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 女子大学生が子育てを体験する取り組みが広がっている。共働き家庭の子育てを手助けしながら実態を知ることで、将来のライフプランを具体的に思い描ける。仕事と育児の両立に不安を抱く若い世代の、意識を変える効果がありそうだ。

 10月下旬の晴れた土曜日、東京都三鷹市の公園で3歳の女の子と遊具で遊ぶ2人の女子大学生がいた。北里大1年の斎藤優花さん(20)とお茶の水女子大4年の須藤彩さん(22)だ。

「家族留学」に参加した北里大1年の斎藤優花さん(東京都三鷹市)

「家族留学」に参加した北里大1年の斎藤優花さん(東京都三鷹市)

女子大学生の団体「manma(マンマ)」が1月に始めた「家族留学」の一環だ。女子大学生が安心して母になれる社会をつくるという活動方針だ。共働きの家庭へ派遣した大学生が、育児を一日体験する。保育園への迎えや食事の世話、働く女性やそのパートナーとの交流を通じて、結婚生活を垣間見る。

この日初めて参加した須藤さんは大手メーカーの営業職の内定を得た。「面接では『ずっと働き続けたい』と答えていたけれど、育児と仕事を両立できるのか不安で話を聞いてみたいと思った」と打ち明ける。2度目の参加だという斎藤さんは「結婚や育児は遠いことだと思っていたが、家族留学を経験して自分もしたいと思った」と笑う。

「留学先」はIT(情報技術)関連会社に勤める40代の女性の一家。夫、3歳の長女、1歳の次女と4人暮らしだ。これまでに3回、家族留学を受け入れた。「夫が忙しく、1人で2人の子をみるのは大変。長女に寂しい思いをさせることもあったが、大学生のお姉さんと遊んで予想以上に喜んでいる」と歓迎する。

働く母親の先輩として、学生に助言することもある。「私は目の前の仕事に一生懸命になりすぎて、結婚や出産が遅れた。仕事は大事だけれど、女性が産める時は限られている。常に心のどこかで結婚・出産を考えてほしい」

マンマ代表の新居日南恵さん

マンマ代表の新居日南恵さん

マンマの代表で慶応義塾大3年の新居日南恵さん(21)は「今の大学生の母親には専業主婦が多く、働きながら子育てをできるかどうか、イメージしづらい」と話す。キャリア教育は盛んだが、結婚や出産について具体的な教えを受ける機会は少ない。多様な生き方に触れるきっかけをつくりたいと活動を始めた。

口コミで広がり、約140人の学生と、約120の家庭が登録する。希望する学生向けに事前に必ず説明会を開く。学生も受け入れ先も双方無償だ。首都圏だけでなく、大阪や高知、神戸など活動地域は広がりつつある。

2010年に設立したベンチャー企業、スリール(東京・新宿)は「ワーク&ライフ・インターン」を進める。2人1組の学生が月6回、4カ月間にわたって同じ家庭を訪問。子育てを通して学ぶ。「女子大学生には専業主婦志向が強いというが、育児と仕事をどう両立していいか分からない学生は多い」と堀江敦子社長は指摘する。

インターンシップを経た学生が将来、「子どもが生まれた時に安心して向き合え、相談できるロールモデルがいる」社会が理想だ。最後には学生がチームに分かれて、子育てしやすい社会を実現するためのアイデアをプレゼンテーションする。これまでに400人以上の学生が体験した。「イクメン」や女性の活躍に興味を持つ男子学生の参加も増え始めた。

明治学院大3年の矢代雄也さん(21)は「夫が単身赴任の家庭に行った体験で、女性の負担がすごく大きいと感じた。女性ばかりが家事・育児をしてキャリアの可能性が減り、男性だけが働きやすいのはおかしいと思うようになった」と話す。「将来自分が結婚したときは育児や家事に参加しないと、負い目を感じると思う」

今年からは企業との提携にも力を入れる。大阪ガスの社員宅へ、同社に関心を持つ学生がインターンとして訪れた。社員とのふれあいから入社後の働き方、暮らし方を想像でき、採用のミスマッチを防げる。会社側は社員の子育て支援になる。今後は中小企業などと提携を進める。

ベビーシッターの働き手として女子大学生に着目する企業も出てきた。ベビーシッターサービス「キッズライン」を提供するカラーズ(東京・港)は8月、女子大学生を対象に育児スキルの無料研修講座を開いた。希望者は修了後にシッターのアルバイトをできる仕組みだ。

研修には100人以上の申し込みがあり、急きょ追加枠を設けた。シッターの経験者からは、「育児をする働く女性と接することで10年後の自分のイメージが湧いた。子どもを産む不安がなくなったという感想が寄せられた」と経沢香保子社長は喜ぶ。

日本ではシッターに預けることに後ろめたさを感じる母親が多いが、女子大学生が来て語学や楽器、体操を教えてもらえ「家庭教師のような感覚で、母親の罪悪感が薄らぐ利点がある」という。学生の空き時間は授業を終えた夕方から夜。「働く母親が一番忙しい時間」の貴重な労働力になる。

「既存のシッターは高いし、手続きが大変」という経沢社長自身の実感から生まれた。キッズラインではシッター自身が時給を決める。インターネットやSNSを駆使して経費を減らし、仲介料を抑えた。1時間1000円から使える。経沢社長は「米国では女子大学生のベビーシッターは一般的。女性の活躍を促すなら家庭にシッターは不可欠で、アルバイトの女子学生にも勉強になる」と意義を強調する。(関優子)

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