身近なテーマを追った作品がグランプリに
日経ナショナル ジオグラフィック写真賞2015
第4回を迎えた「日経ナショナル ジオグラフィック写真賞」。今年は、ネイチャーとピープルの両部門で合わせて286人の応募者が、合計699点(単写真546点、組写真153点)の作品で挑んだ。これは前年を上回る点数だ。
写真家の野町和嘉氏と中村征夫氏、そして日本版編集長の大塚茂夫による審査の結果、グランプリおよび、部門ごとに最優秀賞と優秀賞が選出された。
グランプリに輝いたのは、医師として働く祖父の日常を記録した、八木豪彦さんの作品。八木さんは、2013年もピープル部門で優秀賞を獲得しており、その受賞をステップに、今回、最高の栄冠を手にした。八木さんには、記念の盾と賞金100万円、副賞のほか、米国ニューヨーク市で個展を開催するチャンスが与えられる。
*****************
グランプリ
「88歳の現役医師」
八木 豪彦(埼玉県所沢市)
撮影地:福岡県北九州市
祖父は外科医。毎朝ひげをそり、血糖値を下げる薬を飲んで出勤する。職場で見せる表情には、自宅とは違う緊張感が漂う。撮影から1カ月後に引退。
---------------------------------------------------------
最優秀賞 ネイチャー部門
「アシナガキンバエを捕食するカラスハエトリ♂」
坂本 昇久(東京都世田谷区)
撮影地:自宅スタジオ
マクロレンズでのぞくクモの世界。
多焦点合成で生と死のドラマを切り取った。
---------------------------------------------------------
最優秀賞 ピープル部門
「Shipyard」
吉田 亮人(京都市)
撮影地:バングラデシュ ダッカ
船の修理・解体を行うドック。過酷な条件の下、出稼ぎ労働者たちが必死に働いている。
---------------------------------------------------------
優秀賞 ネイチャー部門
「カイツブリ受難」
玉田 照清(埼玉県ふじみ野市)
撮影地:埼玉県川越市
体長2メートルほどのシマヘビが、鳥の巣を襲撃。ふ化間近の卵をのみ込んだ。
「海中讃歌」
鍵井 靖章(神奈川県鎌倉市)
撮影地:インドネシア ラジャ・アンパット諸島
小魚の群れの間から現れた黄色いコショウダイの仲間。
「震災後の故郷の川でいのちをつなぐ」
平井 佑之介(東京都杉並区)
撮影地:岩手県陸前高田市
震災から3年半。サケが故郷の川を上り、傷だらけの体で懸命に卵を産んでいる。
「原生林の死」
湯浅 光則(兵庫県尼崎市)
撮影地:奈良県大台ケ原
森林生態系の衰退が進行する大台ケ原を、夜空の星が照らし出す。
---------------------------------------------------------
優秀賞 ピープル部門
「AJKバルセリ村の生徒」
清水 匡(千葉県船橋市)
撮影地:パキスタン アーザード・ジャンムー・カシミール(AJK)
10年前に発生した大地震で多くの学校が倒壊した。勉強ができる環境はまだ整っていない。
「放牧する少女」
藤木 ケンタ(東京都目黒区)
撮影地:中国 チベット自治区ニンティ
吹雪の中、生まれたばかりの子牛を抱く少女。100頭以上の牛を放牧していた。
「内●的土(内陸の土)」 ※●は簡体字の「陸」です。
谷口 哲(京都府向日市)
撮影地:中国 雲南省・貴州省
土とともに生きる内陸の人々。土の上に暮らし、大地の恵みを食し、やがて土にかえっていく。
********************
審査員講評
野町 和嘉(写真家)
昨年に続いて、人をテーマにした作品をグランプリに選ぶことができた。「88歳の現役医師」は作者の祖父の仕事ぶりを淡々と撮影した組写真であるが、どの一枚にも、敬愛といたわりのまなざしが注がれていて味わい深い作品になっている。しっとりと階調のあるモノクロプリントが素晴らしい。ピープル部門最優秀賞「Shipyard」はよく取り上げられるテーマではあるが、礼拝の場面がストーリーの幅を広げている点を評価した。
中村 征夫(写真家)
昨年より応募点数が増え、ネイチャー部門も力作が多かった。なかでも最優秀賞の「カラスハエトリ」は、被写体に肉薄し、自然のどう猛さや生き物の精緻さがよく表現されている。グランプリの「88歳の現役医師」は、日常の断片をとらえた、とても完成された作品だ。一方、ピープル、ネイチャー部門ともに、組写真では説明調の作品が目立つのが気になった。来年は日本に目を向けた作品が増えることに期待する。
大塚 茂夫(日本版編集長)
八木豪彦さんの作品からは、被写体であるご自身のおじいさんをじっくり観察し、敬意を込めてシャッターを押す姿が伝わってきた。4点の構成もメリハリがあり、老医師の日常をよく物語っている。海外の事物をテーマにした応募作品が多いなか、自分の身近にも記録すべき大切なものがあると改めて教えてくれる。ネイチャー部門最優秀賞の坂本昇久さんの作品は、生物の非情な営みを美しく思わせるほどに完成度が高い。
[ナショナル ジオグラフィック 2016年2月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。