「レヴェナント」… 混戦?米アカデミー賞を占う
「レヴェナント」「スポットライト」「マネー・ショート」……。粒ぞろいのノミネート作品が各賞を分けあう混戦か。28日(日本時間29日)に発表される米アカデミー賞を評論家2氏と占う。
混戦の作品賞の本命はゴールデングローブ賞を制したアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督「レヴェナント/蘇えりし者」。1823年、北米の未開拓地でクマに襲われて重傷を負い、仲間に置き去りにされた男が生還する。米開拓時代の不屈の男のドラマを鮮烈な映像で描き出す。
これを追うのがトム・マッカーシー監督「スポットライト/世紀のスクープ」。ボストンの地方紙の記者たちが、カトリック教会が組織ぐるみで隠蔽したスキャンダルを追い、世界的スクープを打つ。実話に基づき「強い者に立ち向かい、巨悪を暴く。米国映画らしいドラマ」と映画評論家の渡辺祥子氏。
映画評論家の芝山幹郎氏はアダム・マッケイ監督「マネー・ショート/華麗なる大逆転」を推す。リーマン・ショックを引き起こしたサブプライムローンの焦げ付きを予想し、金融商品の空売りで大もうけした型破りの男たちを描く。「狂奔する金融システムにクレージーな個人が勝つ。深刻な題材をコメディーにするのはエルンスト・ルビッチやプレストン・スタージェス以来のハリウッドの伝統」と芝山氏。
昨年はイニャリトゥの「バードマン」が作品賞と監督賞を制した。アカデミー会員に2年連続の受賞を避けようとする投票心理が働くかもしれない。
そうなると監督賞は「マッドマックス/怒りのデス・ロード」のジョージ・ミラーか。「パワフルで女性の使い方が抜群」と渡辺氏。昨年5月公開でまだ賞レースに残っているのは作品の力と支持の厚さゆえだ。
主演男優賞は「レヴェナント」のレオナルド・ディカプリオが有力。「ハリウッドを背負う俳優」(渡辺氏)は過去、主演で3度、助演で1度候補となりながらオスカーを手にしていない。「リリーのすべて」で性別違和の主人公を演じたエディ・レッドメインの評価も高いが、これも「2年連続」がハードルになる。
主演女優賞は「ルーム」で息子と共に監禁された母親を熱演した若手ブリー・ラーソンが本命。芝山氏は同じ若手でも「より控えめで、玄人好みの芝居をしている」と「ブルックリン」のシアーシャ・ローナンを推す。「キャロル」で改めて演技力を示したケイト・ブランシェットも有力。渡辺氏はあえて「さざなみ」のベテラン、シャーロット・ランプリングを挙げた。
助演男優賞は「クリード/チャンプを継ぐ男」のシルベスター・スタローンが最有力。助演女優賞は渡辺氏、芝山氏とも「リリーのすべて」のアリシア・ヴィキャンデルを推す。米林宏昌監督「思い出のマーニー」が候補の長編アニメ賞は、ディズニーの「インサイド・ヘッド」が強そう。
多くの作品が入り乱れる混戦模様となったのは「質が高く、粒よりの作品が集まったから」と渡辺氏。「難しい状況をものものしく描く映画と、さらっとユーモア混じりに描く映画に2分できる」と見る芝山氏は、前者に「レヴェナント」「ルーム」、後者に「マネー・ショート」「ブルックリン」を挙げ、あえて後者を支持するという。
俳優賞候補にアフリカ系・アジア系がいないこと、作品賞候補に性的少数者を描く「キャロル」「リリーのすべて」が漏れたことなど物足りなさもあるが、それも含めて受賞結果には今のアメリカが映りそうだ。
(編集委員 古賀重樹)
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