マネー研究所

カリスマの直言

カード情報が盗まれる米国の事情(田代桂子) 大和証券グループ本社取締役常務執行役

2015/9/6

「消費大国のアメリカだが、便利なクレジットカード払いは大きな問題を抱えている」

 消費大国のアメリカは、いかに多くの消費者が簡単にお金を使うかの工夫をしてきた。現金から小切手、小切手からクレジットカード、電子決済のペイパルと、簡単にさらにたくさんの買い物が出来るように最新技術を使ってきたかのように思える。

 日本とアメリカでは支払い方法が結構違う。単純な比較をするのは難しいが、いくつかの統計から推察すると決済手段として現金比率はアメリカが約30%、日本が約80%となっている。実際、私も日本では週に2度だったATMの利用が2週間に1度になった。その代わり500円程度の支払いでもクレジットカードを使うようになり、月に数回口座振替、小切手を利用するようになった。

 安全で安くて簡単であることを追求した結果このような組み合わせになったが、大きな問題もある。一番利用するクレジットカードで多くの人々に不都合が起きているのだ。クレジットカードの不正利用である。

 私は日本に住んでいたころから1000円からでもクレジットカードを利用するヘビーユーザーだったが、使い始めて30年近く、一度も不正に利用されたことは無かった。しかし、ニューヨークに越してきて1年もたたない2013年11月末、被害に遭った。大規模ディスカウント小売りチェーンでの買い物がきっかけであった。買い物をした2週間後、クリスマス商戦中にこの小売りチェーンで買い物をした4000万人のクレジットカード情報が盗まれたと報道され、不正使用を防止するためにカードの再発行を促すキャンペーンが張られていた。

 そうした矢先、カード会社から「お客さま、ノースカロライナでダイヤモンドをご購入なさいましたか?」と身に覚えのない買い物を知らせる電話があったのだ。果たして私のクレジットカード情報は盗まれ、悪用されていた。

 私以外にも日本では一度も被害にあったことがないが、アメリカに来てまもなく被害にあっている駐在員は相当数いる。手口は色々だが、ハッキングなど何らかの手段でクレジットカード情報を不正に入手し、国際犯罪組織に情報が売却される。それをもとにカードが偽造され、組織による大口購入に利用されるようだ。私はノースカロライナだったが、シンガポール、パリなどのケースもあり、不正利用されるのはグローバルだ。

 調査会社Nilson社の7月のリポートによると、カードの不正利用による14年の総損失額は世界で163億ドル(約2兆円)。アメリカでの損失額は全世界の約半分(48.2%)を占めている。世界の損失額はカード利用100ドル当たり5.65セントだが、アメリカは12.75セントにもなっている。実に不正利用額が他地域の倍以上である。被害に遭う可能性は使った金額ではなく、使った回数によることを考えると(私の場合、5ドルのクリスマスの飾りつけを買った結果が不正なダイヤモンドの購入につながった)、日本より少額でもクレジットカードを使う頻度が高いアメリカで被害に遭う機会は大幅に増えることになる。

 実は00年前半までは他地域とアメリカの不正利用の差はほとんどなかった。しかし、増え続けるクレジットカードの不正利用に対応するため、このころから米欧のカード大手が主導してヨーロッパを中心にグローバル標準として採用された、従来の磁気テープ式よりセキュリティーが強固なEMV方式(ICチップ入り)のクレジットカードが普及し始めた。日本をはじめアジアでも00年後半にはEMV方式のカード発行が進み、小売店でも対応する読み取り器への切り替えが進んだ。イギリス、カナダでは導入により偽造カードによる被害が金額ベースで70%以上減少したと報告されている。

 一方、アメリカはEMV導入に抵抗してきた。EMVを運営しているEMV社が5月に発表した統計によると、14年に発行されたEMV方式のカードがクレジットカード発行に占める割合は主要ヨーロッパ諸国で83.5%、アジアで25.4%、アメリカで7.3%となっている。さらに、小売店による読み取り機の対応が遅れているため、実際の取引に占める割合はアメリカではさらに低く、それぞれ80%、27.01%、0.03%だ。

マネー研究所新着記事