常に相手の立場に立って考える 大石美也さん
(キャリアの扉)
アインファーマシーズ社長
6月、都内ホテルに調剤薬局最大手アインファーマシーズ(当時)の取締役数人が会食のため集まった。レストランに向かう途中、大谷喜一社長が軽く声をかけた。「きょうは大石の社長就任祝いだから」。事情を知る周囲はクスクスと笑う。大石さんには降ってわいた突然の辞令だった。
11月に持ち株会社アインホールディングスに移行し、中核子会社のアインファーマシーズ(札幌市)社長に起用された。グループの半数の調剤薬局と、成長の要であるドラッグストア事業を統括する。気軽な口調での辞令交付は男性ばかりの経営陣でつい力んでしまう自分に、肩の力を抜かせようとする気遣いだと後で気付いた。
2007年にアインが買収した同業、ダイチク(新潟市)の出身だ。1984年に昭和薬科大を卒業後、地元の新潟県で病院や医薬品卸を経て調剤薬局の共栄堂(同)に入社した。当時は病院の外で薬を出す「医薬分業」が広がり始めたばかり。業界を育てていく使命感で「毎日が充実していた」。ダイチクは県内の医薬分業を加速するため、医療関係者らで共同設立した会社だった。
忘れられない出来事がある。がんセンター前に開いた調剤薬局は順番待ちの患者に番号札を渡していた。ある日、番号札を手にした患者が悲しげに言った。「きょう、医者から余命宣告を受けたの。そんな私にこの番号札はこたえるわ」。番号は4。患者の立場に立てていなかった自分を責めた。4、9、13などの札を即座に捨てた。
ダイチクがアイングループ入りすると、常務を任された。当初は責任感から熱が出っぱなし。それでも社員の声を聞き、働きやすい環境整備に走り回った。「相手の立場に立って考えるのは、薬剤師も経営者も一緒」。育児休業後にうまく復帰できるか心配だという女性薬剤師の悩みを解消するため、社内報を送ったり復帰前に面談したりする制度を開始。社員らに評判となり、グループ全体に広がっている。
社員の8割を女性が占めるなか、さらに働きやすくするのが使命だと考える。「女性薬剤師に長く勤めてほしい。経験を重ねてこそ生きる知識があるから」
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