イケメンボイスに弾き語り女子 スマホ動画発の最新ヒット
日経エンタテインメント!

"ツイキャス"ことツイットキャスティングが、テレビや雑誌などのメディアで話題になることが増えている。実際ユーザー数は急増しており、ここ2年は倍増を重ね、2015年4月現在で1000万人を突破している。
ツイキャスは2010年にスタートし、ベンチャー企業のモイが運営する、スマートフォンなどから無料で動画を配信できるサービス。それを見たユーザーがコメントを返すことで、会話ができるのが特徴だ。生動画配信では、「ニコニコ生放送」が先行サービスとして有名だが、10代20代の若者を中心に人気を集めるツイキャスは、確実にそれを脅かす存在になりつつある。

若者にヒットした理由には、スマホひとつあれば簡単に配信・視聴ができてしまうこと。通信環境にあわせて画質を自動で切り替えてくれるために、映像が途切れることなく快適に使えること。登録に必要なのはツイッターのアカウント(フェイスブックでも可)でよいことなどが挙げられる。そして「ニコ生」は有料会員しか配信できないのに対し、ツイキャスは無料で配信できることが若者にとっては何よりの魅力かもしれない。
ツイキャス上で配信されている動画は、一般の子たち同士の何気ない会話のやり取りが大半だ。その場にはリアルな友達がいることもあるが、ツイッターと連動しているため、半匿名でつながるフォロワーたちが話をしにやって来るパターンが多い。会話を楽しむことに重きが置かれているため、YouTuberが行っているような一方的なネタ動画は少なく、相手のコメントを読みながら人生相談にのるような動画が多いのも特徴だ。モイの赤松洋介社長によると「情報があふれているこの時代に、若い人たちはそれほどコンテンツを求めてはいない。友達と会話をしたい、誰かとつながっていたいという気持ちのほうがよっぽど強い」と言う。
イケメンのような声で人気
ツイキャスの累計動画配信回数は2015年3月に1億5000万回を超え、多くの人たちが集まるようになった結果、ツイキャス発の文化が生まれ始めた。その代表例が「弾き語り女子」だ。ギターの上手な子が、視聴者のリクエスト曲を弾き語りするうちに、オリジナル曲も歌うようになったのが始まりだという。そのジャンルが大きくなり、路上で弾き語りをするかのようにツイキャスで歌う女子たちが現在増えている。なかにはレコード会社の目に留まり、メジャーデビューする子も出てきた。
ツイキャスの視聴者が累計100万人を突破した女子高校生シンガーの井上苑子は、ユニバーサルミュージックに見いだされ2015年7月にデビュー。リード曲の『大切な君へ』は、音楽配信アプリのLINE MUSICにて再生回数が100万回を突破した。企業で初めてツイキャスに公式チャンネルを開設したユニバーサルも「ツイキャスのような10代の子たちに刺さっているツールには前から注目していた」(広報)と言う。


また"イケボ"こと「イケメンボイス」もツイキャス発の新しいカルチャーのひとつ。容姿がイケメンであるかのようないい声の人のことを指す造語で、「声がイケメン」などのコメントを受けて、「ラジオ配信」という音声だけの配信に切り替えて人気となったそうだ。声優などが好きな女性ユーザーたちから、絶大な支持を集めるジャンルだという。「Love Desire」という、イケボ4人組で作られたユニットは、ライブで1日500人を集める人気ぶりで、メディアでも取り上げられる機会が増えている。
今後のツイキャスのあり方として「みんなが楽しくつながれるようなコミュニケーションツールでありたい」(赤松氏)と言う。ツールとしての機能を超えて、カルチャーを生み出す存在となったツイキャスは、今後も新たな現象で世間の注目を集めそうだ。
(ライター 中桐基善)
[日経エンタテインメント! 2015年11月号の記事を再構成]
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