視聴率好調のスリラー 巨額製作費で動画配信に対抗
海外ドラマはやめられない!~今 祥枝
2015~16年シーズンの地上波の新番組の中で、人気番組のひとつがNBCで始まったスリラー『Blindspot』です。
ニューヨークのタイムズスクエアの路上に置かれたボストンバッグの中から、全身にタトゥーを彫った記憶喪失の女性が発見されます。バッグにはFBIに連絡しろとのタグが。彼女の身体中に描かれた絵や文字には、意味があることが分かり、背中に名前が彫られていたFBI特別捜査官ウェラーが事件の捜査に当たります。タトゥーから得た情報を追い、事件を捜査する一方で、彼女とウェラーには驚くべき関係性があることも明らかになります。
ショッキングな冒頭の描写から始まり、スピーディーに事件が展開する本作は、同じ局のヒット番組『ブラックリスト』をほうふつさせますが、こちらはかなりスタイリッシュで洗練された映像に凝った編集。スケール感のある世界観は、映画的な作りです。今どき"映画的"なテレビドラマは珍しくもありませんが、アメコミやファンタジーなどの派手な題材を扱っているわけではなく、比較的よくありがちなサスペンスでありながらも質の高い作風には地上波の底力を感じずにはいられません。
自社制作で権利を囲い込み
日本にも上陸したネットフリックスをはじめとする動画配信サービスの台頭により、米国の映像業界には激震が走っています。2015年は、ついに米国内におけるDVDのレンタル&セルの売り上げを動画配信が上回り、17年には映画館の売り上げを超えるとの予測も出ています。一方で視聴者のテレビ離れが加速していますが、既存のテレビ放送の視聴者数の減少幅は、当初の予測よりかなり緩やかであるとの数字も出ています。
将来的にはネットテレビに需要がシフトしていくことに疑問の余地はありません。ですが、地上波のCBS、ABC、FOX、NBC、The CWの5社は、新たな戦略を実践しているようです。再放送枠を減らし、オリジナル番組、特に1時間枠の新作ドラマの本数を増やしています。製作費の高騰に拍車がかかっていることも共通項です。『Blindspot』はその代表格で、シーズン1で約5900万ドル(約73億円)という製作費は、同局のドラマ部門では過去最高額を記録しています。
同時に、外部の制作会社を極力使わない自社制作も増えています。ハイリスク・ハイリターンのやり方ですが、当たればテレビ局にとっての利益は大きく、動画配信サービスに放送権などが買われた場合も収益はテレビ局のものとなります。地上波は多大なる重圧の下、試行錯誤をしながら動画配信サービスに対抗しています。
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今月のオススメドラマ
『ベター・コール・ソウル』
『ブレイキング・バッド』の悪徳弁護士が主人公
全5シーズンで終了した傑作シリーズ『ブレイキング・バッド』。シーズン2から登場した悪徳弁護士ソウル・グッドマンを主人公に、ソウル登場の6年前を描いたスピンオフが『ベター・コール・ソウル』だ。クリエーターのヴィンス・ギリガンほか、制作陣には本家のスタッフが多く参加。15年2月よりシーズン1全10話が放送され、15年のエミー賞ではドラマ・シリーズ部門作品賞ほか6部門で7ノミネートされた。16年にはシーズン2の放送が予定されている。
アルバカーキで公選弁護人として地味な事件に取り組むジミー・マッギル(ソウル・グッドマンは偽名だった)。収入は少なく借金に苦しむ中年の新人弁護士ジミーは、大口の顧客を得ようと四苦八苦するうちに、ギャングと関わりを持つことになってしまう。果たして、善良なジミーはどのような過程をたどってソウル・グッドマンになるのか。
主演のボブ・オデンカークが、独特のユーモアを漂わせつつ人の良さがあだとなりそうな、人情味あふれる弁護士を好演。同じく『ブレイキング・バッド』でも気を吐いていた元フィラデルフィア市警の警官で、後に殺しから何でも請け負う便利屋となるマイク役のジョナサン・バンクスほか、個性的なキャストがドラマを彩る。
映画&海外ドラマライター。女性誌、情報誌、ウェブ等に映画評やインタビュー等を寄稿。「BAILA バイラ」「eclat エクラ」「日経エンタテインメント!」映画サイト「シネマトゥデイ」などに連載中。著書に『海外ドラマ10年史』(日経BP社)。
[日経エンタテインメント! 2016年1月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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