで色眼鏡で見られることなく、芸の中身を正当に評価される時代。新作や古典の改作などに挑戦し、各自の個性で勝負する女性落語家はもっと増えていくだろう」と期待を寄せる。
(文化部 佐々木宇蘭)
[日本経済新聞夕刊2016年3月22日付]
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