変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

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人には一人ひとり個性があるうえに、新卒にしろ、中途採用にしろ、BCG(ボストンコンサルティンググループ)のような組織では、メンバーそれぞれのバックグラウンドも多様である。入社後、経験するプロジェクトの内容・性質、クライアントの状況や組織文化、一緒に働くマネジャーやメンバーなど、経験する環境もさまざまだ。そのため、成長の過程は一人ひとり大きく異なる。

しかし、多くのスタッフと接し、深く対話する中で分かってきたことがある。

個々のメンバーの背景や置かれた状況は異なるのに、成長のボトルネックをたどると、ある共通の要因が見つかることが多いのだ。そのポイントに本人が気づき、納得すれば、たいていの場合、"一皮むけ"、生き生きと伸びていく。

育成する側としては、そうした気づきを促す手助けができれば、スタッフの成長への突破口を開くことができる。これから紹介する、BCGの人材育成における2つの方程式は、こうした経験の蓄積を通して導き出された成長・育成の大原則のようなものである。

本連載では、2つの方程式の1つ目、「マインドセット(基本姿勢)+スキル」について述べる。まず、この方程式の背後にある、よく見られるボトルネックに対する著者らの観察と分析を紹介しよう。

この観察と分析から浮き彫りになったのは、スキルの「使い方」、そして、何にも増して、マインドセットの重要性だった。それを踏まえ、後半では"他人の答え"で仕事をする「フォロワー」を脱し、"自分の答え"で仕事をする「リーダー」になるために、どんなマインドセットが必要で、どうしたらそういうマインドセットへ変えられるのかを考えていく。

これから取り上げる現象は、コンサルティングに限らず多くの業界の組織で、育つ側、育てる側、双方の方々にとって思い当たるところがあるのではないかと思う。

●スキルマニアの2タイプ――コレクション型・突き詰め型

常に本を読んでいたり、会社の帰りや週末にはスクールやセミナーに通ったりして熱心に勉強。いつも忙しそうで残業も多い……。

一見仕事がデキそうに見えるのだが、仕事量はともかく、実際一緒に働いてみると、成果のアウトプットに対する貢献度は低い――そうした人は"スキルマニア"である可能性が高い。

こうしたスキルマニアには、よく見られるタイプ、傾向がある(図1‐1)。

1つは、本を読んだり、セミナーに出たりするだけで身につけられるノウハウを「集める」ことに注力するタイプである。

もう1つは、自分の関心のある特定のスキルのみをとことん追求して磨いているタイプ。たとえばデータベースソフトに詳しく、複雑なデータベースを作ることができる、といったような人だ。

前者は"コレクション型スキルマニア"とでも呼べばよいだろうか。エクセルやパワーポイント、アクセスなどのビジネス基本ソフトの使い方や、統計、財務、プログラミング、プレゼンテーションなどの具体的なスキル、さらには簿記、ファイナンシャルプランナーなどの資格、マーケティング分析手法や速読法などを次々と学んでいく。身につけたスキルを目に見える形でリスト化できるため、本人としては達成感なり、満足感を得ることはできる。必要に応じて履歴書などに習得したスキルを書き連ねることもできる。

しかしながら、そのスキルが仕事の面で有効に生かされているか、というとそうもなく、スキルリストを持っているだけにとどまっている場合も多い。

一方、後者は言うなれば"突き詰め型スキルマニア"。特定のスキルにおいては余人をもっては代えがたいという存在になり、周りからは重宝され、誰かの役に立つことができるため、これもある種の満足は生まれるだろう。

しかし、「いつ」「どこで」「何が必要か」を自分で判断することをせず、毎回、人の依頼を受けて作業を請け負う、いわば「便利屋」のように使われてしまうことも多い。

加えて、「成果への貢献≒本質的な成長」という視点で見てみると、コレクション型、突き詰め型、いずれのタイプにも大きな疑問符がついてしまう。

●とにかく不足を埋めたいチェックボックス・メンタリティー

若い人、特にビジネスにおける経験が浅い人ほど、スキルに依存する傾向が強い。履歴書に書けるようなわかりやすいスキルを増やすことに、自分の成長を投影してしまうのだ。

その結果として、「スキルを身につけること=成長」だと勘違いしてしまう。

何か仕事でうまくいかなかった場合、その理由を、「プレゼンテーションのスキルが足りなかった」「論理的思考力が欠けていた」「財務分析能力が弱かった」など、わかりやすい「何か」のスキルの欠如に求めてしまう。「このスキルが足りなかったために、うまくいかなかった」と、物事の因果関係がリニア(直線的)につながっていると考えてしまう傾向が強いのだ。

そして、次の失敗を回避するために、彼ら・彼女らは、プレゼンテーションや論理的思考、財務分析などに関する本を読んだり、セミナーに参加したりと、自分に不足していると思うスキルを強化しようとする。

こうして、チェックボックスを埋めるように、足りない(と思う)スキルをコレクションしたり、スキルを究めたりしようとするのが、スキルマニアだ。

うまくいかなかった理由の分析は必要だし、特定のスキルの不足は、失敗の要因の1つではあるかもしれない。しかしながら、著者らの経験では、特定のスキルが足りなかったことだけが、うまくいかない理由になることなど、ほとんどない。

逆に、特定のスキルを得たからといって、それだけで成功・成長できるほどにビジネスというものは甘くはない。結局は、いろいろ試行錯誤を繰り返し、結果的にうまくいったものが正解だし、そうしたプロセスを経ながら結果を出していくほうが次に生かせる学びも大きいのだ。

つまり、ビジネスにおける物事の因果関係はもっと複雑で、「AだったからBになった」「CがなかったからDができなかった」などと単純化はできない。さまざまな要因が複雑に絡み合って、何かの結果が生まれているのである。

このあたりの認識がズレていることが、成長に向けては大きな障壁になる。

●"優等生"ほど陥りがちな罠(わな)

スキルマニアの罠には、学生時代に"優等生"だったタイプが陥りやすい。

学校での勉強、具体的に入学試験では、「不合格」となる理由は点数が足りないからだし、それはたとえば、「英語のリスニングが弱いから」とか「物理の点数が低いから」など、原因も明らかだ。

「点数が低い」→「特に国語の長文読解が平均点に満たない」→「国語の長文読解を強化しよう」といった具合に、欠けた部分を強化し補えば成績は上がる。

こうした受験勉強的な考え方を仕事にも適用すれば、「足りないところを塗りつぶしていけば、最終的には絵が完成し、仕事ができるようになる」という幻想を持つようになってしまう。そして仕事ができない理由、あるいは仕事で評価されない理由をスキルの欠如に求め、さらにスキルを収集・追求するスキルマニアになってしまうのだ。

スキルマニアは、「欠如」したものを埋めていくという「足す」発想にとらわれている。しかし、それでできあがるのは、無計画に増築を繰り返したリフォーム建築物と同じだ。無駄なスペースがあったり、複雑になりすぎて人が迷ってしまったりする。シンプルで調和のとれた、使いやすい建物にはならない。

スキルを増やすことや個別のスキルを究めることは、必ずしも「成長」ではない。それは単なる"型"や"術"の習得にすぎない。

新入社員やごく若手の頃は、スキルの習得によってチームや会社に貢献できるようになるため、それを成長と捉えてもよい。しかし、それで通用するのは最初のほんの数年間のことでしかない。

いつまでもスキルの収集・習得にばかり着目しているのでは、スキルマニアから抜け出せないし、本当の意味での成長と言える、成果への貢献度合いを上げることにはつながらないのである。

●「守」から離れられない人

誤解のないように言っておくと、スキル("型"や"術")を身につけること自体は悪いことではなく、むしろ必要なことである。

日本の伝統的な武道や芸道などには、その「道」を究めるうえでたどる段階を表す「守破離」という言葉がある。

その第一歩は「守」である。これは、基本を守って、学んだ通りの型を習得する段階を示している。つまり、最初は"型"を学ぶことが重要なのは間違いない。これは、仕事においても最初の数年はスキルの習得に意味があるということと合致する。

「守」の段階を過ぎると、次は「破」「離」と進んでいく必要がある。

「破」は、学んだ型を基本として、自分で考えた「いいもの」を取り入れ発展させること。そして「離」では、自分自身の型を作り出すことを示している。

しかしながら、チェックボックス・メンタリティーにとらわれたスキルマニアは、最初の「守」にとどまってしまう。いくらスキルの数を増やしても、結局は「守」の域から出られないからだ。

[2016年1月29日公開の日経Bizアカデミーの記事を再構成]

木村 亮示(きむら・りょうじ)
BCG東京オフィス パートナー&マネージング・ディレクター
京都大学経済学部卒業。HEC経営大学院経営学修士(MBA)。国際協力銀行、BCGパリオフィスを経て現在に至る。幅広い業界のクライアントに対して各種事業戦略の策定・実行支援、新規事業立ち上げ、トランスフォーメーション(構造的改革)などのコンサルティングを行っている。BCGジャパン 人事/人材チームの総責任者として、コンサルティングスタッフの育成、採用、人材マネジメン卜などを統括している。アジアパシフィックの採用チームリーダーも務める。
木山 聡(きやま・さとし)
BCG中部・関西オフィス パートナー&マネージング・ディレクター
東京大学経済学部卒業。伊藤忠商事株式会社を経て現在に至る。広範な業界のクライアントに対して各種事業戦略、新興国戦略の策定・実行、トランスフォーメーション(構造的改革)、ガバナンス改革等の支援を行っている。BCG中部・関西オフィスの社内マネジメン卜を統括するとともに、BCGジャパン 人事/人材チームのコンサルタン卜育成委員会のリーダーとしてコンサルティングスタッフの育成に携わる。

BCGの特訓 ―成長し続ける人材を生む徒弟制

著者 : 木村 亮示, 木山 聡
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,728円 (税込み)

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