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カリスマの直言

郵政3社上場、波乱の予感(渋沢健) コモンズ投信会長

2015/9/20

「郵政3社の上場についての懸念は、大量の株式が市場に売り出される需給悪化だけではない」

 今年の夏は暑かった。株式市場の気温もお盆明けまで高かったが、8月下旬に中国の景気減速と米連邦準備理事会(FRB)の利上げ観測という2つの台風が同時発生し、大荒れ模様となった。日差しが少々戻ったと思いきや、雲の様子は再び怪しくなり不安定な天候の日々が続く。秋から株式市場が少々荒れるというイメージを持っていたが、季節の節目が早めに訪れたようだ。

 もともと国内株式市場の雲行きを怪しくするのは、日本郵政とゆうちょ銀行・かんぽ生命保険という例がない同時の親子上場。そして、その後にFRBの利上げ観測などがボディーブローのように効いてくると想定していたが、順序が逆になった。

 日本郵政とゆうちょ・かんぽの親子上場は、波乱を予感させる。先に上陸した2つの台風で市場が揺らいでいる中に大量の株式が市場へ売り出される需給悪化の懸念だけではない。近年、強化に向けて意識が高まっている日本のコーポレート・ガバナンス(企業統治)の潮流に反するような親子上場を政府が自ら手掛けていることが気になるのだ。また、今回の政府親子会社をなるべく高い価格で売り出すために、アベノミクスの実弾である公的年金・日本銀行が大量の株買いに動いたのではないかという思惑が頭の中を横切る。

 財政がひっ迫している政府が株式の売り出しによって復興財源を確保したいという考えは理解できる。報道によると、ひとまず4兆円を目指し、今回の親子上場では1兆4000億円を確保したいようだ。また、証券会社が今回の親子上場から期待できる莫大な手数料に魅力を感じるのは自然な現象だ。しかし、売り出す株式の8割は国内向けで、そのうちの9割を個人向けにする予定という方針は、成長が乏しい会社の株式を海外投資家が買うわけがないので、ほとんどを日本の個人へ「ハメ込め」ばコトが収まるという策にもみえる。

 ゆうちょ銀行のPBR(株価純資産倍率)が0.5倍弱など株価が割安という観測もある。しかし、民間銀行とゆうちょ銀行の資産の構造は異なる。銀行の資産は大まかにいえば、顧客から調達している預金に対して、7割ぐらいが貸し出しで3割ぐらいが有価証券投資になる。一方、ゆうちょ銀行は貸出業務をほとんど行っておらず、株式売出届出目論見書によると、預金残高(178兆円)に対して有価証券投資残高(155兆円)は約87%である。

 また、民間の銀行や保険会社の領域は国内にとどまらず、海外への業務出店などの長年のノウハウが無形資産として存在している。ゆうちょ銀行やかんぽ生命にはない資産だ。つまり、民間銀行・保険会社と比べてゆうちょ銀行・かんぽ生命の資産の対価であるPBRが劣るのは当たり前であり、特に割安感を感じない。

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 また、ゆうちょ銀行・かんぽ生命の有価証券投資のほとんどが超低金利の国債など円建て債券であることを考えると、期待されている高配当の財源が何になるのであろうか。かんぽ生命は保険料という収入があるが、ゆうちょ銀行は金利差収入が主だ。まさか、毎月分配型投信のように資産を食いつぶしても分配資源に充てるということを考えていないだろうと願うばかりだ。

 日本の一般家計の現金保有が豊富だからといって、持続的な成長に多くの留意点がある会社の株式を、高い知名度を使って、一般個人へ勧誘することに違和感を覚えるのは私だけであろうか。そもそも上場する本来の意義は既存株主の現金化という出口戦略ではなく、公開企業へ転身することによって、身を公(public)の目にさらし、成長資金を得ることだ。しかし、今回の親子上場で株式を売り出しても日本郵政株の政府の持ち分はなお89%。上場後も、政府系の親子会社であることは明らかで、それらの会社が成長を図れば、それは民業の圧迫になる。

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