マネー研究所

カリスマの直言

米に旅行…日本人が知らぬチップの常識(田代桂子) 大和証券グループ本社取締役常務執行役

2015/10/11

「多くの場合、チップは良いサービスの対価として支払うものではなく、従業員の給与の一部をオーナーに代わって支払っている」

 アメリカには飛行場を出た時からつきまとうチップという習慣がある。チップの支払い用に現地の小銭をわざわざ用意しているとすれば、日本国内で渡航準備をしている時からこの習慣に煩わされていることになる。3日も滞在すれば一度はチップの支払いの有無とか支払い金額に関して心地悪い経験をするのではないか。私もホテルにチェックインした後、小銭を用意するのを忘れてベルキャプテンから奪うように荷物を取り上げて自分で重いスーツケースを部屋まで運んだり、レストランで悪いサービスを受けてチップの支払いをすべきか悩んだり、後味が悪い思いを何度もしている。

 アメリカに住むようになってからチップとして支払う金額があまりに多いのに驚いた。たとえば、一番金額が大きいのがレストランで支払う税加算前飲食代20%相当のチップ。クリスマス前にアパートのドアマン、受付、警備員に払うチップの総額は1000ドル(約12万円)になる年もある。そこで、エチケットを知らないがための不愉快な思いをしたくないこともあり、職場のアメリカ人にアドバイスをしてもらったり、ネットで調べたりした。

 わかったのは私がチップについて根本的にまちがった認識を持っていたことである。チップは良いサービスの対価として支払うものだと思っていたが、多くの場合はそうではなく、単に従業員の給与の一部をオーナーに代わって払っているのである。また、チップの金額は単に掛け算だけではなく、かかる手間隙(ひま)と時間を考慮して合理的に考えるべきものだということがわかった。

 まずはレストランで食事する場合のチップについて考えてみたい。レストランの従業員は大きく2つ、受付、クローク、バーテンダー、サーバー(ウエーター、ウエートレスの総称)、サーバーのアシスタント(飲み物を運ぶ、皿を下げる担当)、ソムリエなど顧客と直接接するtipped employee(以下、チップ制従業員)と、シェフ、皿洗いなど顧客と直接接しないnon-tipped employee(以下、チップ制でない従業員)に分かれる。

 連邦政府により、それぞれの最低賃金は時給2.13ドルと7.25ドルに規定されているが、チップ制従業員についてはチップを含めた最低賃金が7.25ドルに満たない場合はその差額を雇用者が補うとされている。つまりチップ制従業員の給与の一部をレストランのオーナーに代わって顧客が支払う仕組みとなっているので、チップ制従業員は私たちの払うチップをサービスの対価としてではなく、給与の一部としてしか考えていないことになる。チップが少ないと追いかけてくる理由はここにある。

 顧客に給与を払わせるこの2層の最低賃金の考え方には異論も多く、カリフォルニアなどいくつかの州は2つの最低賃金を同水準にしている。ニューヨーク州の最低賃金は2層になっており、チップ制従業員の場合は時給5ドルちょうど、チップ制でない従業員が8.75ドルとなっている。しかし実際は、カリフォルニアではサービスに対する対価分のチップ、ニューヨークではサービスの対価に給与の一部を足してチップを払うことを意識して払う客はまずいない。さらに連邦政府の定める時給7.25ドルを下限に州の裁量で規定される最低賃金は最低の7.25ドルから最高の10.5ドルまで幅広いのでアメリカ全土共通のチップの目安は無いと考えた方が良さそうである。

 ニューヨークのレストランに入った場合をもう少し具体的に考えてみたい。まず入り口のバーに立ち寄るとする。この際、勘定をレストランと合算する場合はレストランのチップにバーテンダーが含まれない可能性があるのでバーテンダーにチップを事前に払った方が良い。また、私はバーのチップも合計の20%(かつ最低2ドル)に欠けるぐらいが妥当と考えていたが、そうではないらしい。

 ごもっともな話だがワインを注ぐだけとか、ビールの栓を抜くだけより、カクテルを作ったり、生ビールをサーバーから注いだりする方が熟練を要するので同じ料金でもチップの金額を多くすべきだという。その通りなので以降は単純作業には2ドル、スキルを要するドリンクには20%(最低2ドル)払うことにした。

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