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俺に気がある? 疑似恋愛型セクハラに気をつけて 「先輩への尊敬」好意とは別モノ

2015/11/28

 相手も自分に気があると勘違いして性的な行動に出る「疑似恋愛型セクシュアルハラスメント」が横行している。合意があると思い込み、悪気がない場合もある。なぜ起こるのか、どう防ぐのか、専門家らと考えた。

 「上司から誘われ、尊敬していたので何度か飲みに行ったところ、好きだと言われ体の関係を求められた」(卸売・小売・商業、30代)

 日本経済新聞社が11月中旬、日経ウーマノミクスの女性会員に「上司や取引先が交際を迫ることはないか」聞いたところ、あると答えた人は有効回答数(333)の27%だった。

 セクハラは相手の意に反して、不快・苦痛を感じる状況に追い込む性的な言葉や行為だ。疑似恋愛型とは相手には好意がある、嫌がっていないと思い込んで起こるセクハラを指す。

 職場のハラスメント研究所(東京・文京)の金子雅臣代表理事は「最近のセクハラは思い込みの強い、相手の反応を読めないことによる疑似恋愛的なものが多い」と話す。

 「なぜそうなるのかと、ただただ驚いた」。メーカー勤務の原美緒さん(33、仮名)は数年前、取引先との飲み会でセクハラに遭った。「送っていく」と言われ不思議に思いながらもタクシーに同乗すると、男性が突然「君んち行っていい?」と言い出した。原さんは「いやいやいや」と濁し、何とか事なきを得た。

 食事は先方からも自社からも複数人が参加した。「仕事だったので笑顔で話をよく聞き、お酒を飲んだ」(原さん)。泥酔などしていない。その後セクハラに関して調べるうちに、愛想良くしたのを、好意があり誘っても嫌がらないと捉えられたと合点がいった。「自分には『突然』でも、その人には『いけるかも』という流れの中だったのだろう」と振り返る。

疑似恋愛型セクハラの相談対応を学ぶ講座も開かれている(京都市中京区)

 こうした認識のズレはなぜ起こるのか。調査では、女性が上司や取引先から食事などに誘われた際「今は忙しい、時間を作れないと断っても一方的にメッセージが来続けた」(コンサル・会計・法律関連、20代)、「はっきりと言いにくい相手だけに、察してほしかった」(主婦、30代)と断り方に苦心している様子がうかがえた。

 大阪大学大学院の牟田和恵教授は「自分に対してなんらかの力を持つ男性に、はっきりノーと言えないのは後が怖いからだけではない」という。米国の研究では女性は望まない性的な誘いに対して「逆らわずにいる」が、無視することで拒否の意図を伝えようとするとわかっている。そのため態度が曖昧になり、男性は「じらしている」などと勘違いする可能性があるのだ。

 「特に日本の女性は子どもの頃から、人として感じよくすることをたたき込まれている」(牟田教授)。きっぱり拒否と伝えないのは相手のメンツをつぶさない女性の気配りだということを、男性は心に刻む必要がありそうだ。

 では社内恋愛はセクハラ怖さに絶滅せざるを得ないのだろうか。疑似恋愛型セクハラという言葉を考案した山田・尾崎法律事務所(東京・港)の山田秀雄弁護士は「トラブルになる覚悟があるならば部下に恋をしてもいい。でも、どんな場合でも相手の労働環境を悪化させないと肝に銘じなければいけない」と話す。

 セクハラが起こる男女間には力関係がある。だが男性が自分の力をあまり意識せず、純粋に好きになって起こるトラブルが絶えない。断られたら、潔く引き下がるのが鉄則だ。仕事で報復するのは問題外、気まずいと無視するのもアウトだ。山田弁護士は「訴えられて、合意があったと本気で主張する人が多い。多くの人が起こしうるセクハラだ」と警鐘を鳴らす。

 特に起こしやすいのは地位が高い人だ。「おべっかを使われることが多い。出世してきた自信も手伝って、相手は仕事として食事をしただけなのに自分に気があるように思う例がよくある」(山田弁護士)

 職場のコミュニケーションに支障が出るという管理職もいるだろう。山田弁護士は慰労会などで食事に誘うだけならば、「複数の参加が望ましいが2人でも大丈夫」と話す。

 ただし性的な誘いをしたり、ほのめかしたりした瞬間、仕事のコミュニケーションの一環だったはずの場面はセクハラに変わる。キスなど直接的な行動はもちろん、「最近妻とうまくいっていない」と言ったり、自分の不倫経験を話したりするだけでも、誘いと受け取られることがあるので避けるべきだ。

 疑似恋愛型セクハラのトラブルを防ぐため、企業ができることはあるのだろうか。外資系金融機関の一部では「上司は部下を食事や酒に誘ってもいいが、ノーと言われたら引き下がる」「ノーと言われたことでいかなる不利益も与えてはいけない」とのルールを設けているという。

 ルールを明文化している企業はごく少数とはいえ、疑似恋愛型セクハラで解雇や出勤停止などの処分をした企業はある。女性は不快な思いをし、男性は勘違いによってせっかく得た地位を失う――。こうした不幸な事例が増えないように、気をつけたい。

■周囲の男性が加害者かばい、被害者を問題視することも

 「セクハラで女性の責任を言うのは、性暴力を受けたら女が悪いという論理と同じ。間違いだと思う」(情報処理・SI・ソフトウエア、30代)。調査では一方で「はっきりノーという態度を取っていないのでは」(公務員、40代)、「本当に嫌だという意思が伝え切れていないのでは」(放送・広告・出版・マスコミ、30代)など断り下手を指摘する手厳しい意見があった。「思わせぶりな態度を取っている」という回答も目立った。

 組織内でセクハラが明らかになったとき、特に周囲の男性が加害者をかばい、声を上げた被害者を問題視することがある。それが2次被害を生む。疑似恋愛型セクハラは人の気持ちが絡む分、複雑な状況になることが多い。問題が起きたとき、しっかり状況を把握せずに論評することだけは避けたい。

                                       

                                        

                                        

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