4Kに対応、音声検索が使いやすいファイアTV
戸田覚のPC進化論
テレビにつないでさまざまなコンテンツを再生するデバイスが、かなり出そろってきた。アップルの「Apple TV」しかり、グーグルの「Chromecast」しかり。アマゾンもこのジャンルに参入していて、「Fire TV」をリリースしている。今回は、最近発売された上位モデルをレビューしたい。
実は、この製品の最大のポイントは4K動画の再生なのだが、残念なことに僕の自宅にはまだ4Kテレビがない。おそらく、読者の多くもそんな状況だろう。テレビは陳腐化するまでに時間がかかるので、普通の家庭ではそうそう買い替えないと思う。
僕としては「4K動画を見たい人がFire TVを買う」のではなく、「4Kテレビを手に入れたから、Fire TVで高画質な動画を見てみようか」という人が多いような気がしてならない。また、4Kを本気で楽しみたいなら、無線LANの速度もネックになりそうだ。
セットアップにかかる時間は……
Fire TVの本体は小さな四角い箱のようなスタイルだ。とても薄いので、テレビラックなどの隙間にもうまく収まるだろう。テレビとはHDMIケーブルで接続するだけだ。真っ黒な本体は格好いいのだが、寝室など、暗い部屋だと見失ってしまうので、ボタンを光らせるなど工夫してほしかったところだ。
4Kに対応するためか、専用のクアッドコアプロセッサーに加え、グラフィックスも強化されている。セットアップから普通に利用してみたが、これがかなり快適だった。古いパソコンを新製品に買い替えた感じ……とまで言うと大げさかもしれないが、テキパキ感がとても気持ちいい。
ただし、セットアップはそれなりに時間がかかった。ネットワークに接続するとOSのアップデートが始まり、なんとリモコンまで更新ファイルをダウンロードする必要がある。設定項目が多いわけではないのだが、ダウンロードや処理待ちがかなりあるので、小一時間は覚悟しておいたほうがいいだろう。
面白いのがmicroSDカードスロットを備えていること。後述するが、ゲームなどはデータをダウンロードして利用するので、容量が不足したら追加できるように考えられているのだ。何年間か使う製品だと考えると、ありがたい配慮と言えそうだ。
リモコンの使い勝手は上々だ
付属のリモコンはなかなか使いやすく、ボタンも多くないので迷わず使えるだろう。Fire TVの最大の特徴のひとつが音声検索で、これは非常に便利だ。リモコンのマイクボタンを押しながら、番組名などを声に出して言えば認識される。認識率はスマートフォン(スマホ)の音声検索と似たようなものだが、利用機会は間違いなくスマホより多くなるだろう。
テレビ系のデバイスは画面上のキーボードを利用するものが多く、文字入力が大きな課題となっている。その点、音声入力なら快適に操作できる。たまに認識ミスがあったとしても、スクリーンキーボードよりは楽だ。ただし、音声検索ができるのは、アマゾンが持っているタイトルだけのようだ。
ゲームは完全に期待外れだった
Fire TVではゲームアプリで遊ぶことができる。このゲームにも期待していたのだが、レースゲームなどは、グラフィックスが20年前のテレビゲームのよう。しかも、リモコンで操作するのはどう考えても無理があり、楽しくプレイできない。ゲームタイトルによるのだろうが、ちょっとプレイするたびに課金を促されるのには閉口した。
ゲームの画質は、間違いなくAndroid(アンドロイド)タブレットやスマホのほうが上だ。4K動画が見られる高画質のデバイスとして期待したのだが、ゲームには大いにがっかりさせられた。
動画配信を利用するならどれがいい?
Fire TVを試用してみて感じたのが、HuluやNetflixなどのネット動画を見るために手に入れるなら、結局のところ、Apple TVやChromecastなどを含めて、どのデバイスも大差ないということだ。ただ、Fire TVの動作は快適なので、おそらく数年間は陳腐化しないだろう。4Kに対応しているので将来性はバッチリ。そもそも、現時点で配信されている4Kのタイトルは多くはなく、レンタルビデオなどでもほとんどないのが実情だ。
実は、アマゾンプライム会員は、無料でアマゾンの動画配信が見放題になる。プライム会員にはFire TVは最適な端末だ。僕の場合、送料無料などに魅力を感じてプライム会員になっているが、ついでに動画も無料で見られるのはうれしい。ただし、タイトル数はHuluやNetflixに及ばないし、重複するものも少なくないことは覚えておいてほしい。
余談だが、個人的にはオリジナルのドラマが充実しているNetflixが、現時点では最も魅力的だと思っている。
1963年生まれのビジネス書作家。著書は120冊以上に上る。パソコンなどのデジタル製品にも造詣が深く、多数の連載記事も持つ。ユーザー視点の辛口評価が好評。
[日経トレンディネット 2016年1月12日付の記事を再構成]
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