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実力派チェリスト 欧州で深化した演奏を披露 新倉瞳の「愛の挨拶」

2016/1/5

 欧州に在住する日本の音楽家の活躍が目立つ。2010年からスイスを拠点に演奏活動を続けているチェリストの新倉瞳さんもその1人。一時帰国した新倉さんは12月、クラシック音楽の故郷である欧州で暮らす意義を語るとともに、そこで深化した演奏を披露した。

 シリア内戦を背景にした難民の流入、欧州連合(EU)加盟国の財政問題、テロの不安など、欧州情勢は2016年も予断を許さない。こうした中でも、自らの芸術を深めるために欧州に住み続ける演奏家は多い。

 同時テロが発生したフランスのパリにはバイオリニストの諏訪内晶子さん、ドイツのベルリンには指揮者の山田和樹さんやバイオリニストの樫本大進さん、ミュンヘンにはピアニストの小菅優さんらが在住するなど、いずれも一時帰国すれば凱旋公演として注目を集める第一線の演奏家ぞろいだ。

 新倉さんは留学を機にスイスに移り住んで5年余り。昨年から同国のチューリヒに暮らす彼女は「ヨーロッパの街並みは日本とは別種の美しさ。その町の環境に身を置くだけで音楽の糧になる」と語る。2015年にはポルトガルのリスボンで開かれた「インターナショナル・ヴェラン・クラシコ2015」の音楽コンクールでチェロ部門第1位を受賞。スイスの室内オーケストラ、カメラータ・チューリヒの首席チェロ奏者にも就任した。

 15年12月11日、一時帰国した新倉さんは都内で約5年ぶりのリサイタルを開いた。共演はピアニストの佐藤卓史さん。シューマンの「アダージョとアレグロ」、ブラームスの「チェロソナタ第1番」では確信に満ちた演奏を繰り広げた。白眉はラフマニノフの「チェロソナタト短調」。緩やかな第3楽章では佐藤さんの繊細なピアノの音色と相まって、ロマンチックな感情があふれる優美な音楽を披露した。

 桐朋学園大学で新倉さんが師事したチェリストの堤剛さんは「彼女は大変な勉強家。チェロはもともとうまかったが、以前よりも大きくなって帰ってきた」と同リサイタル会場で評した。日本の演奏水準が向上し、国内でも研さんと活躍の場は豊富にある時代だが、欧州在住組は西洋音楽に特別のこだわりを持って自らの演奏の技を磨いているといえる。

 映像はこのリサイタルに向けた2人の練習のさなかでのインタビューで、英国の作曲家エルガーの小品「愛の挨拶」を弾いている(撮影取材協力=アスペン、ヤマハアーティストサービス東京)。新春にふさわしい小品として彼女自身が選んだ。(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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