変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック

「入社面接は恐怖の一言です」。2016-17年に就職本番を迎える大学3年生のこんな思いを救おうと、学習院大学や中央大学のOB・OG数百人が、母校で面接のノウハウを教える特訓セミナーの講師を買って出ている。面接の疑似体験を重ねさせ、本番で全力を出せるようにするのが目的で、他大学は強い関心を寄せている。

学習院と中央大、疑似体験重ねノウハウ伝授

連休の1月10日午前8時すぎ、東京・豊島の学習院大学に、20~60代の企業人OB・OG316人が勢ぞろいした。彼らは同大学キャリアセンターが毎年開く3年生向け「面接対策セミナー」の講師だ。3、4人で班をつくり2日間にわたり希望学生1297人に面接の稽古をつける。

ある教室では投資顧問会社の課長、春日倫さん(45)と日本ホテル(東京・豊島)係長の平山寿美枝さん(34)が学生と相対していた。春日さんが最初に与えた課題は「手短な自己紹介」。学生の答えは「自分はハングリー精神では負けない」「好奇心と行動力があり努力を惜しみません」など抽象的だ。

学生の言葉が一巡したところで春日さんが口を開く。「あなたたちの自己紹介にはPRが織り込まれていない。性格説明だけでなく、自分の学生時代の軸になる体験は何かを分析し、その軸に結びつけて具体的にPRすること」。平山さんもさらりと指摘した「『自分は』は学生言葉。社会人は『私』か『わたくし』を使う」。

2日で学生が体験する面接はグループ討議、集団、個人など6~7回。「現段階の学生は自分に何が足りないのか分かっていない。彼らが自分を知り、明日から何をすればよいか理解させることがゴール」(平山さん、春日さん)。自己理解と面接スキルの2方向の向上が狙いだ。

中央大学は卒業生を講師に据えた2種のセミナーを開いている。1泊2日の合宿セミナーと、大学で2日間開く「面接力UPセミナー」だ。同大キャリアセンターキャリア支援課長の池田浩二さんは「合宿は自己分析、面接力UPセミナーは自己表現力の伝授を狙っている」と話す。合宿セミナーは講師10人と学生120人、2月中に開く面接力UPセミナーは講師50人と学生400人の規模だ。

学生の面接指導を行うために集まった学習院大学のOBら(東京都豊島区の学習院大学)

学生の面接指導を行うために集まった学習院大学のOBら(東京都豊島区の学習院大学)

中央大の面接指導は1981年に始まった洋上セミナーに端を発し、95年に合宿セミナー、12年から面接力UPセミナーを加え、形を変えながら続いてきた。「いずれも30~40代の卒業生が後輩のために手を上げて講師になる。所属企業で活躍している人が多い」(池田さん)。大学は講師の能力を見極めたり、学生に人気の企業のOB・OGの参加を呼びかけたりして、水面下で努力している。現在はセミナーの種類に応じ約160人の現役企業人と協力関係を保つ。

学習院大の面接対策セミナーが始まったのは91年、講師6人、学生45人で始まった。草創メンバーで、当時企業勤務だった大学キャリアセンター担当事務長の淡野健さんは「筆記は通っても面接で自己表現がうまくいかず落ちる学生が多かった。その悩みを就職部長から聞いた部活動OBが中心になり、小規模のセミナーを始めた。卒業生のつながりで、年々規模が拡大した」と話す。

講師は参加者の紹介で決まるが、規模が拡大した今は「コーチングを中心にと話している」(淡野さん)。

面接対策セミナー2日間の内容
1月10日
午前9:30
グループ・ディスカッション
10:00同ディスカッションの講評
10:30自己紹介の練習
11:002日間の「ゴール」の確認
11:15履歴書の記入説明
11:45昼 食
12:30入退出マナーの練習
午後1:00集団面接の演習(ロールプレイング、相互コメント)
2:30面接官として質問を考える
3:00個人面接の演習(ロールプレイング、相互コメント)
5:00内定した4年生の体験を聞く
6:001日の振り返り、質疑応答
1月11日
午前9:30
個人面接の練習(ロールプレイング、面接官体験、相互コメント)
12:00昼 食
午後1:00他班に移動し面接の交流戦
3:302日間の振り返り、講評
5:00大学ホールで全体会合

(注)学習院大の例

両大学ともOBの勤務先のリクルート活動とは一線を引く。学習院大では社名を明かさないのが通例だ。OBや所属企業に見返りはないが、春日さんは動機に「母校への愛情、後輩への貢献、OBの仲間意識」の3点をあげる。

春日さんは「講師は自分試しの場」と感じていた。「学生の反応で、自分の言葉がどの程度通じたかわかる。就職が決まったとの知らせを何割の学生がくれるかで、セミナーへの満足度が明らかになる」。これまでは半分ほどから知らせが来たという。

両大学が卒業生に頼るのは、内部人材だけでは経済動向や、企業の採用意識の変化の速さに対応できないと自覚しているからだろう。最近の企業は学生に即戦力を期待するより、人物重視に回帰している。アイデム(東京・新宿)の「2016年度新卒採用に関する企業調査」では重視する点として「人柄・性格」が91.8%と「志望動機」の67.7%を上回る。

企業がどんな人柄を求めているか、空気感を最も良く知るのは働いている人そのもの。両大学はOB・OGの善意を活用して、学生に実態を伝えているわけだ。学習院大にはここ数年で約20の公私大学の視察があり、この手法は他大学にも拡大する可能性がある。

(礒哲司)

新着記事

Follow Us
日経転職版日経ビジネススクールOFFICE PASSexcedo日経TEST

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック