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千葉県松戸市は小規模保育に力を入れる(野菊野保育園松戸ルームで)

千葉県松戸市は小規模保育に力を入れる(野菊野保育園松戸ルームで)

保育サービスを利用できない人がなかなか減らない。特に目立つのが、低年齢の待機児童だ。解消につなげようと2015年度から新たに少人数の子を預かる「小規模保育」を増やす制度が始まった。ただ、3歳からの預け先をどこまで確保できるか、課題は残る。

「いただきまーす。ああおいしい」。粘土でできた焼き鳥を、保育士がぱくぱくと食べるまねをする。つくった子どもたちはうれしそうだ。部屋の奥では、より小さな子どもが思い思いにブロックを楽しむ。

野菊野保育園松戸ルーム(千葉県松戸市)は0~2歳児を対象にした小規模保育の施設だ。JR松戸駅から徒歩数分という便利な場所にある。15年10月に開園し、17人が通う。

15年に松戸市に引っ越してきたばかりという飲食店勤務の女性(47)は2歳児の子どもを預ける。「毎日楽しいようで、寝る前にいつも保育園の話をしている。年度途中だったが入れて本当によかった」

保育士の資格を持つ女性(38)は3人きょうだいの一番下の子を預けると同時に、5年ぶりに仕事を始めた。「ここがなければ、子どもが小学校に上がるまで仕事を再開できなかったかも」と話す。

15年度から新しい子育て支援制度が始まり、小規模保育が自治体の認可事業になった。定員は最大19人で、マンションやビルの空き部屋などを使って比較的早く整備できる。NPOや企業、社会福祉法人など運営主体はさまざまだ。

松戸市はこれを待機児童解消の柱に据えた。15年4月には8カ所だったが、16年4月には計30カ所にまで増える。17年4月に向けさらに20カ所を整備する予定だ。

「待機児童になり復職できないと、仕事のキャリアに遅れが生じ収入も途絶えてしまう。2歳児は手がかかる時期でもあり、育児負担は重い。潜在的な待機児童を含め、しっかり受け入れていく必要がある」。松戸市の担当者はこう話す。

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厚生労働省のまとめでは、制度が始まった15年4月時点で、全国に1655カ所ある。埼玉、東京、大阪など都市部が中心だ。認可外の施設などから模様替えしたところもあるが、保育の受け皿として大きな役割を果たしていることが分かる。

ただ、小規模保育は2歳児までが対象だ。次の預け先が見つからなければ、待機児童の問題を先送りにしただけになってしまう。「3歳の壁」をどう突破するかは新たな課題だ。

新制度では卒園後の受け皿となる「連携施設」を設けるよう事業者に求めている。連携施設になれるのは、保育所、認定こども園、幼稚園だ。

19年度まで最大5年の猶予期間がある。ただ、決して容易ではない。NPO法人全国小規模保育協議会の15年秋の調査(102事業者が回答)では「3歳児以降の受け皿としての連携園が見つからない」ことを経営課題に挙げる事業者が5割いた。

都市部の保育所は人気が高く、2歳まで預かっている内部の持ち上がりで3歳児の枠は埋まりやすい。幼稚園は保育時間が短めなことが多い。保育方針が一致するかなどの課題もあり、あえて連携施設になろうという動機は弱くなりがちだ。

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「小規模保育は伸びしろが大きいが、連携園が見つからなければブレーキがかかってしまう。現状では連携を後押しする自治体と、そうではない自治体との格差が大きい。自治体が積極的に連携園の確保に取り組むよう、国は義務付けてほしい」。協議会理事長の駒崎弘樹さんはこう話す。

横浜市には88カ所の小規模保育がある。施設間の連携を後押ししようと、15年4月から保育所や幼稚園などに独自に補助を出している。だが取り組みは途上だ。「より積極的に仲介をしていきたい」(同市)

松戸市の場合、すべての小規模保育に連携施設がある。ただ卒園後の進路として連携先以外を希望する保護者もいる。同市は16年度は新たに、3~5歳児専用の保育所を整備する計画だ。また、預かり保育をする幼稚園への補助などを進め、3歳から通える場所を増やしていくという。

保護者にとって「3歳の壁」は大きな不安の種だ。保護者の団体、保育園ふやし隊@杉並(東京・杉並)のメンバーで会社員の増田宣佳さん(39)は長女(4)が当初、2歳児までの保育室にしか入れなかった。

幸い、15年4月から保育所に移れたが「2度目の保活(保育所探し活動)は働きながらになり、1度目とは違った大変さがあった」と振り返る。同会の15年の調査には「保育所に預けたい」「2人目を持つことをためらう」との声が多く寄せられた。

大事なのは地域に安心できる預け先が多くあることだ。自治体には地域の状況を踏まえ、きめ細かく対策をとることが求められる。

待機児童は2万3千人

新たに働きに出る女性が増え、保育サービスへの期待は高まっている。政府は当初、2017年度までの5年間で保育を40万人分増やす予定だった。だが「一億総活躍社会の実現」に向けた緊急対策として、これを50万人分に増やす方針を掲げた。

背景にあるのは、待機児童の多さだ。15年4月時点で約2万3千人と、5年ぶりに増加した。特に1、2歳児が目立つ。

このため小規模保育をさらに後押しする施策を打ち出した。

従来は既存の建物を改修する場合、費用を補助していた。15年度の補正予算から、建物を建てる場合も補助を出す。幼稚園が園庭を利用して小規模保育を始めることなどを想定している。

保育サービスを利用する1、2歳児の割合は15年4月時点で約38%だが、17年度末には48%に増える見通しだ。

(編集委員 辻本浩子)

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