関東、関西…出身地の違いが仕事や付き合いに影響も
勤めてすぐ、大阪に赴任した。
子どもの頃、兵庫県西宮市に住んでいたので、関西についてカルチャーショックはないと思っていた。が、ホワイトボードに「都落ち」と書いてあったのには驚いた。「東京出張」をこう書く人がいたのだ。
今年、長く勤めた外資の薬品会社から転職した立見佐奈さん。新しい会社も外資で同じ業界だが、本社が違った。東京から大阪へ生活の場を移したのだ。
外資だから東京も大阪もないだろう。そうタカをくくっていた。が、初日の会議からあぜんとさせられた。
「サナさん、オチは何ですか?」
と尋ねられた。「結論」のことを「オチ」と言ってるのかなと思ったが、純粋に「オチ」だった。「オモロナイナァ」と言われて、それに気づいた。
もしあなたが関東の人間ならば、上司や友人、パートナーが関西人の場合は気をつけた方がいい。あなたの価値観を根底から揺さぶるほど、考えや行動に違いがあるからだ。
商売には、こんな話がある。
名古屋の人は、0円から10円稼ぐ。
大阪の人は。50円出して100円稼ぐ。
東京人は、100円出して100円稼ぐ。
ビッグビジネスをしながら儲かっていないのは東京人だ。大阪人はこれを商い下手といい、名古屋の人は、一銭も出さないで10円儲けた自分たちが一番商売がうまいと信じている。
誰が一番なのかはわからない。価値観が違うのだ。
もしあなたが、名古屋の人間だとするならば、東京のビジネスを「骨折り損のくたびれもうけ」と言う。一方、東京人はあなたを「せこい、小さい、みみっちい」と言う。こういうことが、日常生活でもたくさん起きるのだ。
「前にテレビで見たんですけどね。指をピストルの形にして『バーン!』と言って人に向けるでしょ。東京では、それに応えてくれる人はほとんどいません。バカにしたような目をされるだけ。ところが大阪でやると百発百中、倒れてくれます。それもいろんなバリエーションで。ばったり倒れる人もいれば、弾をつかんで投げ返す人もいる。人によってオチが違うんです」
と、佐奈さんは語る。最近、やっとこうした大阪人の特性が理解できるようになったそうだ。
「会社ではこう言われました。部屋に60ワットの電球がついているのを100ワットに変えるのが東京の人。40ワットにするのが大阪の人。東京は見栄坊、大阪はあくまで現実的。このあたりをよく知っていないと商売も、人付き合いもできないと」
昔に比べれば、地域性はずいぶん薄れてきているのだろう。
地方に行っても、昔のように聞きとれない方言で悩まされることもない。その分、地方色が薄れ、どこに行っても似たような景色と似たような感じの人ばかりが目につく。
しかし、実際に暮らしてみると、どっこいまだまだ地方色はある。外国人が関西に住めば「オチ」を求めたくなるのだ。
「その人がどこ出身かをさりげなく聞く。ビジネスにとっては、思っている以上に大切なことに思えます。大阪出身の社長だと、どうしても広告宣伝に『オチ』をつけたがりますしね。
パートナーを選ぶときも大切。トイレの電球を40ワットから20ワットに替えられても、それは地域性ゆえであって、その人自身が貧乏臭いわけじゃないと知らないと、いざこざが絶えません」
私自身、関西に生まれ、初任も大阪だったため、「オチはなんやねん」と心でつぶやくことが多い。見栄をはるより「負けるが勝ち」と大阪風に考えるし、「土下座してお詫び」に目くじらをたてる「半沢直樹」は、新手のギャグにしか思えなかった。
既に東京で30年も広告ビジネスに携わっていながら、腹の中では「オモロいこと」「アホなこと」を求めているのだから、三つ子の魂百までだ。
生まれ育った土地と水と歴史には、それだけの力がある。決して悪いことじゃない。
こうした人間があちこちの水と混じり合い、その混沌の中から新しい文化が生まれる。
そう信じているからこそ是非、目の前にいる人の発言、行動の背後にある土地の景色を大切にしてほしい。
これが、この文章のオチである。
うまくオチなかったのが、ちょっと悲しい。
「あなたは、オチをつけますか?」
相手の発言、行動の背後にある土地の景色を想像してみよう。
博報堂クリエイティブプロデューサー。早稲田大学卒業後、博報堂に入社。クリエイティブ局で、CMプランナー、クリエイティブ・ディレクターを経て現職。明治大学で教鞭をとるかたわら、朝日小学生新聞にコラムを連載。年間約1000本のコラムをfacebookに投稿し、幅広い世代から圧倒的な支持を得ている。著書に、『あなたは言葉でできている』」(実業之日本社)、『ゆっくり前へ言葉の玩具箱』(京都書房)。facebook:www.facebook.com/yohikita
[nikkei WOMAN Online 2015年11月16日付記事を再構成]
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