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自然や街との一体感がウリの宿 星のや富士/Len

日経デザイン

2016/3/19

「星のや富士」(住所:山梨県南都留郡富士河口湖町大石1408) 松林の中にテラスが浮かぶ「クラウドテラス」がある。(星のや富士の写真提供:星野リゾート)

日経デザイン

 宿泊施設の分野で、話題を集めているのが、星野リゾートが2015年10月30日に山梨県富士河口湖町にオープンした“グランピングリゾート”と呼ぶ「星のや富士」と、バックパッカーズジャパンが2015年3月から運営している京都市河原町の「Len」だ。

 星のや富士の掲げるグランピングとは、グラマラスとキャンピングを合わせた造語。キャンプならではの自然環境の中でありながら、宿泊施設は高級ホテル並みのサービスや快適さを提供してくれる新しいキャンプのことで、世界的には新しいアウトドアレジャーのスタイルとして注目されている。キャンプに不慣れでも、手ぶらで出掛けても、気軽に贅沢なキャンプを楽しむことができる。星のや富士は日本初のグランピングリゾートを打ち出しており、宿泊価格は1泊1人当たり2万2950円から。スタートしたばかりだが、週末休前日は予約が取りにくい状況だ。

「Len」(住所:京都市下京区河原町通り松原下ル植松町709-3) 宿泊しない人も集えるよう、1階にラウンジを併設した。店のにぎわいを伝える一面ガラスのファサード。(Lenの写真:廣川淳哉)

 一方のLenは庶民的なイメージで、8人の相部屋なら1人2600円から、ツインルームなら1人3400円からで宿泊できる。だが安さだけではない大きな魅力が人を引き付けている。それがラウンジとイベントだ。1階には朝と昼はカフェとして使え、夜はレストランやバーになるラウンジスペースがあり、ここに連日、人々が集まってくる。宿泊客だけでなく、レストラン利用の女性客やバー目当てでやってくる外国人観光客も多い。全面ガラスのファサードを通じ、店内のにぎわいが路上にも伝わってくる。さまざまな人とのコミュニケーションが好評で、連日、予約で埋まっている盛況ぶり。

 両者とも、今までの宿泊施設には見られない新しいスタイルを追求している点は同じ。だが、星のや富士の場合はキャンプ本来の開放感と高級リゾートとしてのクローズのバランスを取っているが、Lenはむしろ開放感を推し進め、「街」と一体化を図ろうとしている。立地やコンセプトの違いはもちろんだが、アプローチ自体が大きく異なっており、それがさまざまな工夫に表れている。

■高級キャビンに宿泊、「焚き火BAR」も

キャビンの一つから外を眺めたところ。湖畔や富士山が見える
シェフが作るさまざまな“グランピング料理”

 星のや富士のグランピングは、キャンプと言えども、一般的なイメージとは全く異なる。自分でテントを張る必要はなく、宿泊施設は河口湖に面し対岸に富士山を望むキャビン。バーベキューなど自分で食材を用意したり火をおこしたりといった手間もなく、希望する場所でシェフが目の前で調理してくれたり、シェフと一緒にくん製作りを体験したりすることもできる。

敷地内に「焚き火BAR」を設け、自分たちで火をおこす必要がない

 さらにキャンプといえば、たき火を囲んで語り合うのも楽しみの1つだが、敷地内に「焚き火BAR」が用意されており、自分で火を起こす必要もない。まさに至れり尽くせりのサービスがあり、キャンプやアウトドアに関心はあるが不便さを敬遠する人、設備の用意など敷居が高いと感じる人でも、アウトドアの楽しさを体験できる。

 キャビンには、テラスに薪ストーブを用意したものや、ソファや浴室からも森や湖の眺めを楽しめるものもある。湖畔から離れて山を登ると、松林の中にテラスが浮かぶ「クラウドテラス」がある。ここでは、たき火をしたり、屋根の下でくつろいだり、お湯を沸かしてコーヒーを入れたりと、自然に囲まれながら思い思いに過ごすことができる。樹々と一体になり、林そのものが心地よい居場所となる空間だ。

 キャンプが人を引きつける魅力は、日常を離れ、アウトドアに身を置き自然と触れ合うことにある。ハードとソフトの両面で自然の中に浸るというアウトドアの魅力を最大限に引き出し、その楽しさだけを体験できる、いわば“いいとこ取り”のメリットがあるようだ。

■ゲストが話しやすい雰囲気を作る

 Lenのにぎわいの象徴となるのが1階ラウンジにある大きなテーブルとカウンターだろう。相席利用が多く、長いバーカウンターに並んでいれば、自然とほかの客との間に会話が生まれてくる。席と席の距離を近くして、店内には会話しやすいきっかけがいくつも設けられている。広く抜けの良い空間が客同士が話しやすい雰囲気を作り出し、にぎわいの元になっている。

 バックパッカーズジャパンは、Lenの出店以前から東京・蔵前で同様な宿泊施設「Nui.」を、東京・入谷で「toco.」を運営している。LenとNui.はビル一棟を、tocoは古民家を改装した。規模はそれぞれ異なるが、共通するのは食事や飲み物を提供するラウンジを設けていることだ。宿泊施設にありながら誰でも気軽に利用できるラウンジが、人々を客室へと招き入れている。


上の3枚の写真はいずれも開放感たっぷりのラウンジ

 「宿泊施設を街に開かれたものにしたいと思い、その手段としてカフェやバーがある。toco.を開いた2010年には、飲食とゲストハウスを一緒にやっているところはそこまで多くなかった」とバックパッカーズジャパンの宮嶌智子・業務執行責任者(COO)は語る。

 Lenを京都に出店したのは、条件を重視した結果だ。ワンフロアではなく、一棟で、飲食と宿をセットでやろうと決め、もともとは東京で物件を探していた。京都は、歩きやすい観光地。相部屋の宿に慣れた外国人旅行客も多い。家賃や広さに加え、街に開かれた雰囲気を作れる物件かどうかも重視したポイントだ。

バックパッカーズジャパンが東京・蔵前で運営する宿泊施設「Nui.」。京都出店により、客の行き来が見られるようになった。(写真:廣川淳哉)

 京都に出店したことで東京と京都で客の行き来が見られるようになった。東京ではカフェとしてNui.を利用していた客が、京都のLenでは宿泊客になる。もちろん、その逆のパターンもあるなど、相乗効果を生み出している。

 もう1つ、Lenが人々を引きつけ、来店のきっかけとなっているのが、月2回のペースで開催するイベントだ。ここで行うライブやワークショップを体験してもらうことで、どのような施設、どのような雰囲気かが理解され、カフェ利用や宿泊につながる。Lenのオープニングパーティーには約100人が訪れ、ライブイベントなら60人ほど来ることもある。宣伝費をかけることはないが、こうした活動を地道に続けていくことで、口コミで人々が集まってくるようになったと言う。

 「Lenまで来てもらうきっかけづくりが必要。イベントはその入口を1つ増やすための仕掛け」(宮嶌COO)。

 宿を外部に開放することで、さまざまな人々とのコミュニケーションが生まれるLenは、宿泊施設の新たな魅力を備えている。

(ライター 笹田克彦、廣川淳哉)

[日経デザイン 2015年12月号の記事を再構成]

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