マネー研究所

マネートレンド

国際会計基準と日本の開示制度の将来 専門家に聞く 公認会計士 平林亮子

2015/9/5

 6月末に企業会計基準委員会(ASBJ)は修正国際基準(JMIS)を公表した。これは以前から日本が国際会計基準(IFRS)に対して問題提起していた主要な項目のうちの2つについて「削除又は修正」を加えた日本版IFRSとも言える会計基準だ。その結果、日本の連結会計については日本基準、米国基準、IFRS、JMISの4つの基準から選択できるというクアドラプルスタンダード(4つの会計基準の意)の時代に入った。ディスクロージャー制度の将来について専門家に話を聞く。一回目は金融庁でIFRSの日本への導入に関わり、現在は宝印刷の平松朗執行役員と、コンサルティング会社、ナレッジネットワーク代表で公認会計士の中田清穂氏。

「修正国際基準は日本からの『提言』」

宝印刷執行役員 平松朗氏

 ――2014年、15年と、IFRSを任意適用(適用予定の企業も含む)する上場企業数が増加しています。日本取引所グループが15年9月1日に公表した「『会計基準の選択に関する基本的な考え方』の開示内容の分析」によると、任意適用企業68社、適用決定企業23社、そこにIFRS適用予定企業を加えると合計で112社になるとのことです。金融庁も後押ししているようですが、IFRSの任意適用を認めた10年ごろも、金融庁としてはIFRSを日本に広めようとしていたのですよね?。

宝印刷執行役員 平松朗氏

平松 当時、金融庁は、日本の資本市場振興政策の一環としてIFRSの適用企業を増やそうとしていました。05年、EUでは上場企業の連結財務諸表にIFRSを強制適用することになり、世界中にIFRS適用の機運が盛り上がりました。

 07年末、米国でも外国企業にはIFRSの適用が認められ、翌年には全上場企業に対する強制適用も視野に入ってきていました。それ以前の02年に、IFRSと米国基準とのギャップを埋めるコンバージェンスがすでに始まっていましたし、米国もIFRSを採用するのであれば、日本でのIFRS適用は当然であり必然という声が多くなりました。

 05年のEU市場における強制適用を受けて日本でもコンバージェンスが始まり、07年8月には、国際会計基準審議会(IASB)とASBJの共同声明として「東京合意」を公表するにいたりました。日本基準とIFRSとのギャップを埋める形でのコンバージェンスは、どんどん進んでいったのです。

 ところが、米国における共和党から民主党への政権交代とSECのIFRS強制適用の見送りが明らかになってから、IFRSを巡る国際的な状況が変わり始めました。

 日本においても政権交代、実業界の変化への抵抗、学者の意見の対立など、様々な要因が重なり、11年にはIFRS強制適用は事実上見送られてしまいました。その後、多くの企業でIFRSプロジェクトが解散になったと聞いています。

 ――IFRS強制適用が事実上見送られた時点で、社内プロジェクトを解散したということは、実は企業がIFRS導入に消極的であった現れであるとも言えそうです。当時、上場企業においてIFRS導入に際してのハードルとなっていたものは何だと思いますか?

平松 適用する会計基準を変えるのは企業にとっては大きな負担でしょうし、変化に対する心理的な抵抗感もあったのだと思います。しかも、IFRSには、日本基準に慣れ親しんできた企業にとって、受け入れにくい会計処理が含まれており、11年にASBJから公表された「『アジェンダ協議2011』に対するコメント」にも、のれんの償却・非償却やリサイクリングなど、主要な問題点として6点が取りまとめられています。

 それ以外に、IFRS導入を妨げた要因をあえて挙げるならば、導入コストが不透明であったことと、会計そのものや会計基準問題に明るくない経営者が少なからずいたということだと思います。

 IFRS導入は初めてのことですから、どれくらいコストや労力がかかるかは、にわかにはわかりません。強制適用が見送られ、日本の会計制度の将来像が見えない状況下で、積極的に取り組もうとする企業が少なかったとしても仕方ないですよね。しかも、どんな効果があるのかもはっきりとはわかりません。

 その上、経理担当者が経営者に「原則主義ですから、経営者の考え方を数値に反映させやすくなります。」と伝えても、そこにメリットを感じてもらうことは難しく、むしろ、コストをかけてまで適用する意味があるのかという疑問が生まれてしまうかもしれません。

逆に、IFRS導入のメリットが理解できれば、積極的に取り組むことになるわけです。たとえば、グループ企業がヨーロッパにあってIFRSを適用しているとか、M&Aにより発生したのれんがあるとか、製薬会社のように多額の研究開発費があるとか。実際、製薬会社でIFRSを適用している企業は多いですよね。

マネー研究所新着記事