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nouon  多国籍・無二の編成が導く風通しの良さ

2015/10/22

 nouonは男女4人組のインストゥルメンタルバンドだ。「ノウオン」と読む。カルテットという単位は音楽グループとして極めて普通といえるが、メンバーの国籍は見事に分散している。日本人が2人、米国人と英国人が1人ずつ。2人の外国人はいくつかの異なる国の都市を経て、現在は東京に住んでいる。

日本人2人に米国人、英国人という多国籍のバンドだ=写真 前澤 秀登

 そして国籍以上に楽器編成が珍しく、おそらく世界唯一といえるだろう。山田あずさによるビブラフォンとケビン・マキューのエレクトリックピアノ、ヒュー・ロイドのコントラバスクラリネット、さらに山本淳平のドラムというのが、その内訳である。まずビブラフォンと電気ピアノ奏者が共存する編成があまりないし、何よりそこにコントラバスクラリネットという珍しい楽器が入るのが異彩を放っている。長さが1.6メートルもあり、低音を担うクラリネットとして知られるバスクラリネットより、さらに低い音域まで出せる楽器だ。

 10月9日、東京・代官山の「山羊に、聞く?」という奇妙な名のカフェ・バーで開かれたライブは、そんな変則カルテットであるnouonのデビューアルバム「KUU」の発売を記念した公演だった。「KUU」は山田とマキューの作った楽曲で占められているが、この夜、休憩をはさんで2つのセットに分けられたライブでは、山田やマキューの新曲に加えてロイドの書いた曲も演奏された。

ビブラフォンを演奏する山田あずさ=写真 前澤 秀登

 まずはジャズや現代音楽、ポップスなど、いろいろな様式を見渡し、様々な観点を抱えた流麗な楽曲がある。それを軸に据えながら、4つの異なる楽器の音が思うままに綱引きし合う。

 玉を転がすように響くビブラフォンの音の塊と、メロウさと刺(とげ)のような感覚が共存するエレクトリックピアノの音が絶妙にかみ合いながら、それぞれの個を主張する。ロック畑出身の山本は、曲の趣に沿ってバンドの音に芯を与えていく。

 やはりロイドの繰り出すコントラバスクラリネットの音がとりわけ面白い。低音の帯といえるものを提出するとともに、時には地から天に湧き上がるようなソロも引き受ける。

 こうした楽器音の妙や、あらかじめ構成された部分と即興の部分の調和の妙で成り立つnouonの演奏は、柔和なものから諧謔(かいぎゃく)に満ちた曲まで、きわめて多彩である。1つの曲のなかでも、曲の表情がどんどん変化していったりもする。

 これは誰々風の演奏や音であると、例えられる対象がなかなか思い浮かばない。こうした行き方の軸にあるのは、既存のグループと異なることをやりたい、この構成員ならではの個性的なインストゥルメンタル音楽を作り上げたいという4人の強い意志だろう。だからこそ、彼らの演奏は安易なジャンル分けを拒否し、聞き手の様々な解釈を引き出すものになるのだ。

バスクラリネットより低い音域を出せるコントラバスクラリネットを吹くヒュー・ロイド(中央)=写真 前澤 秀登

 同時に、彼らのあり方には、東京というコスモポリタンな都市が持ち得るニュートラルさ、選択肢の多さが導く風通しの良さのようなものが息づいてはいないだろうか。東京で結成されたバンドならではの、宙にぽっかり浮いたようなしなやかさや洗練をnouonは間違いなく内包している。

 かつてクラリネットやサックス奏者として活動していたロイドがコントラバスクラリネットという希少な楽器に出合い、その専任の奏者となったのも東京に住んでからだったという。ちなみに、この不思議なバンド名は「on(オン)ではない」、つまり常にフラットな状態であることを意味しているのだそうだ。

 ところで、今から50年も前になるが、米国にモダン・ジャズ・カルテット(MJQ)という、クラシック音楽をしっかりと踏まえた人気ジャズグループがいた。ミルト・ジャクソンのビブラフォンとジョン・ルイスのピアノの絡みを軸に新たなジャズ表現を創作してジャズ史に大きな足跡を残し、その室内楽的なジャズは「サード・ストリーム(第三の流れ)」とも呼ばれた。

 nouonとは、東京という場の自在さを介した21世紀のMJQ的な存在ではないか……。この夜の彼らの我が道を行かんとする実演を見て、そんな見解をぼくは持った。

 「第三の流れ」と呼ばれるような、ジャンルの狭間で漂う大人の音楽が脚光を浴びる時代がまた来るのだろうか。創意という名の清風が吹き渡るnouonの表現を聴きながら、ぼくはそんな飛躍した思いを抱いてしまった。

(音楽評論家 佐藤 英輔)

エレクトリックピアノを弾くケビン・マキューは米国出身=写真 前澤 秀登
山本淳平はロック畑のドラマーだ=写真 前澤 秀登
デビューアルバム「KUU」の発売記念ライブでもあった=写真 前澤 秀登

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