社外取締役、女性に熱視線 ダイバーシティーを体現
最近、人材争奪戦の様相を帯びている職種が、女性社外取締役だ。外から見た率直な意見を経営に反映すると同時に、ダイバーシティー(多様性)を体現する存在として期待が集まる。その素顔と覚悟とは――。
「トマトには詳しくなかった」。若々しい笑顔で語るのはトマト加工品が主力のカゴメで昨年6月から社外取締役を務める明関美良さん(35)。「本業」は削り節大手マルトモ(愛媛県伊予市)の社長だ。カツオや漁業が専門でトマトや農業は門外漢だった。
高祖父が100年近く前に創業したマルトモの4代目社長に2011年に就任した。取引先であるカゴメから社外取締役を打診されたのは、3人の子どもを抱えながら慣れない社長業に奮闘していた時。商品開発での接点はあったが、経営への参画となると「全くの想定外」。即答はできなかったが、カゴメの西秀訓会長からの説得を受け、思い切って引き受けることにした。
だが、就任は第4子の妊娠・出産に重なった。当初大きかった不安は、全国に散らばる工場や農場、オーストラリアの大規模農家にまで足を延ばして現場を回るうちに薄らいだ。カゴメ初の女性取締役とはいえ、もともとマルトモでも自分以外の経営陣はベテラン男性ばかり。臆していては仕事にならない。
「この販売促進費を使って利益につながっていますか」。カゴメで毎月開く役員会議でも、明関さんは各事業部の報告に積極的に突っ込みを入れる。「違うと思えば何でも発言する」
実はマルトモは昨年初めて監査役に社外の弁護士を招いた。「社外の人に対して説明するのは時間がかかるが、その過程で内輪だけでは見落としがちな点に気付く。手間暇掛けて理解を得られれば自信につながる」。社長の顔に戻って語る。
経営に学術的に向き合い専門知識を生かす女性社外取締役もいる。首都大学東京大学院教授(経営学)の松田千恵子さん(50)は旧日本長期信用銀行(現・新生銀行)や格付け会社ムーディーズ・ジャパンなどでキャリアを積んだあと、学究生活に入った。
実務の場に身を置いて痛感したのが、部門トップに対し他の部門から意見しにくい日本の企業風土だ。専門外には口出ししないムードが強い。「それではM&A(合併・買収)や経営資源の配分といった重要案件で正しい経営判断を下せるとは限らない」
その点、女性社外取締役は初めから境界を超越した存在だ。「社内の人が言い出せないことにズバッと切り込める」。女性には「社内や社会の出世競争などしがらみが少ないという強みもある」
松田さんは日立化成やフォスター電機など3社で、監査役を含めた社外役員を務める。研究と大学での教育、社外取締役の「3足のわらじ」を履くが、それぞれの経験を別の分野に生かせる相乗効果を感じるという。
女性取締役の先駆けの一人といえば、橘・フクシマ・咲江さん(65)だろう。米ヘッドハンティング大手コーン・フェリー・インターナショナル日本法人の社長だった02年に花王の社外取締役に就任した。今は三菱商事や味の素など4社の取締役を務める。
原点は社内役員時代だ。欧米で取締役は「株主代表」の社外人材が大半なのが当たり前。1995年から12年ほどコーン・フェリー米本社の取締役を務め、後半8年は約10人の役員のうち、最高経営責任者(CEO)と自分以外が社外だった。多様性へのこだわりが印象に残っている。任期1期で終えようとしたフクシマさんに、CEOは「役員全員が白人男性になっていいのか」と説いた。
日本でも「ここ5年で明確な変化を感じる」。ただ、「ダイバーシティーを打ち出す形式だけで女性を見るのはもってのほか」とフクシマさんは言う。「戦略上、必要な経験や能力をリストアップし、今の役員に足りないところを補った結果、女性になったというのが本来の姿」
日本では社外取締役の活用も、女性活躍も始まったばかり。その両方を兼ねる「女性社外取締役」という存在は変革の突破口になれるだろうか。
(成瀬美和、佐藤亜美)
人数増え、経歴多彩に
日本経済新聞社の調べでは上場企業主要100社のうち、女性の社外取締役がいるのは7月時点で41社。前年度から8社増えた。顔ぶれは定番の弁護士や大学教授の枠を超え、広がりを見せる。富士通は日本人初の女性宇宙飛行士、向井千秋さんを選んだ。「宇宙開発で欠かせない長期視点を経営にも」と向井さんも意気込む。コナミでは昨年から五輪メダリストで柔道家の山口香・筑波大准教授が社外取締役を務める。
政府は2020年までに女性管理職比率を30%に引き上げようと旗を振る。さらに全上場企業に「少なくとも1人」の女性役員登用を促す。既に実績を持つ女性の社外取締役への採用は、生え抜き女性役員の育成よりは近道で今後も増加が見込まれる。また企業は「女性が活躍するための企業づくり」への助言を彼女らに期待する面もある。一方、女性の役員人材は情報が不足しており、政府はデータベース「はばたく女性人材バンク」を開設した。
現状では海外に比べ遅れが目立つ。米国の非営利団体「カタリスト」が世界20カ国・地域の代表的な株価指数に採用される企業の女性役員比率を比較したところ、最も高いのはノルウェーの35.5%で米国は20%弱。その中で日本は3.1%にとどまりアジア・太平洋地域で最下位だった。
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