MONO TRENDY

フード・フラッシュ

赤身肉のうまさを味わう 和牛4品種の源流を訪ねて

日経トレンディ

2015/12/30

日経トレンディ

 これまでは最高の和牛といえば、松阪牛に代表されるサシがたっぷり入った黒毛和牛だった。だがここ数年の「赤身肉ブーム」到来で、霜降り一辺倒の流れが変わりつつある。ヘルシー志向の高まりもあって、サシが好まれる時代から、牛肉本来のうまさである赤身への“原点回帰”が進んでいるのだ。

 そこで見直されてきているのが、黒毛以外の和牛たちだ。日本固有の和牛は黒毛の他に3品種あり、それぞれが特色のある肉牛だが、共通するのは赤身のうまさ。「褐毛和種」「日本短角種」「無角和種」、それぞれの源流となった土地を訪ね、珠玉の味わいを持つ牛肉を集めた。

■土佐あかうし 赤身肉を楽しむ第一歩に最適

 明るい茶褐色にかわいらしい風貌。高知ブランドとして君臨する「土佐あかうし」は、日本に2種類いる褐毛和種の一つ。年間出荷頭数は僅か600頭という希少な肉牛だ。

 肉質の特徴は赤身中心でありながらも、適度に入るサシ。このバランスが互いの旨みを引き立て合い、黒毛とは違う和牛の奥深さを感じることができる。「赤身肉の良さを知りたいというエントリー層にはぜひ食べてもらいたい」と、ブランド化を推し進める高知県中央家畜保健衛生所の公文喜一氏は自信を見せる。

黒毛和牛に比べると赤身中心ではあるが、他の品種に比べるとサシが入り、赤身と脂のバランスが絶妙。「赤身肉の味わいを楽しみたい」という第一歩にはピッタリだ
和牛原種の一つ「褐毛和種」は、明るい褐色が特徴の肉牛で、「高知系」「熊本系」の2系統がある。高知ブランドの「土佐あかうし」は県内のみでの飼育が特徴で、年間出荷頭数は僅か600頭

■無角和牛  出荷は毎月数頭 軟らかく旨みが詰まった赤身肉

 さらに希少な和牛もいる。山口県阿武郡の「無角和牛」は、毎月の出荷が3~4頭程度。ほぼ地元で消費される幻の牛肉だ。見た目は黒毛和牛に似るが、脂肪交雑は少なめ。

 赤身中心で軟らかくコクのある肉質が好まれ、1963年には1万頭近く飼育されていたが、霜降り肉の隆盛でニーズが激減し、約200頭にまで減少。現在、絶滅を回避するべく、自然豊かな環境のなか、地元の高原で採れた牧草や稲わらと和牛用の飼料で育てられている

肉質は軟らかく、かむほどに旨みが味わえる(注:写真はもも肉)
毎月3、4頭程度しか出荷されない幻の牛肉だ

■いわいずみ短角牛 じわりと味が染み出す、絶品の赤身肉

 人工授精が当たり前のなかで、100%自然交配という驚きの繁殖方法を取るのが、岩手の「いわいずみ短角牛」だ。北東北で飼育される濃褐色の日本短角種で、子牛は母牛と一緒に初夏から秋の間放牧される「夏山冬里方式」で育つ。欧米の肉牛のように草を食べ、牧場を駆け回ることで、食べ応えのある赤身肉が生まれる。

 焼いて食べてみると、しっかりとしたかみ応えがありながら、嫌な硬さは全くなく歯切れも良い。じわじわと肉の旨みが口内に広がり、赤身肉らしさを存分に堪能できた。

初夏から秋に広大な放牧地で育つ。繁殖は全国的にも極めて珍しい100%自然交配。基本的に何十年も前から同じ育て方を続けている
放牧中は母乳や草、ミネラル豊富な土などを食べ、自由に走り回り、引き締まった筋肉に育つため、赤身には定評がある。心地よい歯応えとともに、じわじわと広がる旨みを堪能できた

■黒毛和牛の本流を守る「但馬玄」

 和牛4品種の最後を飾るのは、今もって圧倒的なシェアを誇る「黒毛和種」。霜降りのサシが注目される黒毛和牛だが、上質な赤身を併せ持つブランドももちろん存在する。

 兵庫の日本海に程近い美方郡香美町。ここが日本の黒毛和牛すべての源流だ。兵庫県産の黒毛ブランド「但馬牛」は、他県の牛との交配させないことで自県のブランドを維持。黒毛和牛の“原種”である種雄牛「田尻号」を生み出した美方郡はさらに厳格で、原則、郡内での交配のみに限っている。すべては、源流の血を色濃く受け継ぐ和牛を残すための努力だ。

 香美町で600頭の但馬牛を育てる上田畜産。但馬牛の純粋種を守るべく、子牛から肥育までを一貫して行っている。同社が生み出した「但馬玄(たじまぐろ)」は、珠玉の逸品だ。脂の融点が12.4℃と非常に低く、口の中で旨みがジワッと広がる。脂は全くしつこくなく、むしろ赤身の旨みを引き立てる。

「但馬玄(たじまぐろ)」は兵庫県美方郡香美町の上田畜産のオリジナルブランド。子牛から出荷まで一貫飼育を行い、独自の高タンパクな飼料を使うことで、但馬牛の純粋種の味を今に受け継いでいる
上田畜産社長の上田伸也氏。祖父が但馬牛8頭から始めた牧場を受け継ぎ、25年かけて600頭にまで拡大させた

 上質な脂と旨みのある赤身の秘訣は、子牛の頃から与え続けている飼料にある。牛の飼料は、太らせるために大麦やトウモロコシ中心なのが一般的だが、サシが乗りやすい一方で、脂がしつこくなりがちだ。上田畜産では、ソバ、アワ、ヒエといった雑穀が中心。これによって、融点が低く、かつ不飽和脂肪酸が高い上質な脂の牛が育つのだ。

 社長の上田伸也氏によると、マグロの脂に近づけることが今後のテーマだという。「トロは食べても飽きが来ない。マグロの脂のバランスを理想として、工夫していきたい」と意気込む。

■能勢黒若牛は赤身が売りの黒毛和牛

 黒毛和牛の原種の血を守ろうとする但馬牛に対して、試行錯誤を重ねて味の改良を重ねる動きもある。

能勢黒若牛は赤身のことだけを考え、若い筋肉が出来上がった時点で出荷する「短期肥育」が売り。脂は少なめだが、厚めに切った串焼きでも肉が軟らかくほどけるのが印象的

 大阪府能勢町の中植牧場が生産している「能勢黒若牛」は、赤身が売りの黒毛和牛だ。通常は30カ月近くかけて出荷するところ、この牛は生後19~20カ月という斬新な「短期肥育」が特徴。長い期間をかけて育てたほうが旨みが乗るイメージがあるが、逆の発想だ。

 「牛の筋肉の発達は19カ月程度で一巡し、通常はそこから脂肪を蓄える期間に入る。しかし、赤身のことだけを考えるなら、若いこの時期のほうがフレッシュでジューシー」(中植牧場の中植昭彦氏)。サシの入らない牛は市場で高い等級が付きにくいが、2013年からあえて短期肥育にかじを切った。

 串焼きにして食べると、印象に残るのは肉の軟らかさ。脂肪が少ないのにハラリとほどけ、ジューシーな肉の旨みが広がる。味わいはまろやかで、量を食べても重く感じにくい。

 ここ数年、注目が集まりつつあるのが、不飽和脂肪酸「オレイン酸」の比率が高いことを売りとする「オレイン和牛」。代表的な「オレイン55」は2011年に誕生した鳥取和牛の新ブランドだ。融点が低めのため口溶けが良く、脂の量は多くても比較的重さを感じにくい。オレイン酸が悪玉コレステロールを減らすという健康効果もアピールする。

(日経トレンディ編集部)

[日経トレンディ2015年11月号の記事を再構成]

MONO TRENDY新着記事