健康・医療

日経実力病院調査

膀胱がんの実力病院 進行性でも温存療法 (日経実力病院調査)

2016/2/28

内視鏡を使って膀胱がんを切除する(福岡市の原三信病院)

 60歳以上の男性に多いのが膀胱(ぼうこう)がんだ。大部分は早期の段階で見つかるが、進行すると膀胱の摘出などが必要になる。日本経済新聞の「実力病院調査」では、進行がんでも放射線と抗がん剤を併用して膀胱を温存したり、精度向上のため支援ロボットを活用したりと先進的な取り組みがみられた。生活の質を高めようと術後ケアに積極的な病院もある。

 国立がん研究センターによると、2015年に新たに膀胱がんと診断されたのは推定2万1300人。男女比は3対1で、60代以上が多い。罹患(りかん)者は大腸がんや肺がん、胃がんの6分の1程度だが、高齢化で増加傾向という。

■喫煙が最大の原因

 最大の原因は喫煙とされる。膀胱は内側から粘膜、筋肉層、しょう膜(他の臓器との隔壁)の3層構造。尿中の発がん性物質が常に粘膜と接触することでがんができる。初期症状としては血尿が多い。

 粘膜にできたものは表在がんといい、膀胱がんの8~9割を占める。尿道から内視鏡を入れ、粘膜表面のがんを切除するのが一般的だ。ただ再発を繰り返すケースが多く、抗がん剤の投与などで再発を予防する。

 さらに筋肉層にまで入り込むと浸潤がんになる。血管やリンパ管によって転移しやすくなるため、より注意が必要だ。今回の調査で「手術あり」が339例と全国2位だった原三信病院(福岡市)の山口秋人副院長は「浸潤がんは膀胱を全部取らないと転移して致命的になる」と指摘する。

 同病院はあらかじめ2種類の抗がん剤を投与し、開腹手術によって骨盤内のリンパ節なども含めて摘出する方法を重視してきた。小さながんをたたいておき、手術での患者への負担や再発を減らす狙いだ。2010年まで10年間に実施した全摘手術は109例。5年生存率は平均で7割近くと、一般的な生存率とされる約6割に比べ高い。

広島市立広島市民病院は手術支援ロボット「ダヴィンチ」を膀胱がん手術に使う

 一方、調査で「手術あり」が238例と全国7位だった広島市立広島市民病院は年間20~25例の全摘のうち、半分は腹腔(ふくくう)鏡手術だ。先端にカメラがついた腹腔鏡と、メスなどがついた器具を腹に開けた穴から入れてがんを切除する。同院泌尿器科の雑賀隆史主任部長は「出血が少なく、手術時間も短い。合併症のため出血を減らしたい患者や高齢者に実施することが多い」と説明する。

 昨年から最新の手術支援ロボット「ダヴィンチ」も使い始めた。へそ付近を5センチほど切り、おなかの両側には1センチの穴を6カ所開け、操縦席で3次元モニターに映った患部を見ながら、挿入した腹腔鏡を遠隔操作してがんを取り除く。

 雑賀主任部長は「細かな操作がしやすいのでがんをきれいに切除できる」と話す。ただ膀胱がんでは保険が適用されておらず、入院などを含めた治療費は200万円になるという。

■術後患者交流の場

 膀胱を取ると尿をため、出すことができなくなり、尿の通り道を変えるか、新しく作り直す必要がある。切り取った腸で通り道を作って脇腹に採尿バッグを取り付ける方法や、小腸の一部を袋状に縫って代用膀胱とする手段がある。

 採尿バッグは見た目が気になり、一時的に落ち込む人もいる。代用膀胱は尿がたまった感覚がわからず、失禁する場合もある。このため国保旭中央病院(千葉県旭市)はこうした患者を対象に、病院主導で会合を年1回開催。日常生活での悩みや使いやすいトイレの場所などについて話し合う。泌尿器科の中津裕臣主任部長は「貴重な情報交換の場になっている」と話す。

■大阪医科大病院、薬剤・放射線併用で好成績

 今回の調査で「手術あり」が全国1位の454例だった大阪医科大病院(大阪府高槻市)は「手術なし」も165例で2位。25年前から放射線と化学療法を併用する独自の膀胱温存療法を実施し、手術をしない治療にも力を入れる。

 この方法は風船付きの管を動脈に入れ、膀胱への血流を風船でいったん止める。膀胱内には管から高濃度の抗がん剤を注入、筋肉層や周辺組織に行き渡らせる。膀胱から心臓に至る血液はカテーテルを通じ、体外で透析して抗がん剤を取り除いた上で体内に戻す。

 通常の点滴などと違って全身に抗がん剤がまわらず、膀胱内だけに投与できる。高齢者や腎臓が悪い人でも治療できるという。

 投与後には放射線を1日1回、6週間で計30回照射する。自由診療で入院も含めた治療費は約90万円かかるが、膀胱摘出を望まない人が海外からも来院するという。

 同大学病院腎泌尿器外科の東治人教授は「膀胱を残すためというより、全摘より生存率が高いので実施している」と説明する。がんが膀胱の筋肉層に入ったばかりの段階なら5年生存率は約92%で、筋肉層に深く入って転移が見られる段階でも約75%という。

(次回は3月6日に大動脈瘤のデータを公開する予定です)

 【調査の概要】調査は(1)症例数(診療実績)(2)医療の質や患者サービス(運営体制)(3)医療従事者の配置や医療機器などの設備(施設体制)の3つの視点で、病院選びの際に参考となる情報を、インターネット上の公開データから抽出して実施した。
 ▼診療実績 厚生労働省が2015年11月に公開した14年4月~15年3月の退院患者数を症例数とした。病名や手術方式で医療費を定額とするDPC制度を導入した1584病院のほか、導入準備中やそれ以外も含め全国の計2942病院を対象にした。症例数の前の*は0~9例の誤差あり。「-」は0~9例。
 ▼運営体制 公益財団法人「日本医療機能評価機構」(東京)が病院の依頼で医療の質や安全管理、患者サービスなどの項目を審査した結果を100点満点で換算。点数の前に*があるのは13年4月以降の評価方法「3rdG」で審査された病院で、各項目をS=4点、A=3点、B=2点、C=1点として合算、100点満点に換算した。
 ▼施設体制 医療従事者の配置や医療機器などについて、厚労省が定めた診療報酬施設基準を満たしたとして各病院が届け出た項目などを比べた。15年9~10月時点での届出受理医療機関名簿を集計した。

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