世界の食品廃棄は年13億トン、国連は半減を約束
地球上には飢えに苦しむ人が8億人近くもいる一方で、国連食糧農業機関(FAO)によれば、世界では年間13億トンもの食品が食べられることなく捨てられているという。これは全世界で生産されている食品の約3分の1に相当する。飢えた人の倍以上の人々に食事を提供できるほどの量だ。
食品はいつ捨てられる?
これだけの食品が、一体どこへ消えてしまうのだろう? 途上国では、適切な貯蔵施設や十分な道路網、冷蔵設備の不足が原因で収穫後に多くが失われる。一方、先進国では、生産から消費に至るまでの供給プロセス「フードチェーン」の後半段階で、より多くの食品が廃棄される。小売業者が売りきれないのを承知で大量に仕入れて、店頭に陳列している場合もあれば、消費者が冷蔵庫にしまったままにしたり、消費期限前に捨てたりする場合もある。
食品廃棄は、環境にも悪影響を及ぼす。誰にも食べられなかったとしたら、その食品を作るのに使われた水や肥料、農薬、作物の種子、燃料なども無駄になる。その量は半端ではない。たとえば、世界中で1年間に廃棄される食品の生産に使われる水の量は、ヨーロッパの大河ボルガの年間流量に匹敵するのだ。
食品廃棄をなくす活動を続けている英国の活動家トリストラム・スチュアートは、著書『世界の食料ムダ捨て事情』のなかで、地球の資源には限りがあり、2050年までに人口が少なくともあと20億人増えるという予測を紹介。そんな状況で、食品を無駄にすることは言語道断だと述べている。
「規格外」であふれるケニアの生産現場
3年前、スチュアートは、国連環境計画(UNEP)が食品廃棄の問題に注目してもらうために開いた晩餐会に向け、1週間かけてケニアの農村部を駆けずり回り、食材を集めていた。その途中、首都ナイロビから150キロほど離れた場所で、彼はある野菜生産者に出会う。ヨーロッパで定められている外観上の規格に合わないという理由で、その人は毎週、ブロッコリーやサヤインゲン、スナップエンドウ、ベニバナインゲンを合わせて約40トンも廃棄しているという。実に25万人分の量だ。
それから1年もたたないうちにスチュアートがテレビ取材班とともにケニアに戻ってみると、生産された農作物の半分近くが規格外という理由で出荷されなかったり、規格に合ったサヤインゲンも包装用の袋に入るように両端を切り落とされたりしていた。また、出荷直前になって、発注元のスーパーマーケットが何の補償もせずに、注文をキャンセルすることが当たり前のように行われているのを知る。
スチュアートの活動母体「フィードバック」は、廃棄された豆類の画像を公開し、スーパーマーケット各社が立場の弱い生産者にコストを押しつけていると糾弾。すると、英国の食品小売業者たちはようやく話し合いに応じ、注文取り消しのコストを負担すること、包装用の袋を長くすることに同意した。これで、サヤインゲンは片端だけを切り落とせばよくなった。
2030年までに食品廃棄を半減へ
2015年は食品廃棄の問題にとって、重要な転換点になったといえそうだ。この年、国連は廃棄される食品を2030年までに半減させると約束した。この野心的な目標をどのように達成するか、まだ具体的なプランはないものの、すでに各国政府や各企業は、食品廃棄を定量化する方法を考案したり、適用したりしている。この目標が達成されれば、少なくとも10億人分の食品が無駄にならずに済む。
(文=エリザベス・ロイト、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2016年3月号の記事を再構成]
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