「病児保育」提供は社会の責任 フローレンス駒崎氏
病児保育は社会全体の問題なのに、課題意識はまだまだ
こんにちは。認定NPO法人フローレンス代表の駒崎弘樹です。
2015年7月9日から始まった連続ドラマ『37.5℃の涙』(TBS系・木曜21時~)、もうご覧になりましたか。このドラマ、「病児保育士」を主人公として構成されたストーリーで、ドラマ撮影にあたってフローレンスも事前に取材をしていただきました。
「病児保育」という世界に船を乗り出して十数年。こういったドラマが放送されることには時代の変化を感じますが、社会全体での「病児保育」への理解や課題意識はまだまだです。仕事を抱えるワーキングペアレンツにとって切実な問題の解決のためには、社会全体の意識の底上げが必要だと感じています。
仕事がまさに佳境という時期に限って子どもが発熱し、携帯に着信する保育園からの呼び出しコール。何とか早退の調整をして、職場に頭を下げながら急いで保育園に走り、小児科に駆け込む。やっと子どもが落ち着く夜には、身も心もグッタリ……。そんな経験を乗り越えてきた方や今まさにその渦中にいる方は、読者の中にも多くいらっしゃるのではないでしょうか。
生まれて数年しかたっていない小さい子どもが突発的に発熱したり、体調が不安定になったりするのは、ごく当たり前のことです。しかし、なぜ親が、特に母親だけが、ここまで大変な思いをしなければならないのか。
ただでさえハードな子育ての中でも最もハードなシーンと思える「働きながらの病児保育」。僕はこれを個人ではなく"社会"が支える問題として考えていくべきだと一貫して訴え、活動してきました。
しかし、世の中全体としては「病児保育」が何たるかさえ、よく知らない人が圧倒的多数です。女性・男性に限らず、子どもを持って当事者になって初めて知るパターンが多い。ここで改めて、現在の病児保育の仕組みについて簡単に説明します。
施設型と訪問型とでサービス内容は大きく異なる
病児保育は大きく分けて、2つの軸で整理できます。1つは対象の違いで、「病児保育」か「病後児保育」か。もう1つはサービス形態の違いで、「施設型」か「訪問型」か。
「病児保育」とは発熱、水ぼうそう、インフルエンザなど病気にかかった子どもの保育。「病後児保育」は、病気の回復期にあるけれどもまだ保育所の登園許可基準に満たない子どもを保育することです。
例えば、インフルエンザであれば、発症した日を0日目と数え、発症後5日を経過し、かつ解熱後3日間経ないと保育園には行けません。これは厚労省が決めたガイドラインによるものです。
共働きの親にとって、子どもの看病のために1週間の休みを確保することは至難の業です。ということで、親に代わって、病児・病後児の保育をするサービスが生まれました。小児科のある病院(クリニック)が福祉的な意味合いで運営する、いわゆる「医療機関併設型」の病児保育。共働きが増え、核家族が増加した20年ほど前、一部の志のある医師が小児科に併設する形で始めたのが、日本の病児保育の原型だそうです。
この医療機関併設型では、医師や看護師が常勤しているので、病気の子どもを対象にした「病児保育」を行うわけですね。一方、回復期にある病後児を受け入れるのは「保育所併設型」。つまり、施設型サービスの中に、病児を受け入れる医療機関併設型と、病後児を受け入れる保育所併設型があるということです。
もうからないし、非効率。だから病児保育施設は増えない
しかし、この施設型病児(病後児)保育は、施設というハードや常勤の専門スタッフなど、運営コストがかかります。かつ、通常の保育所と違って、定員いっぱいの受け入れがある日もあれば、キャンセル続出で稼働率ゼロになる日もあるという、経営としては決して効率がいいとは言えないもの。お金も手間も志も要するものですが、運営をサポートする政策はほとんどなされてこなかったという現実がありました。
決してもうからないし、病児を預かるという責任は重い。そのうえ、補助政策もほとんど無し。その結果、施設型病児(病後児)保育の拡充は遅々として進んでこなかったのは、当然のシナリオと言えるでしょう。
そこで登場したのが、非・施設型の「訪問型病児(病後児)保育」というモデルです。僕が代表を務めるフローレンスは「この構造のままじゃ、日本の社会、ヤバいでしょ」という危機感を持って十数年前に始まりました。
病児保育専門のスキルを有するスタッフを育成し、自宅に派遣する形で、病児・病後児の保育に当たるもの。フローレンスは首都圏を対象にしていますが、のれん分けしたノーベルという団体は関西でほぼ同様のサービスを提供しています。
訪問型のメリットとしては、自宅に保育者が出向くので親や子どもの負担が少なくて済むという点です。一方で、現状では国からの税金投入は進んでいないので、利用者の金銭的負担は施設型に比べると大きくなるデメリットもあります。
ここまでお話しした病児(病後児)保育のパターンをまとめてみましょう。
料金が安い施設型、サービス充実の訪問型
(1) 医療機関併設型、保育所併設型
●対象: 病児・病後児
●事業者: 医療機関併設型=医療機関、保育所併設型=保育所
●形態: 医療機関併設型=小児科のある医療施設(クリニックなど)に併設する形、保育所併設型=保育所に併設する形
●スタッフ: 子ども10人につき1人以上の看護師、子ども3人につき1人以上の保育士
●1日当たりの定員: 4人前後(スタッフの配置人数による)
●料金: 1日2000円程度
●利用できる時間: 8~18時くらいまで
●メリット: 料金が安い。医療機関併設型=医師がいる医療施設と併設しているので安心、保育所併設型=看護師がいるので安心。
●デメリット: 定員が少ないので、当日に電話しても利用できないことがある。お迎えの時間が決まっているので、親の事情に合わない場合もある。
(2) 訪問型
●対象: 病児・病後児
●事業者: フローレンスなどNPO法人、一部のベビーシッター派遣会社など
●形態: 病児保育専門スタッフを自宅に派遣
●スタッフ: 専門の研修を受けた保育スタッフ
●1日当たりの定員: 無し、フローレンスの場合は、当日朝8時までの申し込みで100%対応
●料金: 1時間2000円程度
●利用できる時間: 希望に応じる
●メリット: 自宅で保育をするので、親・子の負担が軽い。保育園へのお迎え、受診、往診、検査、処方箋発行など、各種オプションサービスを選べる。当日予約でも100%対応(フローレンスの場合)など利便性が高い。
●デメリット: 施設型に比べて料金が高い。
(ライター 宮本恵理子)
[日経DUAL 2015年7月16日付の掲載記事を再構成]
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