働くママの「コンプレックスとの付き合い方」
劣等感を言い訳にして、克服すべき困難を避けていないか
【ケース1】
こんな風に、同僚と自分を比べて主観的な「劣等感」を抱いてしまうことはありませんか。アドラー心理学では、自分が主観的につくり出した「劣等感」を言い訳にして、克服すべき目前の困難を避けようとする態度を「劣等コンプレックス」と呼び、そのような非建設的な行動を選択することをよしとしません。
どんな困難に直面しようと、それに対して建設的な行動を選択するか、非建設的な行動を選択するかは、あなた自身が決めることなのです。アドラー心理学では、これを「自己決定性」といいます。ケース1では、勤務時間の長さで同僚に引け目を感じるのであれば、仕事のスピードや正確性で一目置かれようと工夫するようなことが、建設的な行動の一例として考えられます。
それでは次のケースはいかがでしょうか。
【ケース2】
このケースのように、他者比較ではなく自己理想(フルマラソンを完走したい)と現実(今は完走するほどの実力がない)とのギャップを認識することも、アドラー心理学では「劣等感」と捉えます。たまに「私って劣等感の固まりなの」と、劣等感を持っていること自体に劣等感を抱いている方に出会いますが(笑)、劣等感そのものは病気でもなんでもなく、誰もが持っているものです。アドラーは「劣等感はむしろ健康で正常な努力と成長への刺激である」と言っています。
学歴や家柄、人脈などを自慢する人の心理とは
ところで、皆さんの周りには、自分の親やパートナーの学歴、家柄や人脈などを自慢する人はいませんか。これは「優越コンプレックス」といって、上述した劣等コンプレックスの一種と言えます。このような人は、何らかの負い目(主観的な劣等感)を感じています。その劣等感を建設的に克服することから逃げて、これなら努力せずとも勝てると思えることを、ことさらにひけらかすことによってその負い目を埋め合わせようとしているのです。
劣等感についてお話ししていると、よく「そうは言っても、私は○○というハンディキャップがあるから、どうしようもないんです。建設的な対応なんて考えられません」という反応に出会います。アドラー心理学では、身体の器官などに客観的な事実としてのハンディキャップがある場合は「劣等性」という言葉を使い、これまで説明してきた「(主観的な)劣等感」と区別します。
このような、一見、建設的な対応ができそうにない場合でも、実際には、劣等性をバネにして大きな成果を上げている人もたくさんいます。例えば、棟方志功は極端に視力が悪かったことをバネにして、目を使う仕事である版画家として成功しました。あるいは、盲目の音楽家スティーヴィー・ワンダーは、不自由な目の代わりに耳を武器にして世界的な成功を成し遂げたのです。
ありのままを認める=現状維持に甘んじることではない
あなたの目前にある困難が「劣等感」であれ「劣等性」であれ、建設的な行動を選択するか否かは、あなた次第ということをご理解いただけたと思います。では、建設的な行動を選択するために必要な大前提とは何でしょうか。
それは、ありのままの自分を受け入れる、ということです。言い換えれば、不完全な自分を認める勇気を持つ、ということです。この大前提なくして、建設的な一歩を踏み出すことはできません。
ところが、ありのままを認めたら、現状維持に甘んじてしまうのではないか?と、要らぬ心配をする方がいらっしゃいます。そうではないのです。
ありのままの自分を認めるとは「他者比較から卒業する」ということなのです。そして、他者比較に基づいた「言い訳に逃げることから卒業する」ということなのです。「ダメな自分を直視した結果、自己否定に陥り前向きになれない」というようなことも起こりません。なぜなら、それもまた、「言い訳」にすぎないからです。
さあ、ありのままの自分を認めてみましょう。不完全な自分であっても、勇気を持って建設的な行動を選択することで、道は開けるのです。自分を勇気づけて、一歩を踏み出してみませんか?
【参考文献】
・アドラー心理学教科書 ―現代アドラー心理学の理論と技法― (監修 野田俊作 編集 現代アドラー心理学研究会/ヒューマン・ギルド出版部)
・7日間で身につける! アドラー心理学ワークブック(岩井俊憲/宝島社)
フランス・パリ生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。メルセデス・ベンツ日本にて人事部門に勤務後、米国Indiana University Kelley School of Businessに留学(MBA/経営学修士)。製薬企業イーライ・リリー米国本社及び日本法人を経て、保育サービスの株式会社コティに統括部長として入社。約60の保育施設の立ち上げ・運営、ベビーシッター事業に従事。2007年、株式会社子育て支援を創業、代表取締役に就任。12年、日本初の本格的ペアレンティング・サロン「bon voyage有栖川」をオープンし、自らも講師として<ほめない・叱らない!アドラー式の勇気づけ子育て>を広めている。16年1月『アドラー・子育て 親育てシリーズ 第1巻 育自の教科書 ~父母が学べば、子どもは伸びる~』(アルテ)を発刊。日本アドラー心理学会正会員。
[日経DUAL 2015年11月16日付記事を再構成]
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