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“手作りチャペルで迎えに行きます” あの人のいる場所へ

2015/12/23

 もし好きな場所で結婚式を挙げられるとしたら、あなたはどこを選びますか?

2人の思い出の場所で、家族や友人に祝福される八木さん夫婦(神戸市垂水区)

 

■思い出の景色に愛を誓う

 

 明石海峡大橋のたもとの舞子公園(神戸市垂水区)。11月、芝生の広場にたたずむレトロな教会で、一組のカップルが家族や友人に祝福を受けた。「この公園はデートでよく立ち寄った場所。思い出の景色の前で結婚式ができて本当に良かった」。新婦の八木五月さん(28)は感慨深そう。

 ウエディングサービス会社「ルーロット」(神戸市中央区)が始めた結婚式の一幕だ。改装したトレーラーハウスを好きな場所に運び込めば、2人のためのチャペルに早変わり。「ルーロット」は、フランス語で遊牧民の住居を意味する。道路をけん引される光景は、まさに家が動いているようだ。最大の特徴は、正面に取り付けられた大きめの窓。そこからのぞく思い出の景色を前に、新郎新婦はあらためて愛を誓い合う。同社の代表で発案者の武智弘美さん(42)は、「場所に誓うという行為は、日本人の感覚にフィットするのでは」と期待を込める。高さ約3.5ートル、幅約2メートル、奥行き約4メートルと決して広くはないが、照明やステンドグラス、木壁をアンティーク風に仕上げることで細部の作りにこだわった。

 

■結婚式場を動かしちゃえ

 

窓枠が明石海峡大橋を見事な構図で切り取り、1枚の絵画のようだ

 武智さんの本職はウエディングドレスを仕立てるデザイナー。「母のドレスをリメークしたい」「マタニティ用でもきれいに見えるものを」。これまでオーダーメードで新婦の要望に応えてきた。その中で病気や高齢のため式に出席できない祖父母を抱える人が多いことに気付く。「せっかくの晴れ姿を大切な人に見せられないなんて」。そんな思いが出発点にある。

 人が動けないなら会場を動かせないだろうか。温めたアイデアをウエディング業界の関係者や知人に持ちかけると、意外にも多くの人から賛同を得られた。ある友人の男性は「そんな教会なら自分も式をあげてみたい」と、チャペルの製作を請け負ってくれたほどだ。彼はホテルなど一般的な式場の堅苦しい雰囲気が苦手で、結婚式を避けていたという。

 「ドレス作りと同じように、一人一人の思いに応えられるチャペルがあればいいのに」。移動式というコンセプトには、武智さんの優しさが詰まる。

 

■資金、運転は「他人」頼み

 

 トレーラーハウスの調達や製作はすぐにメドがついた。計画はとんとん拍子で進んだが、肝心の資金集めが難航。このままでは装飾費用が足りない。武智さんが頼った手段は、クラウドファンディング。インターネット上で不特定多数の人から資金を募る方法だ。

街中を走行していると、道行く人も思わず振り返る

 「移動が難しい人も参列できる移動式チャペルを作りたい」。7月、大手のサイト「READYFOR」を通じて支援を呼びかけると、1カ月半ほどで目標額の50万円が集まった。「幸せのお手伝い、一緒にさせてください」「夢に向かって頑張って」。サイトに書き込まれる応援メッセージ。また病気などで大事な人が式に参列できなかった経験を持つ人からの支援もあった。それらが武智さんの背中を力強く押した。

 教会の移動には専用車両を使って運ぶため、けん引免許が必要になる。「移動式といっておきながら、実は普通自動車の免許も持ってないんです」。恥ずかしげに笑みを浮かべる武智さん。もっぱら運転は夫の直久さんに頼る。「最近、仕事が休みの日はルーロットの準備に付きっきりです」(直久さん)。側面から妻・弘美さんを支える。

 

 ルーロットは武智さんの思いやりと、それに賛同するパートナーや友人、そして匿名の支援者の協力を得て実現した手作りの教会だ。派手さはないが、どこか懐かしく温かさ感じる。まだ走り出したばかりだが、「思いもよらないようなリクエストをお待ちしています」(武智さん)。少しばかり難しい注文の方が仕立てがいがあるようだ。

(写真部 上間孝司)

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