週末の手作りおやつ 半日干しで甘みが増すミニトマト
―― 普通のミニトマトなのに、こうやってたくさん干してあると妙にかわいいですね。
朝から干し始めたので、そろそろ半日になるかな。ミニトマトを半分に切って種を取り、日干しすれば出来上がりです。
種を取る作業がちょっと面倒に感じるかもしれませんが、種を付けたままだと乾きが悪いんです。特に、この地域は海が近いこともあって湿気が多いので、すぐにかびてしまって。取った種はスープに入れたり、ドレッシングに混ぜ込んだりするといいですよ。
半日ほど干すと水分が飛んで甘みが強くなります。それを10歳の娘がパクパク食べるんです、リスみたいに。ミニトマト2パック分をこうやって干しておくと、半分くらいを娘がおやつに食べて、あとの半分は夫と私の夕食時のおつまみになります。
―― 早速、一ついただきます。
そのまま食べてもいいし、パンにのせてオリーブオイルをかけてもいいし、クリームチーズと一緒に食べてもおいしいですよ。
―― なるほど。甘みがしっかりあるので、パンやチーズと相性が良さそうですね。見た目から受けるイメージとちょっと違って、意外にしっかりした歯応えです。
夫なんかは「なんでこんな生温かいトマトが好きなんだ?」と不思議がります。トマトは冷たくして食べるもの、という考えで、トマトを焼いたり煮たりするのがあまり好きではないんです。味覚が保守的なんですね。対して、娘はそういう先入観がない。冷やさないで干したままのほうがトマトらしい味がするって言います。子どもって舌が素直ですよね。
「おやつ=お菓子」ではなく補食
―― 「おやつ」というと、どうしても甘いお菓子を連想してしまいます。
夏のおやつは、こういう干したトマトやゆでたトウモロコシ、もぎたてのキュウリだったり、枝豆だったり。うちでは「おやつ=補食」という捉え方です。「おなかがすいた」って娘が言えば、「トマトあるよ」「トウモロコシゆでたよ」と言い、「すっごくおなかがすいた」って言えば、パンやおにぎりを食べさせます。
お菓子を食べて夕飯を食べられなくなるのは困るので、ものすごくおなかがすいているようなら早めの夕飯を食べさせてしまう。そうしておけば、実際の夕飯の時間はサラダだけとか、スープだけとか、食べられる分だけ食べればいい。無理やり「ごはん食べなさい」とは言いません。
―― なるほど、早めに夕飯の一部を食べさせてしまうという考え方だと、大人たちが食べるときにあまり食べなくてもそんなに気にならないですものね。
もともとうちの娘は、クッキーの頂き物があっても、その横にあるおしんこに飛び付くタイプなんです。とはいえ、娘もチョコレートなどは好きですよ。時々「買っていい?」と電話がかかってきます。友達の家でたくさんお菓子を食べて帰ってくるときももちろんあります。夕飯時にも「全然おなかがすかない」と言って食べないことがあって、そういう日があっても仕方ないとも思っています。
―― 冬だとどんな野菜のおやつになりますか。
根菜のチップスとか、フライドポテトとか。友達を連れてきたときにフライドポテトや揚げ餅を作ると、みんな喜びますよ。
買ったものがダメというわけではないんです。ただ、ここにはコンビニも近くにはありません。一番近いスーパーでさえ、車で10分ほどかかる。お菓子を買いに行くだけで時間も労力もかかるわけです。だったら家で簡単なものを作ろう、と思うようになりました。東京の都心に住んでいたら、違ったかもしれませんよね、「裏のお店でおやつ買っておいでー」って。
離乳食の時期から何でも食べさせた
―― お子さんに好き嫌いがないのは、教育の成果なのでしょうか。
うーんどうかなあ…「イヤ」とか言わせないから。でもやっぱり、離乳食のころから何でも食べさせたのがよかったかなと思っています。生魚はいけないとか、色々言われますよね。だけど私そういう育児関係の本を読んでいなかったし、聞く耳も持っていなかったし。
娘が離乳食を食べていた時期、仕事が忙しいときで月の半分は「合宿」状態でした。母が長野から応援に来て娘の面倒を見てくれて、その間に私はまとめて一気に撮影などを済ませていました。その母も、私が娘に食べさせるものについて特に何も言わなかった。1回だけ、「そんな長いうどん食べさせるの?」と言われたことはありますけど。あとは何も言わなかったから、きっと大丈夫なんだろう、って。
―― 仕事の合間に離乳食も作っていたのですか。
娘のためだけに離乳食を作ったことはなかったように思います。大人が食べるものの味を付ける前に取り置いて、潰したり柔らかくしたり、たたいて細かくしたりしていました。そんなふうにして、大人と一緒のものを食べさせたのもよかったのかな。ちょっと苦いもの、酸っぱいものも、遠慮なく食べさせましたよ。ゴーヤーとか山菜とか、娘は当時も今もすごく好きです。
嫌なら赤ちゃんは口から出しますよね。そういうときに、無理やり食べさせたりはしませんでした。ただ、赤ちゃんが一回口から出したからといって、諦めなかったのもよかったんだと思います。その日は食べたくない、という気分になること、大人でもありますよね。一回口から出したから「うちの子どもはこれを食べられないんだ」と決め付けないほうがいいんじゃないかなと思います。
うちの娘も時々、ムッと口をつぐんで一切何も入れさせてくれないときもありました。それでもくじけずに、繰り返していました。「すっぱーい」「にがーい」っていう顔が面白くて、その顔見たさにあげていたようなところもあります。
好き嫌いに関しては神経質にならず
―― 子どもが食べるものだけ作るようになってしまうと、だんだん子どもの好きなものも狭まってしまいますものね。
とはいえ、子どものころは無理やりあれもこれも食べろと言わなくてもいいんじゃないか、とも思うんです。よほど太り過ぎでない限りは、多少の偏食があっても元気ならいいと、私は思います。偏食があっても風邪も引かないくらい元気な子もたくさんいるわけだから、好き嫌いに関してはあまり神経質にならなくてもいいように思います。
ただ、好き嫌いがないと親は助かりますよね。外食もラクです。外国に行っても、地方に行って郷土料理的なものを食べたいと思っても、「子どもがいるから……」と諦める必要がない。
―― 近くにスーパーがないとのことですので、買い物は週に1回、まとめ買いですか。
いいえ、この辺の直売所で野菜を買っています。朝、仕事前にすべて買い物を終える感じです。お昼過ぎにのこのこ行くと、野菜も魚ももう何も残っていない。仕事で撮影があると夕方の予定が立ちにくいので、なおのこと、早朝のうちに買い物を済ませるようになりました。
―― お子さんが生まれるのを機にこちらに引っ越してきたのですか。
娘が生まれて4カ月くらいで引っ越してきたんですけれども、子どもができる2年くらい前から「海のそばで暮らしたいね」と夫とは話していて、実際に家を探してもいたんです。当時は子どももいなくて身軽だし、イヤだったらまた東京に戻ればいい、というくらいの気持ちでした。
だから、子どものためではなく自分のために引っ越してきました。「ちょっと東京を離れたいな」という気持ちだったんです。東京がイヤだったわけではなく、二人暮らしで、共に働いて、共に自由な生活で、とずっとやってきた生活サイクルがちょっと苦しくなってきて。もう少しじっくり、のんびりやりたいなあと思うようになっていたタイミングで子どもが生まれ、ちょうどそのときにいい物件も見つかって、背中を押されるようにして引っ越した、という感じです。
魚はおいしいだろうなと予想はしていましたが、野菜までこんなにおいしいなんてまったく知らなくて。
旬の食材を生かし切ることを徹底
―― 引っ越してきたことで、レシピの内容も変わりましたか。
作るものは基本的には変わっていないと思います。ただ、土地のものをよく食べるようになりましたね。東京にいるときも旬を意識して作っていたつもりだったんですけれど、ここに来て直売所とか魚店で買うようになったら、季節によって売っているものがとても限られていることを思い知らされます。冬にナスが食べたいから買っちゃおう、ということがなくなりました。
逆に夏になると毎日、キュウリ、ナス、ズッキーニ、トウモロコシの繰り返しになります。それ以外のものは店に置いていないんです。そのなかから家族に飽きられないように、「またナス~?」と言われないように作らないといけない。旬の食材と向き合う姿勢は、徹底されたかなと思います。
あとは、天気にも左右されますね。海が荒れていたりすると一切、魚が買えません。今日、アジが食べたい、旬だし、と思って店に行っても、その日はアジがない、ということも多々。だから「今日はあれを作りましょう」と献立を決めて買い物に行くことがなくなりました。買い物に行ってあるものでその日の献立とか次の日の献立が決まるんです。
―― ライフスタイルと仕事が密接に関係しているんですね。
私の料理はそういうところからじゃないと始まらないものばかりなので、思い切って引っ越したのはよかったなと思いました。仕事の環境が変わりましたし、家族も増えましたし。
娘も、高校とか大学くらいになったら、ここを出ていくのかなと思っています。私も18歳のときから一人暮らしで、お金のない中でやりくりしてごはん作ったりしました。それが今の基礎になっています。
東京都生まれ。高校の3年間を長野で過ごす。20歳までバレリーナとして舞台に立つ。OLなどを経た後、料理や生活雑貨の原稿を書くように。現在は料理家として本、雑誌、テレビなどで活躍中。レーシングドライバーの夫・木下隆之さんと娘との3人で、神奈川県の葉山の家で暮らす。著書に『常備菜』(主婦と生活社)、『野菜のおかず』(学研パブリッシング)など多数。
(ライター 山田美紀)
[日経DUAL 2015年7月28日付の記事を再構成]
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