海外TVドラマに映画監督参入 個性反映、娯楽大作も
特に最近目立つのは、個性の強い映画監督がクリエイティブの細部まで深くかかわり、監督の作風を色濃く反映したテレビシリーズが増えていることだ。
デル・トロ監督は昨年「ストレイン 沈黙のエクリプス」で初めてテレビシリーズに進出。謎の生命体が人類を脅かすSFアクションで、自ら執筆した小説シリーズを映像化した。ヴァンパイアや怪獣ものの大ファンである彼らしく、ホラーからSFまで様々なジャンルの要素をミックスした映像や予測不能なストーリー展開が熱烈なファンから支持されている。
シャマラン監督は今年「ウェイワード・パインズ 出口のない街」でテレビに参入。田舎町で起こる不可思議な出来事を描くミステリーで、巻き込まれ型サスペンスが得意な彼の原点回帰といえる内容とあって、好評を博した。
ジョエル&イーサン・コーエン兄弟は、初めてアカデミー賞(1996年度主演女優賞、脚本賞)を受賞した自作「ファーゴ」を昨年テレビシリーズ化。映画の世界観を踏襲しつつも、新たなオリジナルストーリーとして製作した。ロバート・ロドリゲス監督も自作の映画「フロム・ダスク・ティル・ドーン」を昨年テレビシリーズ化。自らが設立したラテン系ケーブルテレビ局で放送している。
いずれも監督が製作総指揮を手がける上、第1話などエピソードの数話を自ら監督することも多い。シャマラン監督はテレビ参入の理由をこう語る。「今の映画界はアクション重視だが、テレビドラマは何よりもキャラクターを大事にする。脚本重視だから、人物を深く描いていくには、テレビシリーズがうってつけなんだよ」
自らの世界観にこだわるタイプの監督には、大作主義に拍車がかかる映画界より、じっくりと作品づくりに取り組めるテレビのほうが創作意欲をかきたてられる面があるようだ。
テレビ局にも有名監督を招きたい事情がある。地上波、ケーブル局に加え、ネットフリックスやアマゾンなどの動画配信サービスへの参入で番組製作本数が増え、米国テレビ界は競争が激化している。生き残りの鍵とされるのがオリジナル番組の制作力。特に、スポンサー重視の地上波では難しい自由な表現が売り物のケーブル局や動画配信サービスでは、オリジナルドラマの需要が増している。
一方、ドラマ界全体を見わたせば、映画界のヒットメーカーが製作総指揮にあたる娯楽性の強い大作ドラマも健在だ。「トランスフォーマー」シリーズのマイケル・ベイ監督は「ザ・ラストシップ」で昨年初めてテレビシリーズに参入。パンデミック(世界的な感染の流行)による人類の危機を救う米国海軍駆逐艦の活躍を描く海洋アクションで、ベイ監督の代名詞である派手な爆破アクションもたっぷり楽しめる。
スティーブン・スピルバーグ監督も近年はドラマ製作に力を入れており、昨年はオスカー女優のハル・ベリーを主演に迎えたSFミステリー「エクスタント」、今年は自作の映画を初めてドラマ化した「マイノリティ・リポート」を手がけて話題を呼んでいる。
個性派からヒットメーカーまで、有名監督のオリジナルドラマは今後も数多く予定されている。映画界とテレビ界のクロスオーバーはますます進み、海外ドラマファンだけでなく、映画ファンにも見逃せないラインアップが続きそう。DVDでまとめて楽しむのもよさそうだ。
(「日経エンタテインメント!」12月号の記事を再構成)
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