「本気のイメチェン」プレミアム自動車ブランドの価値
イマドキの"ちょっといいクルマ"ってどういうものなのだろう。
不思議なのは「クルマ離れ」といわれつつも、自動車プレミアムブランドの攻勢が止まらないことだ。日本の乗用車販売における輸入車比率は最近再び増え始めて10%に近づき、中でもメルセデス・ベンツは2013年上陸の新型「Aクラス」以来快進撃を続け、2015年は輸入車NO.1ブランドとなった。BMWは2014年に自らのガンコなオキテを破って初のFFコンパクト&ミニバンシリーズを生み出した。どれもが世界で注目される新興リッチ層狙いだ。実際、日本でも若い30代をはじめ、新たなプレミアムカーを買う層、消費行動が目立ちはじめている。
気鋭の自動車ジャーナリスト、小沢コージがイマドキのちょっといいクルマの真実を追う。
メルセデスが、BMWが変わった!?
「最近、ディーラーに来る客層が変わりましたね。国産車ユーザーの買い替えはもちろん、買われてから『俺もメルセデスオーナーだ』と自信満々な様子で来る方も多くて」
きっかけはこのセールスマンの一言かもしれない。
今、プレミアムな自動車ブランドが面白い。
例えばメルセデス・ベンツ。その昔は"ベンツ"と呼ばれ、一流プロ野球選手やプロゴルファー御用達でセレブの象徴だった。それが2000年前後の"小ベンツ"こと「Cクラス」でサラリーマンのメルセデスに変わり、2013年にオキテ破り的にワイルド&セクシーなスタイルになったFFコンパクト「Aクラス」の登場で再び変わった。価格は200万円台後半に突入。今度は30~40代の子育て層まで買うようになったのだ。
なにしろアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」と同じキャラクターデザイン作家を起用したアニメーションまで作ってしまったのだ。それも「幻のラーメンを追いかけるメルセデス」をテーマにだ。昨年もコンパクトハッチバックモデルの「Aクラス」のマイナーチェンジで、Perfumeとのコラボまで始めてしまった。
同様なのがBMWである。おととし初のFFコンパクト、「2シリーズ アクティブ ツアラー」と同ミニバン「2シリーズ グラン ツアラー」を発表。今まであり得なかったMr.Childrenの歌をCMソングに起用して、これまたかつてのBMWではあり得なかった実用性を備えて驚かせた。高級FR車専門メーカーが、実用的なFF大衆車を造って、しかも、Jポップのミスチルを持ってきたところに、BMWジャパンの本気のイメチェンを感じたのだ。
さらにボルボだ。今やミディアムセダンの「S60」からワゴンの「V60」、コンパクトクラスの「V40」などすべてにディーゼルエンジンを搭載。それだけじゃなく、かつての四角いボルボはどこにいったの?というほどスタイリッシュかつ質感が高くなっている。
女子高生がヴィトンのバッグを持つように…
そう、今プレミアム自動車ブランドは価値を変えてきている。クルマの売れ方が、変わり始めているのだ。まるで女子高生がヴィトンやグッチのカバンを当たり前に提げ、使いこなすように。
それは決して日本だけの現象ではない。上海、バンコク、シンガポール……、新興国での消費が増えるに従い、ハイブランドは昔のようなスタイルだけではやっていけなくなり、そもそもやる必要がなくなってきた。
ついにブランドをカジュアルかつファンキーに使いこなす時代がやってきたのだ。それはファッションも自動車もまったく同じである。今後、自動運転の進化以上に自動車ブランドは価値を変え、新たに人々の間に入り込んでいくに違いない。
それをこのシリーズでは追いかけていきたいと思っている。
(自動車ジャーナリスト 小沢コージ)
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