冷えや不調対策に、オフィスでできるヨガストレッチ
――Takkoさんがヨガを学びはじめたきっかけは?
30歳のとき、妊娠した二人目の子を初期流産で亡くしてしまったことです。妊娠がわかったのは、折しも一歳の長女がウイルス感染で入院する、というときでした。娘の看病に明け暮れるなか、翌週私自身も感染。入院を余儀なくされます。
妊娠初期は赤ちゃんの大事な器官が作られ、薬の服用は慎重に、とされる時期です。激しい腹痛でも鎮痛剤は使えず、あまりの痛みに汗がだらだら…。4日で無事、退院しました。しかし数週間後、出血があって病院へ行くと「安静にして少し様子を見てください」と言われました。数日してもおさまらないため、もう一度受診したところ絶対安静とのことで入院に。ですが、その甲斐なく妊娠10週で早期流産となってしまいました。
――そのときのご心境は…?
ああしなければよかった、あのときこうしなければ、ああすればよかった…自分を責めて、あらゆることを後悔しましたね。
「妊娠したら、普通に産める」――そう何の疑いもなく信じていたことが、当たり前なんかではなかったのだと。
でもそれは、赤ちゃんが選んだことだった。いまはそう思えるようになりましたが、当時はとにかく自責の念でいっぱいで落ち込みました。
――そんな現状を変えようと、アクションを起こしたのですね。
しばらくは悲しみに沈みましたが、このままでは娘や家族に、そして自分にもよくないと思い、なにか目標を持とうと考えたのですね。そこで自分が好きなことを、あらためて振り返ってみました。
20代前半から趣味でヨガをはじめて以来、好きでなんとなく続けていたので、きちんと勉強してインストラクター資格をとろうと。半年間、ヨガ指導者養成のスクールに通って学びました。
とはいえ、本格的に職業にするつもりはなかったんです。なにかひとつ「やり遂げた」と実感できるかたちがいまの自分には必要だな。さらに、好きで打ち込めるものならなおいいかなと、それだけでした。
――実際に学んでみてどうでしたか。
ヨガをまたすごく好きになりました。でも、ヨガは歴史があって学びが深く、身体能力の上でも静かなチャレンジが続きますし、また内観も深く…人に指導するなんて私にはとてもできない。学べば学ぶほど、修行が足りないと痛感しました。
でもスクールを卒業する頃に、ふと思ったんです。スクールはもうじき卒業だけれど、私が日常生活でやっている子育ても日々修行ではないか? 毎日予測できないことが連続する子育ては、私にとってはある意味修行ではないかと。当時は娘のアトピーと向き合っていた時期でもありました。
それなら、いま日々積み重ねていることだし、ヨガのことも子どもに向き合うことも、いっしょに学んでいきたいと思ったんです。これこそがいまの自分に必要なことではないかと。
そしてまず、当時はまだ数少なかった、産後のママとベビーがいっしょにできるヨガやベビーマッサージを学びました。それから、その前の段階である妊娠中の女性のためのマタニティヨガへ。さらにさかのぼって赤ちゃんがほしいかた、また不妊で悩むかたに向けたヨガ、やがて自分が迎える更年期についても学びを深めていきました。
そうした女性のライフステージの変化に沿ったヨガを学んでいきましたね。いまは娘が8歳。外遊びをする時期ですから、娘とともにサーフボードの上でできるSUPヨガを楽しんでいます。
ヨガって、さあヨガマットを敷いてやろう、と構えなくてよいのですよ。仕事の合間、トイレでも、座ってさえいればいつでもどこでもできるものをご紹介します。日常生活のなかにぜひ気軽に取り入れてみてくださいね。
【オフィスでできる、簡単エクササイズ】
準備:骨盤を立てて椅子に座る
椅子に浅く腰かけ、足を骨盤幅に開きます。膝と足の指の向きを揃えます(写真1)。
このとき骨盤を立てて座ることが大事です。まず椅子の座面をお尻で押します。ぐーっと自分の身体が沈みますね。これがお尻で押す、という感覚です。
そこで今度は骨盤を立てる動作に入ります。お尻の下に手のひらを入れてみてください。手のひらにグリグリと当たる骨がわかりますか? これが「座骨」です(写真2)。
座骨を座面に垂直に押しながら、座面をぐーっと押してみてください。これが座骨を立てて、つまり骨盤を立てて座り、座骨で押す、という感覚です。
エクササイズ1:足のアップダウン
準備を終えたら、左右の足を交互に上下させます(写真3、4)。
ただ膝を上げ下げするのではなく、丹田(たんでん、注)を意識して、おへその下から上下に動かしましょう。すると大腰筋という、骨盤内の大きなインナーマッスルを使うことができます。
[注:丹田…おへその下三寸、指3~5本分下に位置する]
普段なかなか意識して動かすことのないインナーマッスルですが、とても大事なところ。この動作を続けるだけで、すぐに汗が出て身体が温まってきますよ。
気をつける点は、腰が丸まらないように。骨盤を立てて行ってくださいね。
秋冬の女子の大敵、冷え。私たちは冷え対策としてつい手足を温めようとしがちですが、Takkoさんは「それよりもインナーマッスルを使うことで血液の循環を促進したほうがいいですよ。温まった血液が全身にまわって、冷えが解消されます」。確かにそのほうが根本的に、そして一気に全身の冷えを解決できそう。また「血行が促進されると脳にも効果的で、集中力や仕事の効率アップ、情緒の安定などさまざまな良い影響があります」
エクササイズ2:骨盤を前後に動かす
座骨をうしろに押し出して、骨盤を前傾させます(写真5)。
座骨を真ん中に戻して、骨盤を立てます(写真6)。
座骨をななめ前に押し出しながら背筋を伸ばし、目線はおへそに向けて、骨盤を後傾させます(写真7)。
猫背にならないよう、胸の位置を変えずに、前・真ん中・うしろに座骨を動かしましょう。
さらにもうワンステップ:手の動きをつける
慣れてきて、また手を動かすことのできる場所ならば、手の動きをつけるのもいいでしょう。
手を身体の前に持ってきて握ったら、肘をゆるめます(写真8)。
丹田を意識して息を吐きながら、目線はおへそを見ます。肩甲骨のあいだから背骨を背後の壁に向かって押すイメージです。背骨はCの字を描きます(写真9)。
息を吸いながら、胸を前に送り出して、肩甲骨を寄せます。この動作を5~10呼吸繰り返します(写真10)。
「背骨と骨盤が連動したこのエクササイズは、自律神経を整えてくれます。またおなかを使って呼吸をすることで、呼吸が深くなります。呼吸が深いと、身体がよく伸び動く感覚を味わえます」とTakkoさん。
呼吸の大切さはよく耳にしますが、「焦ったりイライラしたりしているときは、呼吸が浅くなり、視野が狭くなってしまっているのですね。でも深い呼吸をすることで心が静まり、視野が広くなります。さらに免疫力が高くなるとも言われていますよ」
(ライター 大川内麻里)
[nikkei WOMAN Online 2015年11月27日付記事を再構成]
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