マネー研究所

カリスマの直言

オランダの巨大運用会社に見習う(渋沢健) コモンズ投信会長

2015/11/22

「オランダの人口は日本の1割強に過ぎないが、公的年金を運用する巨大会社には見習うべき点が多い」

 「たった1年間は気にしてないね。5年間でも、あまり気にしてない。10年間に関心を持っている。もちろん、そのためには信用を得ることが必要だ」

 「年金運用はマラソンなので、いちいち腕時計を見る必要ない」

 先日、参加した年金セミナーの総括セッションで資産運用会社のトップのコメントに深く感銘を受けた。運用成果の短期志向が目立つなか、長期の運用成果を強調する内容だった。

 このトップの会社はAPGというオランダの資産運用会社。APGは日本では聞きなれないかもしれないが、同国の公的年金を運用する会社だ。資産運用残高はおよそ3400億ユーロ(約45兆円)に上る。日本の「クジラ」といわれる年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の3分の1の規模だ。

 オランダの人口は約1680万人で日本の1割強に過ぎない。その公的年金を運用する巨大な会社が小国に存在する理由は、オランダでは月収の15~20%を年金保険料として支払うことが義務付けられていることにあるようだ。また、日本の公的年金の基本は「賦課方式」年金制度であるが、オランダの基本は「積立方式」年金制度であり、これも影響しているのかもしれない。

 「賦課方式」とは、その時の現役世代の給与から徴収する保険料を年金給付の原資とする方式だ。インフレや給与水準の変化に対応しやすいという想定で日本に施行された制度であるが、それは高度成長社会のモデルが前提となっている。現在のように高齢化少子化社会の場合、現役世代と年金受給世代の人口比率が当初想定とかなり異なっており、現役の保険料負担の増加や受給者の年金の削減が必要となる。

 一方、「積立方式」とは、現役時代に積み立てた積立金を年金給付の原資とする方式だ。いわば自分で支払い自分で受け取るため、公平なシステムのようにもみえるが、安全な投資と一般的に思われている債券だけに投資すると、インフレ期では債券の価値が目減りして運用収入が枯渇する恐れがある。そのため、インフレヘッジの目的もあり、リスクを取りながら株式投資するケースが多い。

 その意味でAPGの資産配分の「進化」が興味深い。1990年代は債券90%、株式5%の資産配分が、2000年には債券50%、株式40%になった。そして、現在では債券31%、株式34%、そして、オルタナティブ(プライベート・エクイティ・ファンド、ヘッジファンド、インフラストラクチャーファンドなど)が35%になっているようだ。

 過去と比べると近年ではリターンが低下気味であるオルタナティブ投資であるが、APGはやはり年率で二桁を期待しているのであろう。一方、債券投資は年率2%前後ぐらいしか期待できない。ということは、株式投資と合わせて、長期的に年率7~8%ぐらいのリターンをAPGは期待しているのではないかと推測できる。これは、年金運用ではないが、年金のように現役世代から毎月の定期定額の積み立てを一般個人へ推奨している弊社コモンズ投信が長期的に想定している年率リターンと同じ目標だ。

 日本政府は重い腰を上げて、株式投資の比率を上げて運用専門家チームを雇うなど年金改革に踏み切り始めた。団塊の世代の多くが75歳になって年金受給者になる2025年の10年前であるから、ギリギリのタイミングといえるであろうか。

寄付も次世代へつなぐ「長期投資」だと思っている。12月に実施される「Japan Giving」という啓蒙活動に向けて学生たちから取材を受けた

 「賦課方式であろうが積立方式であろうが、年金給付金の財源は確保しなければならない。APGは投資を通じて国外の成長の恩恵を受けるため、90%の資産をオランダ国外で運用している」というAPGのトップの指摘は目から鱗(うろこ)であった。

 ほとんどの日本人は、「投資」という文字を見たときに、「投げる資金」、つまり、大事なお金を自分の手元から遠いところへ投げているギャンブルという感覚に捕らわれている。ただ、投資は英語で「Invest」という。「In」は入れること。そして、「Vest」はチョッキだ。つまり、Investという概念は、自分から遠いところの成長を取り組む可能性があるチケットを自分のチョッキのポケットに入れているということになる。こんなことをいいながら、長期投資セミナーで日本各地を巡っている自分にとって、わが意を得たりだ。

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