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13年後の失恋… かわいすぎる、すごいアイツ

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NIKKEI STYLE

はじめまして。第1回の「枕投手」の私は、立川談笑の2番目の弟子の立川笑二(たてかわしょうじ)です。師匠と兄弟子の吉笑(きっしょう)とともに始まったこの『まくら投げ』。投げつける相手は師匠か兄弟子か読者のみなさまなのか。探り探りの第一投! えいっ!

私の通っていた学校に"すごいアイツ"は沢山いた。

小学生のころにいっしょだったトシキ君は野球少年だった。小学1年生のころから甲子園に出ることを目標に毎日練習を頑張っていた。そして高校3年生の夏に、彼は本当に甲子園に出場し、レギュラーとして活躍。彼の高校はベスト8まで勝ち進んだ。プロになるつもりは元からなかったらしく、現在、彼は消防隊員として頑張っている。

中学から高校まで一緒だったシュンタロウ君は、中学2年生のころから自らバンドを結成して活動していた。文化祭等の学校のイベントで彼らのバンドが演奏を始めると、音楽にまったく興味がなかった私でも引き込まれたし、体育館中が盛り上がった。現在、彼は「Heloo Sleepwalkers」というバンドでメジャーデビューを果たし、深夜アニメのエンディング曲を任されていたり大活躍している。

この2人とは少し違うが、ユウキ君という"すごいアイツ"もいた。彼は中学生のころ、深夜の閉店しているスーパーのガラスを割って店内に侵入し、お店の商品であるお酒をその場で飲みだし、その場で泥酔、その場で就寝。翌朝、その場でお巡りさんに捕まってしまうという、ある意味すごいやつだった。現在、彼はどうなっているか。全く知らない。あまり知りたいとも思わない。

そんな沢山いる"すごいアイツ"の中でも強烈に覚えているのが、同級生のナリミさんだ。私はナリミさんと、小学校、中学校、高校と地元の同じ学校に進学したのだが、彼女は、かわいすぎる"すごいアイツ"だった。

彼女はいつでも学校中の人気者で、彼女と同じクラスになった男子生徒は良いところを見せたいという一心で一年中張り切った。そのため、彼女と同じクラスになった男子生徒はもれなく授業態度が良くなり、成績は上昇し、校庭に野良犬が入ってきても平静を装い、合唱コンクールの練習では女子に「男子、ちゃんと歌ってよ」と言われることもなく自ら歌い出した。彼女はそうさせてしまうぐらいの人気者だった。

私の初恋の相手は、そんな彼女だった。

私が小学5年生のころ。同じクラスになり、あまりのかわいさにいてもたってもいられずに、その思いをぶつけるようにラブレターを書いて、彼女に渡した。

当時の自分なりに「つき合ってもらえるはずはないが、気持ちだけは伝えたい」というつもりで渡したのだが、その翌日から彼女に会うのが怖くなった。好きな人に振られたくない。単純に、そう思ったからだ。

そこから、色々と考えた結果、当時の私の脳ミソはどうせ振られるのは分かっているが、振られたという事実を受け入れたくない。

どうやったら振られないで済むのか?

そうか! 返事を聞かなければいいのか!

よし! 彼女をずっと避け続けよう!

という、狂った方程式から最もアホな答えを導き出した。

そして実際に、小学5年生の告白した翌日から高校を卒業するまで私は彼女と一切しゃべることはなかったのだから、我ながらあきれてしまう。

その、アホの告白事件から13年後の2014年6月。私は師匠立川談笑の下での前座修業を終えて、「二つ目」という立場に昇進した。

前座修業中というのは落語家未満の立場であり落語家ではない。その修業を終えて、二つ目になってから初めて世間に対して「俺は落語家だ」と胸を張って言うことができるようになる。また、私の場合は沖縄県出身者として初の落語家というオマケもついてきた。

そのうれしさを私は本名の知花弘之として地元の友達だけを相手にやっているフェイスブックにこう記した。

「立川笑二として前座から二つ目という立場に昇進することになったよー! 沖縄初の落語家らしいよ! 沖縄でも落語会やれるように頑張るから、そのときは絶対に来てね!」

すると、フェイスブック上でも友達関係になっていなかったナリミさんから、まさかのコメントがついた。

「落語家になったんだね! すごい! 沖縄来るときは教えてよ! 応援してるから頑張ってね!」

このコメントを読んだ私は、告白した後ずっと彼女を避け続けてしまったことに対してとても申し訳なく思った(遅すぎるけど)。

そこからすぐに、彼女との共通の友人から彼女のメールアドレスを聞いて、当時のことを謝罪した。

「フェイスブックへのコメントありがとうございます。昔のことなので覚えていないかもしれませんが、小学5年生のころ、僕はあなたにラブレターを渡しました。でも、あなたに振られてしまうのが怖くて、結局、高校を卒業するまで、あなたのことを避け続けてしまいました。そのことを謝りたくてメールしました。当時は本当にすみませんでした。覚えていないのでしたら、無理に思い出そうとせずに、そのまま忘れてください。返信不要です」と。

最後に「返信不要です」とつけて、返信がなくても自分が傷つかなくて済むように小細工しているあたり、当時から何も成長していないような気もする。

ただ、ここから予想外の展開となった。5分後に彼女からの返信が来たのだが、その返信メールには……。

「告白されたの覚えてるよ! 忘れるわけないじゃん! 今もそのラブレター持ってるよ!」

という文章とともに、画像ファイルが添付されていたのだ。恐る恐るそのファイルを開けてみると、案の定、それは13年前に私が渡したラブレターの画像だった。

時がたったことで忘れていたのだけれど、当時の私は、ラブレターを書くのに400字詰めの原稿用紙を使って、それを茶封筒に入れて渡していたらしい。

この世から消えてなくなりたいと思いつつ、急いで返信。

「覚えていてくれてありがとうございます。ただ、もしよろしければ、そのラブレターは破棄していただけると助かります」

すると彼女から。

「捨てたりしないよ! 私も、ずっと弘之に返事が言えなくてモヤモヤしていました。今の私には彼氏がいるのですが、当時の私として返事をしてもいいですか?」

とのメールが!

うれしいやら、恥ずかしいやら、当時の自分をぶん殴りたいやら、励ましてやりたいやらで、色んな感情があふれてきて思わず泣きそうになった。

それでも、涙をこらえながら、彼女への返信メールでは冷静を装って、

「なんか照れますね(笑)。それでは僕も当時の僕に戻りますので、返事を聞かせてください。ナリミさん、付き合ってください!」

と送ると彼女から直ぐに返ってきたメールは、シンプルに1行。

「ごめんなさい」

涙が止まらなかった。

僕が13年間振られるのが嫌だったのと同じように、彼女もまた13年間僕のことを振りたかったのかもしれない。

かわいすぎる"すごいアイツ"から見た私は、勝手に告白してきて勝手に逃げ回っている、気持ち悪すぎる"すごいアイツ"だったのかもしれない。

(次回24日は立川吉笑さんが登場します)

立川笑二(たてかわしょうじ)。1990年11月26日生まれ。沖縄県読谷村出身。2011年6月に立川談笑に入門。前座時代から観客を爆笑させ評判に。14年6月、二つ目に昇進。出囃子は「てぃんさぐぬ」。立川談笑一門会(2月21日、3月25日)のほかにも、立川吉笑、立川笑坊ら一門、立川流の若手といっしょに頻繁に落語会を開いて研さんを積んでいる。ホームページは、http://tatekawashouji.com/

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