低年齢化する子どもの歯の矯正 焦らずじっくり相談を
7歳前後に一度検診 「早い=効果」は疑問
横浜市青葉区のいなげ矯正歯科医院ではこの時期、新学期を控えたり受験を終えたりした子どもの受診が増える。稲毛滋自院長は「患者の約3分の2は20歳以下で、小学生以下も少なくない。小さい子は治療を急がずに経過観察を勧めることがある」と説明する。
小学1年の長女と訪れた同市戸塚区の女性(39)は「親は2人とも歯並びが悪い。子どもはきれいな歯並びにしてあげたい。先生から治療を急かされることはなく、成長に合わせて本格的な治療をすると聞いて安心感をもった」と話す。
厚生労働省の2011年の歯科疾患調査によると、12歳以上20歳未満の子どもで歯並びが悪い「叢生(そうせい)」の比率は44%。05年調査より4ポイント増えた。食生活が変わり、あごが細くなる一方で歯は大きくなっている。歯の生える部分が窮屈になっているとの指摘がある。
子どもの矯正への関心が高まるなかでトラブル報告が増えている。「中学生になると部活動などで忙しくなるので早く矯正したほうがいいと勧められた。治療には100万円かかると言われた」。国民生活センターには消費者からのこうした相談が増えている。
同センターに寄せられた歯列矯正を含む18歳以下の歯科治療の相談件数は14年度、84件だった。05年度の44件の2倍近い。センターは「最も多い相談は説明不足によるもの。契約当初にしっかりした説明がなかったため後で問題になる例が多い」という。
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極端に悪質な事例は一部だが、誤解を招くような広告や宣伝は少なくない。「抜かずに矯正できます」「6カ月以内で治ります」といったうたい文句を掲げる歯科医は多いが、稲毛院長は「矯正歯科を専門とする立場からは疑問」と話す。
最近は「低年齢で始めたほうが治療効果が高い」とうたう例が目立つ。ただ、日本歯科大学生命歯学部の新井一仁教授は「骨格に問題があったり、かみ合わせが悪かったりする場合は早めに治療を始めたほうがいい。でも緊急の対応が必要な例は必ずしも多くない」と話す。
子どものあごの骨や歯の状態を把握しておくことは大切だ。新井教授は「乳歯と永久歯が生え替わる7歳前後のころに一度、診察を受けるといい。すぐに治療が必要でなくても、将来必要か、いつが適当な時期か見通しを立てやすくなる」と説明する。家庭では歯の生え方を観察し、歯並びや生える場所がおかしいと思ったらためらわず相談しよう。
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「根拠にもとづいて治療方針や、かかる期間などをわかりやすく説明するかどうかが矯正歯科選びのポイント」と話すのは歯科先進国とされるスウェーデンで矯正歯科専門医の資格を取ったスウェーデン矯正歯科(東京・中央)の石川基院長だ。
スウェーデンではすべての子どもをかかりつけ医が定期的に検査する。少しでも生え替わりや骨格の成長に問題がありそうな場合は、矯正医の診察を受けさせる体制が整っているという。「日本はそこまでシステム化していないが、かかりつけ医と患者の結びつきは強い。患者は積極的に質問して、専門医の紹介を受けるといった協力を引き出したい」(石川院長)
日本歯科大学の新井教授は「矯正の目的は見た目を良くすることだけでなく、永久歯でしっかりかみ合わせられること。成長の見通しが立ちにくい低年齢で治療を始めるほど、かかる期間が長くなることがある」と話す。
矯正は原則保険が適用されず、治療費は数十万円と高額になる例が多い。「小さいうちから早く早く」と焦るのではなく、あごや歯の成長段階に合わせた治療を受けられるよう、医師と相談することが重要だ。
治療前にセカンドオピニオン活用を
矯正歯科専門の開業医でつくる日本臨床矯正歯科医会(東京・豊島)は昨年1月、18歳以下の子どもの患者について調査した。
その結果、2014年中に約6割の医院が他院からの転院を受け入れたり相談を受けたりしていた。うち約56%の患者で「不適切な治療があった」と回答した。
例えば矯正の診断・治療には顔やあごの骨の状態を正確に知る必要がある。ところが重要な「セファロ」というエックス線検査をしていなかった例が約4割あった。患者が理解できる治療方針をしっかり説明をしていなかったのは約7割にのぼった。
矯正歯科選びのポイントとして、同会はセファロ検査の有無のほか「転院する場合の手続きや、今後かかる治療費について事前に説明する」「常勤の矯正歯科医がいる」など表にあげたポイントを確認することを勧める。
富永雪穂会長は「矯正治療は緊急性が高いものではない。矯正医を途中で変えるのはとても大変。セカンドオピニオンなどを活用しながら納得のうえで治療を始めることが大事」と話す。
(高田哲生)
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