マネー研究所

老後貧乏防ぐ個人型DC

最強の投資優遇税制で「じぶん年金」づくり 編集委員 田村正之

2016/2/18

 厚生労働省の予測では2050年には女性の4人に1人が98歳まで生きる。「人生100年時代」だ。老後資金はそれだけ長く必要になっているのに、公的年金は実質減額が見込まれ、「老後貧乏」のリスクが高まっている。それを防ぐ重要な手段の一つが、「最強の投資優遇税制」ともいわれる個人型確定拠出年金(DC)を使いこなすことだ。

■老後資金を積み立てると税金が還付

 あなたがこんな誘いを受けたらどうだろう。「老後に備えてお金を積み立ててください。そうすると、積み立てたお金とは別枠で、最高でその金額の55%をあなたに返してあげますよ」

 普通はこんな「おいしい話」には乗らない方がいい。だいたい詐欺だからだ。しかしほぼこの通りの「おいしい話」なのが、個人型DCという国の制度だ。

 個人型DCで毎月2万3000円を積み立てている都内の会社員、沖雅之さん(40)は12月の年末調整で6万円弱が還付された。さらに今後、住民税が2万円強軽減される。合わせて約8万2800円の節税だ。沖さんは「資産形成しながら税金が減るのはうれしい」と話す。いったいどういう仕組みなのか。

 個人型DCは、預貯金や投信などの運用先を自分で選び、その成績によって将来の年金受取額が決まる制度(表A)。現在、自営業者などと、会社員のうち勤め先に企業年金のない人(会社員の約6割)の合計4000万人が加入できる。国会で審議中の改正法案が成立すれば、17年からは専業主婦や公務員、勤め先に企業年金のある会社員も対象になる。

 公的年金は財政難で、インフレ率ほどには支給額が上がらない「マクロ経済スライド」の実施などで実質減額が見込まれる。そうした中で国は個人型DCを「自助年金の柱」として明確に位置付けた。それが法改正の趣旨だ。

 個人型DCの最大のメリットは掛け金の全額が所得控除(税金の対象から差し引かれる)になること。掛け金の上限額は自営業者などが年81万6000円、会社員は同27万6000円だ。税金は収入から様々な控除を引いた課税所得に税率をかけて決まるので、所得控除が増えれば課税所得が減り節税になる(仕組みは図B)。

 表Cは課税所得や掛け金ごとの節税効果。節税額は掛け金に自分の上限税率をかければ計算できる。掛け金が大きいほど、所得(税率)が高いほど節税額は増える。課税所得500万円の会社員(税率は所得税20%・住民税10%の計30%)が、掛け金の年間上限である27万6000円で計算すると節税額は1年に8万2800円、20年では約166万円にもなる。

 所得税と住民税合計の最高税率は現在55%。冒頭の「おいしい話」を享受しているのが08年から個人型DCを使って国内外の株式投信で運用している大阪の開業医、山田直人さん(仮名、49)。収入が多く上限税率は55%だ。自営業者の掛け金の上限である年81万6000円を積み立てているので、年に40万円強の節税になっている。「これまで累計300万円以上、税金が減りました」

 自分はどれくらいの節税になるのか簡易的に知りたい場合は、確定拠出年金教育協会のサイト「個人型確定拠出年金ナビ」(http://www.dcnenkin.jp/)が便利だ。

 年齢、年収、毎月積み立てる掛け金の額を入力すれば、将来の税負担の軽減額が試算できる。「30歳、年収600万円、毎月2万3000円」なら、60歳までの節税効果は「約248万円」だ。

■活用はわずか0.6%

 税制メリットはこうした拠出時だけではない。個人型DCは運用期間中も売却益や分配金は非課税。60歳以降の引き出し時は一時金か年金が選べる。それぞれ退職所得控除や公的年金等控除という優遇策があるので、引き出し時も税金はかからないか少額ですむことが多い。

 14年から始まった少額投資非課税制度(NISA)は元本年100万円までの売却益や配当は非課税だが、掛け金の所得控除はない。「総合的に見てメリットは生保の個人年金やNISAより個人型DCが大きい」(税理士の柴原一氏)。まさに最強の投資優遇税制だが、加入者は約24万人(15年11月時点)と、現在使える人の0.6%。有利さが知られていなかったためで、「隠れた投資優遇税制」ともいわれるゆえんだ。

 知られていなかった最大の理由は、金融機関にとっての利幅が薄くPRに消極的だったこと。しかし法改正で対象者が大きく拡大するのを受け、運用対象の品ぞろえを強化したりそな銀行など、積極的に取り組む金融機関も現れ始めている。

 「米国での類似の仕組みであるIRA(個人退職勘定)も加入者が限られていた時代は伸びが小さかったが、途中から原則、全国民が対象になった以降は急速に広がった」(バンガード・リタイヤメントリサーチセンター所長のステファン・アトゥカス氏)。日本でも同じことが起き、今後は景色ががらりと変わる可能性がある。

 個人型DCは60歳まで引き出せない。しかし「老後資金作りには、引き出せないのはむしろ長所」(金融ジャーナリストの竹川美奈子氏)。老後資金は個人型DC、教育資金や住宅資金は途中で引き出せるNISAと使い分ける手もある。

■金融機関は玉石混交

 NISAと違い個人型DCは預貯金も対象。預貯金を選べば投資リスクを負わずに節税効果だけを得られる。ただし、本来は老後までの長期間、運用益の非課税を生かして投信で資産を殖やしていくのがおすすめだ。運用期間中、ずっと非課税になるメリットの大きさは次回で検証する。

 個人型DCは自分で銀行や証券会社などの運営管理機関(運管)に申し込む。運管は200近くあるが、「手数料や投信の品ぞろえなどは玉石混交」(確定拠出年金教育協会の大江加代主任研究員)。

 要注意なのは、玉石混交のうち、手数料が高く投信の品ぞろえも悪い「石」の方の金融機関が大部分といってもいい状況であることだ。どの金融機関を使うかが個人型DCの成果を大きく左右するので、慎重な検討が必要だ。

 どの金融機関が自分に合っているかは、積立額や運用したい中身などで変わる。今後、この連載のなかで詳しく見ていきたい。

老後貧乏にならないためのお金の法則

著者 : 田村 正之
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,620円 (税込み)

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