新イノブタに梅山豚 極上豚は原種にもこだわり
猪と豚の間に生まれたイノブタ。猪肉の特徴が入ることで、豚よりも野趣あふれる肉や脂の旨みが味わえるが、一方で肉質の硬さや獣臭さが気になる場合もある、扱いが難しい肉だ。
2015年夏、そのイノブタの新しいブランド「小河内のしし豚」がデビューした。今までのイノブタとは一線を画す品質をアピールするために、あえて「しし豚」と名づけたその品種は、野生の猪と豚のデュロック種との間に生まれた交雑種の1代目だ。
「流通するイノブタの大半は、1代目にさらに豚を交配させた2代目以降。そのほうが繁殖させやすいが、肉の味は薄くなる」(しし豚を生産する楠本農場の楠本政之氏)。デュロック種との1代目なら濃厚な旨みと豚由来の軟らかい肉質を兼ね備えた、理想的な肉になるという。
しゃぶしゃぶにしたところ、ポン酢を付けて口に入れると、インパクトの強い旨みが一気に広がった。肉ももちろんだが、脂も甘みが強く満足感が高い。クセの強さは感じなかった。新鮮な状態で適切な血抜きなどを行えば、臭みは消すことができるという。
楠本氏は元料理人で、切り方にも試行錯誤の末にたどり着いた工夫がある。しゃぶしゃぶなら厚さ0.7mmと極薄にすることで、旨みと食感のバランスが理想的になるという。「調理法を誤ると肉の硬さが気になる食材」(楠本氏)でもあるので、購入者にはメニューごとの理想的なレシピも伝える。例えばトンカツなら厚さ2cmが推奨されている。
現状、出荷ペースは月3頭と極めて少なく、すぐに品切れになる。在庫に出合えたら試してみて損はない。
種豚は国内に100頭の希少種
種豚は日本国内に僅か100頭―。日本で唯一、中国原産種の「梅山豚」を生産するのが、茨城県境町の塚原牧場だ。梅山豚は72年の日中国交正常化の際に、パンダと一緒に中国政府から寄贈されたこともある。しかしその後、輸出禁止になってしまい、農林水産省と塚原牧場だけでしか飼育されていない。肉になるのはデュロック種と掛け合わせた交雑種1代目だが、中国国内でもほとんど流通していないという。
その味は、肉の旨みが濃くジューシーなだけでなく、口の中でとろける脂の甘さが印象的で、それでいてしつこくない。梅山豚の人気は、2000年代初頭のブランド豚ブームで最初に火が付いたが、「今の味は当時より格段に良くなっている。餌の改良などで今の味に到達したのはここ3~4年」(塚原牧場の塚原昇代表)。
人気の高い、沖縄産のブランド豚「アグー」も、実は"原種"が取り寄せられる。肉として出回るのは多くが西洋白豚との交雑種。だが、ゆいまーる牧場が生産する「石垣島アグー」は、原種の親同士から生まれた純粋なアグー。さっぱりとしながらも旨みの深い、上品な脂が印象的だ。
[日経トレンディ2015年11月号の記事を再構成]
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