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ワタミとサントリー、マグロづくしの居酒屋をオープン

2015/10/31

日経トレンディネット

 ワタミフードシステムズ(東京都大田区)は2015年9月16日、日本籍船が漁獲した天然マグロを提供する居酒屋「ニッポンまぐろ漁業団」を東京・新橋にオープンした。

 この業態は、サントリー酒類の市場開発本部グルメ開発部と共同で企画・開発したもの。ワタミ系列の大型店舗(150席以上)を業態転換する形で店舗を増やし、3年から5年の間に約30店舗にするという。

 ワタミは居酒屋や宅配食など主力事業が軒並み経営不振に陥り、介護事業の売却を決めるなど、逆風の真っただ中。「ワタミ」の名を冠さない新業態店を次々に展開しており、同店もそのひとつ。

 だがなぜ今、“日本籍船漁獲の天然マグロ”をウリにするのか。これまでのワタミグループの居酒屋とどこが違うのだろうか。

2015年9月16日にオープンした「ニッポンまぐろ漁業団 新橋店」(港区新橋2-14-3)。営業時間は16時から24時(休祝前日は27時)。94坪で176席
漁港や漁船にいるような臨場感を演出した店内は4つのエリアで構成。「漁港・波止場エリア」には全長8メートルほどにもなるマグロ漁船、魚市場を走るターレットトラック、海岸に設置されているテトラポット、マグロ漁に使用する浮き球や漁旗などがディスプレイされている

マグロを船ごと買い上げているので、船の名前が品書きに表示されている。船が違えば漁場も違い、釣れるマグロの種類も違うためだ
様々な魚種(ホンマグロ・ミナミマグロ・メバチマグロ・びんちょうマグロ)や、それぞれのさまざまな部位が楽しめるよう、工夫されたメニュー

■マグロの全てをひと皿で堪能できる

 同店のいち押しメニューは、マグロの6種類の部位の刺身盛り合わせ「まぐろ尽くし」。赤身からトロ、希少な脳天やカマまでをひと皿で味わえる。マグロは刺身の盛り合わせに必ずついてくるが、違う部位を一度に食べるのはせいぜい、赤身とトロの盛り合わせくらい。6種類もあると、それぞれ「こんなに違うのか」という驚きがあり、特に頭の身をユッケ風にしたものは、マグロというよりまるで牛肉のような味わいだった。

看板商品はホンマグロ、ミナミマグロ、バチマグロの中トロ、バチマグロ赤身、バチマグロ頭肉、ホンマグロカマトロまでを楽しめる「まぐろ尽くし 六点の食べくらべ」(2人前1490円)。手前の小鉢は頭の身のユッケ風

 あまりのボリュームに、この盛り合わせだけで満足してしまいそうな気がするが、それを見越してだろう、網で炙って食べられる工夫があった。大トロを炙るのはもったいなくて少々気が引けたが、炙ることによって部位ごとに刺身と違う味わいが生まれ、最後まで食べ飽きることがなかった。

ミナミマグロの腹部分を大胆にカットし、赤身の中でも極上とされる天身から脂ののった砂ずりまで、1枚ですべて堪能できる「ミナミまぐろ 断面切り一枚刺し」(1890円~)。重さに応じた3段階の価格設定

 同店で初めて見たもうひとつのメニューが、「ミナミまぐろ断面切り一枚刺し」。魚を横からスライスしているので、赤身、中トロ、大トロ、幻といわれる砂ずりまで、一枚の切り身で全て味わえる。

 これもかなりのボリュームなので、2人くらいならまぐろ尽くしかこれか、どちらか一品にしておくほうがよさそうだ。

 ボリュームでいえば、「まぐろの塩メンチ」も直径10センチのビッグサイズ。4人くらいで食べてちょうどいいサイズで690円と、かなりリーズナブル。

 客単価は3500円程度というが、メニューの選び方ではもっと安くあげることもできそうだ。逆に頼み過ぎると大変なことになりそうなので、先に店員にボリュームを確認したほうがいいだろう。

 感心したのが「まぐろ漬けの石焼きめし」(890円)。マグロは火を通すのが難しい魚で、一つ間違うとパサパサになってしまうのだが、この料理はご飯に混ぜて石焼きにすることで、半生の状態に仕上げている。マグロの料理法に精通しているからこそのアイデアだろう。

「まぐろ漬けの石焼きめし」(890円)。ピリ辛味のたれに漬けたマグロを混ぜ込んだご飯を石焼きにすることで、ほどよく火が通る。食感のアクセントに入れているヤマイモのあられ切りが効いている
「獺祭 酒粕アイス」(390円)。濃厚な酒粕風味で、麹の米粒が味わいを引き立てる大人のデザート

■獲っている漁師の顔が見えるマグロ

 日本は世界一のマグロ消費国だが、近年、乱獲によってマグロの数は激減。加えて世界的な日本食ブームで、消費量が爆発的に増えている。深刻化するマグロ不足への対策として、完全養殖マグロも注目されているが、やはり天然マグロへの憧れは根強い。

 一方、近年は日本食ブームでマグロの消費量が世界中で爆発的に増大。しかし天然物はやはり限りある。そこで90年代から、捕獲した若いマグロに餌を与えて太らせてから出荷する「蓄養」が、豪州や地中海沿岸などで行われるようになった。しかし結果的にそれが、若いマグロの乱獲につながるなど、新たな問題も指摘されている。

 そんななか、率先して持続可能な漁獲量や漁獲法などに取り組んでいるのが、日本籍船だ。海外籍船が、幼魚も含めて根こそぎ捕獲する巻き網漁なのに対し、日本籍船は成魚を一尾ずつ釣るはえ縄漁。捕獲の段階で魚を傷つけにくいうえ、船上処理、船上凍結といった鮪の品質を決定付ける設備の能力も、各段に高いのだという。

 「“国民食”といわれるマグロだが、今回の業態開発で実際にこの目で見て、あらためて日本籍船のマグロの価値の高さを知った。今、さまざまな理由が重なり日本籍船が減っていき、海外籍船が増えている。その状況をなんとか変えたい。日本籍船のマグロの価値を多くの方に知っていただくことで、日本伝統のマグロ漁業を応援したい」(ワタミフードシステムズ 居酒屋営業部 星原弘征営業部長)

マグロの心臓や胃袋など、新鮮な内臓を使ったメニューは船ごと買い付ける同店だからこそ提供できるメニューだという
「船長のハイボール」(390円)は器もビッグサイズな船員風。船長が漁に出た先でハイボールを楽しんでいるという想定で、カナディアンウィスキーを使用している

 星原営業部長によると、同店の料理の最大の特徴は、全国の遠洋カツオ・マグロ漁業者による生産者団体「日本かつお・まぐろ漁業協同組合」に所属する漁船と直接取引のある、特定の卸業者から船ごと買い付けていること。そのため、「どの漁船がどの海域で獲ったどんなマグロなのか」という履歴が追えるのだという。いわば“漁師の顔が見える”マグロというわけだ。

 船ごと買い上げることで漁師の経済的な安定にも役立ち、通常は捨ててしまう内臓なども新鮮なまま提供できる。「内臓から鮮度が落ちるので、通常は取り除いてから冷凍する。そのため心臓や胃袋などの新鮮な内臓を使った料理は、船上の漁師だけが食べられる珍味だった。それが食べられるのはここしかないのでは」(星原営業部長)。

 また同社ならではの事情も垣間見える。ワタミ系列店はどこも駅近の好立地だが、入りにくい空中階の店舗が多い。さらに総合居酒屋離れも起こっている。ワタミの持ち味である総合居酒屋の文化も残しつつ、特色を出す必要に迫られていた。そこで「専門性のある総合居酒屋」という業態を目指し、行きついたのが同店というわけだ。「マグロの魅力とともに、日本のマグロ漁業が置かれている危機的状況も伝えたい。弊社にも厳しい風が吹いているが、この店を成功させてワタミの発展を遂げ、この店にかかわる人全てを元気にしたい」(星原営業部長)。

 マグロは好きでよく食べていたが、これだけ種類や部位が違うマグロを一度に食べ比べたのは、今回が初めて。“おいしいが、特に珍しさもない食材”というイメージが、今回の試食で大きく変わった。また日本人が天然マグロをこれからも食べられるよう、逆風の中、持続可能な漁法を必死に守り続けている日本籍船の姿勢を初めて知った。

 一方で、漁港の雰囲気という演出が、昨今多い“産直居酒屋”系の店とだぶって見えないかという疑問も感じた。せっかくマグロの新しい魅力に触れられる新鮮味のあるメニューが多いのに、もしその演出のために既視感が生まれ、スルーされてしまったら、あまりにももったいないと思うのだ。

(ライター 桑原恵美子)

[日経トレンディネット 2015年9月24日付の記事を再構成]

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