「小4の壁」どう乗り越える 子供の生活、ルールと工夫
<座談会参加者プロフィール>
横山弘子さん(仮名):千葉県浦安市在住の中3女子と中1男子の母。浦安市の学童は夜7時まで延長料金なしで預かってもらえる。さらに小4まで登録が可能と恵まれた環境で、「小4の壁」というよりも「小5の壁」を経験。2人の子どもは中学受験をして私立中学に通っている。PR会社勤務。
川上桐子さん(仮名):神奈川県横浜市港北区在住の中1女子と小2男子の母。長女は小学校から遠い、父母が運営する公設学童に通わせたが、下の男の子が小学校入学時に民間学童が学校近くに開設されたため、そちらに通わせつつ、1年後には二度目の「小4の壁」を経験することになる。外資系メーカー勤務。
片山里奈さん(仮名):東京都文京区在住の中2男子の母。3年間、公設学童に通わせた後、「小4の壁」を前に「小4の壁を乗り越えるためのコミュニティー」を設立しようかと真剣に考えるくらいに心配していたという経験を持つ。広告代理店勤務。
DUAL編集部 「小4の壁」の第一関門は、春休みを朝から晩まで一人で過ごさせることだと伺いましたが、どういった工夫をされましたか。
片山 息子が保育園時代から仲の良い男の子がいて、そのお母さんもフルタイムで働いていました。それで母親同士で相談して、必ず午前中はどちらかの家で遊ぶようにさせたんです。
春休みも夏休みもこの作戦で行きました。午前中は2人で何をして遊んでもいいとして、昼ごはんはどちらかの家でご飯を炊く。おかずは持参する。昼ごはんを食べた後は、そのまま一緒に遊んでもいいし、それぞれに遊びに出てもいいよ、と。
最初はそれでうまくいっていたのですが、小4ともなれば遊ぶ相手もだんだん変わってしまいます。また、お互いの家族の旅行などの予定も入ってしまい、8月からは都合がつかなくなったり…。結局、そのやり方は自然消滅してしまいましたが(苦笑)。
そのころを境に他の子と遊ぶサイクルが子どもなりにどんどんできていったようで、思いの外、スムーズに独り立ちしていったと言いますか…。親が思うよりは早く「自分一人の生活」に順応してくれました。4年生の夏休み後半からはそうなったので、もう5年生以降の長期休みは"放ったらかし"で大丈夫でした(笑)。
―― 宿題はやっていましたか。
片山 やっていましたね。午前中、「自宅にいる時間にやっておきなさい」と言っておいたので。ただ、文京区では、ほとんどのご家庭が中学受験をさせるんです。ウチみたいに「中学受験しません」って公言する家はほとんど無くて(笑)。
周りの友達はみんな塾に行っていて、塾の宿題がある。そのために学校の宿題があまり出ないんです。子どもにしたらラッキーなんでしょうけれど(笑)。
誰かのお宅に遊びに行くときのルールは「お菓子一袋持参」
―― おやつはどうしていましたか。 親の目が無いと際限なく食べてしまうという話を聞いたことがあります。
片山 息子は痩せ形なので、むしろもっと食べてほしいくらいです。それでもおなかをすかせてしまったらかわいそうなので、いつもお菓子はいっぱい置いてあります。
川上 お菓子に関しては家の中というよりも、外でのルールのほうが色々ありますよね。
片山 そのあたりは親同士があまり知らない関係だと、ルールが分からないので不安ですよね。もしかしたら、そんなルールがあるのかもしれないけれど、実際のところはよく分かりません。
知っているお宅であれば気軽に情報交換もできるし、後から「今日はお世話になったみたいで」などと、何かお菓子を持っていくこともできるんですけどね。
川上 ウチのほうでは専業主婦ママ同士で、自分の子どもが誰かのおうちにお邪魔するときには「少なくともスナック菓子を一袋持っていく」といったルールがあったみたい。なのでウチでもいつもスナックの袋菓子を用意しておきました。ウチの子はあまり食べないんですけど、遊びに行くときのために。
一同 へぇ~。そんなルールがあるんですね。
川上 働いていると、そういう「ローカルルール」に疎くなりやすいと思います。私の場合、保育園で知り合っていたお母さんが退職して専業主婦になっていて、その方から教えてもらえました。
確かに、私が会社を休んだ日に子どものお友達が遊びに来るときには必ずスナック菓子を一袋持ってくるので「なんでだろう」と思っていました(笑)。
「ママが帰ってこない!」とパニクり、学童に飛び込んだ息子
―― 他にお子さんがお一人で1日を過ごすようになってからのトラブルがあったら教えてください。
片山 私が気づいてないだけなのかもしれないのですが、特にはありません。息子にとって私は怖い存在のようで、いまだに反抗的な態度を取っても、最後には言うことを聞いてくれます(笑)。そういうこともあって毎日18時にはきちんと家に帰っていましたし、悪さをするといったこともありませんでした。
あ、そうそう。一度だけですが、カギをどこかに忘れてきてしまって、2階の開いている窓によじ登って家に入ったということがありました。
あと、これはまだ学童に通っているころの話ですが…。家の最寄り駅に着いたタイミングで、私はいつも「今から帰るね」って電話を入れていたんです。その後でママ友にバッタリ出会ってつい話し込んでしまったところ、いつまで経っても私が帰ってこないので不安になった息子が泣きながら「ママが帰ってこない!」と学童に飛んでいってひと騒動ありました…。それ以来、私はすぐに帰宅するように。小4以降は、ちょっと遅くなっても息子がパニックになるようなことはありませんでした。
ケータイを持たせる不安、持たせない不安
横山 私も子ども達が小学生の間はケータイを持たせていなかったので、学童から一人帰りするようになってからは「18時までには帰宅する」と約束して、18時には家に帰宅確認の電話をするようにしていました。
忙しい時期になるとその電話を忘れてしまうこともありましたが、何か「子ども達のリズムが乱れていそうだな」と感じるときには抜き打ちで電話をしていました。
ケータイを持たせない家の問題点としては、友達からケータイを借りることが出てくる。「それは相手のご家庭に迷惑だから注意しておかなければ」と感じていました。
ウチの場合は東日本大震災の後に、緊急の連絡が取れないと怖いということでケータイを持たせることにしたのですが、親以外はすべてブロックしています。やはり女の子ですし、ケータイにまつわるトラブルも多いと聞くので、親以外とは連絡取れないようにと。
―― ケータイを持たせるかどうかは親にとって大きな課題だと思います。どういったトラブルがあるのでしょうか。
川上 やはりメールのトラブルですよね。特に女の子同士の悪口メール。上の学年のお母さんから聞いた話ですが、「明日からは○○ちゃんはシカトね」といったメールが回ってきたことが実際にあったみたいです。
―― 小4にもなるとケータイを持つ子どもも増えるものなのでしょうか。
川上 お姉ちゃんが小4のときに震災があったので、震災を境にケータイを子どもに持たせる家庭が一気に増えた感じがします。みんな震災時に子どもと連絡が取れなくて不安だったという経験をしているので。ウチの地域も確かに女の子にはケータイを持たせる率は高いですね。
横山 習い事や塾通いをきっかけに、というパターンも多いですよね。中学受験する子どもは4年生くらいから塾に通って一人で行動する範囲が増えるし帰りが遅くなるので、防犯の意味で。ウチも塾通いをきっかけにケータイを持たせました。
―― 防犯の意味で持たせようとする一方、メール問題などもあって悩みどころですね。
川上 ウチの場合も、メール問題などがあって親以外はブロックしてメールのやり取りができないようにしていました。でも、家庭によってはネットも見放題だったりします。同様に家のパソコンも全くロックが掛かっていない子もいるわけです。
そうなると、その子どもの家に集まってネットサーフィンしたりすることになる。もともとは何かを調べるつもりだったのかもしれないけれど、そういう緩いおうちもあるので、4~5年生くらいになると、家庭によってかなり差が出てくることになるので、親が注意を払う必要性が出てきます。
娘に「ウチは他の家よりすっごい厳しいけれど、結果的に良かった」と言われ涙
―― 最近の子ども達の間ではLINEなどが問題視されていますが、やはりネットやSNSでのトラブルには気を使ったほうがいいのですね。
川上ウチの場合は中学生になるまでケータイは持たせていませんでした。ガラケーなのでLINEはやっていません。つい先日、中1の娘とケータイについて話をしていたら「ウチはそういう面では他の家よりすっごい厳しいけれど、結果的に良かったと思う」って言ってくれたんですよ。
スマホを制限なく使っている周りの友達は、何かしらのトラブルに巻き込まれやすいみたいです。やはりメール関係のトラブルが多いようで。「メールというのは大人でも誤解が生じやすいのに、ましてや子ども同士だともっと誤解が生じるから気を付けなさい」と言い続けてきたんです。そういう流れもあって、娘が「ママが言ってたことが最近になって分かるようになった気がする」って言われて、うれしさのあまり泣きそうになりました(笑)。
―― 川上さんは「小4の壁」を前に、実家のお母さんにサポートをお願いしたと聞きましたが、そのあたりについてお聞かせください。
川上 はい、千葉在住の母親に曜日を決めてサポートをお願いしていました。まずは子どものお友達がわが家に遊びに来られる曜日を確認して、その曜日に母に来てもらって、子どもの一人帰りの練習をさせてもらいました。そして子どもの友達が遊びに来たときに、母に対応してもらっていたんです。
子どもってずっと学童通いだけだと、その他の世界を知らないわけですよね。だから、学童を卒所したら「毎日、友達と遊べるんだ」と勘違いしている。実際はみんな習い事で意外と忙しいのに。
友達同士のスケジュールを知って、リズムをつかんでいく。そこに結構時間がかかったような気がしています。
―― 女の子は「約束をしないとお友達と遊べない」といった話もよく聞きますが、そのあたりはいかがでしょうか。
川上 確かに女の子はそうかもしれません。例えば「今日遊ぼうね」って約束しようとしても、相手が先に誰かと約束していたら遊べないんです(笑)。一緒に下校するお友達とのお約束も同様です。
学童に通っている間に、学童以外の子ども同士の世界が出来上がっている。その辺の都合が最初は全く分からないから、それに最初は慣らしてあげるようにするのがいいのかな、と。そこは親である私も全く考えていなかった部分でした。たぶん、男の子の場合はそういったことはあまり関係ないかもしれませんが。
―― お姉ちゃんも習い事をしていたんですか。
川上 保育園のときから土曜日だけバレエを習っていました。小3からは、横浜市では時給800円くらいでシッターさんを頼める制度があったので、それを利用して平日も含めてバレエのレッスンを週2回に増やしました。小4の終わりごろからは、塾にも行くようになりました。
バレエ教室には隣駅まで電車に乗って行くので、シッターさんに送り迎えを頼んでいたんです。付き添いをおばあちゃんに頼もうかとも思ったんですけど、千葉からだと来てもらうだけで2時間くらいかかる。母にお願いするのはなるべく最小限にしていました。
小3の夏から塾へ。放課後、家でおやつを食べて一人で出かけさせた
―― 他に「小4の壁」という意味でポイントとなることはありますか。
横山 私自身、中高一貫校の出身だったので、お姉ちゃんのときは「本人が希望するなら受験をさせようかな」って考えていたんですね。保育園や学童でも一緒で、クラスでも仲の良い友達が小3になったときに塾に通い始めたんです。
すると娘も「自分も行く」と言い始めて、小3の夏期講習からスタートして、週3回塾に通うようになりました。仲の良い友達と一緒で、学校の延長線上みたいな感じだったし、親としては「一人で帰って家でテレビを見ているよりは勉強してくれてるほうがいいし、受験しなかったとしても何らかの力にはなるだろうから」と。
その塾はたまたま、住んでいるマンションのすぐ隣の商業ビル内にあったんです。学校の6時間目が終わると16時くらいに一度帰宅しておやつを食べて、17~19時まで塾。塾が終わるころには私も帰宅できるので、ちょうどわが家の時間の流れにも合っていたんですよね。仲良しの友達と一緒に勉強もできるので、本人も喜んで行っていましたから、割とスムーズでした。学童は小4いっぱいまで在籍はしていましたが、夏休み以降はほとんど行かなくなっていましたね。
―― 塾に行くときなどは16時に帰宅して、そのまま無事に行けたんですか。
横山 おやつを置いておく場所を決めて、自分で食べたいものを食べてから出かけるように、と伝えていました。一人帰りをする日は「おかえり。手洗い・うがいをきちんとしてから、おやつを食べてね!」といった手紙を書いていましたね。
一同 ふ~ん、偉いなあ~。
横山 やっぱり「おかえり」って言ってあげられないっていうのが今でも自分のなかでは「罪悪感」とまではいかないにしても、心苦しいところではあるんです。だからいつもテーブルの上に手紙を置いていました。
それで、私が帰ってきたときに「今日はあまりおやつ食べてないな。時間が無かったのかな?」と思うと、後で「メロンパン食べてなかったけど、時間無かったの?」と聞いたり。「うん、放課後に友達とおしゃべりしてたら時間が無くなったからすぐに塾に行ったんだ」とか、会話のきっかけにもなります。
2人とも中学生になってからは、自分も仕事が忙しくなって。手紙を書けない日もあるので、そういうときには「おかえり!」とだけ書いた紙を置いて出掛けるようにしています(笑)。
私が残業で遅くなったときに子ども達からメッセージが残っていたりするんです。「今日はこんなことがあったよ」とか「ママ、おやすみ」ってひと言書いてあったりとか。そういうことで少しだけでもわが家の様子が分かったりして温かい気持ちになれます。
片山 ウチの場合は中学生になってからは息子とLINEをやっています。スマホを家族全員が持つようになったので、ほぼ毎日LINEでやり取りをしています。
川上 LINEでやり取りしていて親子ゲンカになると、子どもが親をブロックするっていう話を聞いたことがあります。女の子なんですけれど、母娘ゲンカのたびにブロックされて大変だってお母さんが言っていました(笑)。
片山 ウチの息子は、ブロックした後の私の反応が怖くてやらないと思いますけど(笑)。
フリーライター。小学館の学年誌にてライター活動を開始し、その後、主に『週刊SPA!』にて幅広いジャンルの特集記事、ルポ記事などを取材・執筆。ベネッセの『こどもちゃれんじ ぽけっと』の親向け冊子にて、パパ向け子育て情報連載『オトコマエ育児』を担当。"自称イクメンライター"として、各ジャンルの子育ての達人に子どもとの接し方の極意を伝授してもらう。世田谷区から目黒区の認可保育園への転園を何とか果たした6歳の娘の送りは毎朝欠かさず、"育児は育自"をモットーに毎日、娘から学ぶ日々を送りつつ、目黒区「子ども施策推進会議」にて保育園利用者の委員として参加。
[日経DUAL 2015年7月30日付記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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