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生の歌声届ける 北海道歌旅座、「ライブ回帰」実践 9月に渋谷公会堂コンサート

2015/8/22

 北海道を拠点に活動する音楽グループ「北海道歌旅座」が注目を集めている。「生の音楽を直接、届けたい」と地方を中心にライブ活動を展開。中・高年齢者向けに懐かしい昭和の歌謡曲を連ね、音楽あり笑いあり、涙ありのショーに仕立てる。音楽業界で見直されている「ライブへの回帰」を地道に実践している。口コミで人気が広がり公演数が増加、今では全国をツアーする。取り壊し工事を控えた渋谷公会堂(東京・渋谷)で9月に「昭和ノスタルジアコンサート」を開く。今年は戦後70周年の節目の年でもあり、昭和の歌が取り上げられることも多い。歌旅座の活躍の場は広がりそうだ。

 ■公演数は年100本以上

お寺でコンサートを開くこともある(札幌市の浄土寺)

 北海道歌旅座は2009年に札幌市で旗揚げした。「北海道180市町村公演」として始め、現在は「ニッポン全国市町村公演」として年に100本以上の公演を重ねる。音楽コンサートを出前するイメージだ。メンバーは観客を圧倒する歌唱力を持ち作詞・作曲も手掛けるJUNCO(ジュンコ)さんとバイオリン奏者の高杉奈梨子さんが2枚看板。コーラスや伴奏を担当するメンバー5人が加わる。スタッフを2人を含め全員が北海道出身だ。

 1回の公演は2部形式で約2時間。お客さんは40~70歳代が中心だ。代表的な「昭和ノスタルジア」公演。歌う曲は回により異なるが、「時代」「上を向いて歩こう」「ナオミの夢」……。ニッポンが輝いていた頃、誰もが口ずさんだ歌ばかりだ。

北海道歌旅座は照明・音響などステージ機材を自前のトラックに積み込んで全国を回る

 町や村のホールでは集客も限りがある。コストを徹底的に見直して、それぞれの客層や環境に適合できるよう工夫してきた。200~300人という規模のコンサートでも質の高い音楽を楽しんでもらうことにこだわる。手ごろな予算で本格的な音楽コンサートを楽しんでもらうため、外注費やレンタル費などの経費を大幅に圧縮した。自前の2トントラックと乗用車の計2台に映像や照明、音響機材を積み込み、メンバーやスタッフが乗り込んで移動する。全国各地をサーカス団のようにステージ機材ごと移動して興行する。

 公演場所も多種多様。公民館などの公共ホールをはじめ、学校の体育館や屋外のイベントスペース、お寺の本堂――。突然の雨や雪をしのげて電力を確保できればステージは成立するという。チケット料金も大人2000円前後と手ごろだ。全国の後援会員もチケットを手売りしてくれるという。

 なぜ手作り感満載の公演にこだわるのか。ステージの進行役を務める弥藤邦生さんは「地方の人は僕らが来るのを待っているんです。そんな人たちを喜ばせ、元気づけたいんです」と話す。「初めてコンサートを見たよ」「今度はいつ来るんだい?」。公演後、会場でお客さんがメンバーに話しかけてくる。

 昔は小さい町にも映画館や演劇場があった。エンターテインメントに触れる機会は今より多かったという。現在は人口が集積するエリアで多数の観客を動員する「量」を前提とした興行が中心だ。地方は集客数が少ないため、コンサートの回数自体が少なく、なかなか見に行く機会がない。全国の市町村を回りたいという歌旅座の思いには「音楽を含む文化やエンターテインメントは大都市圏だけのものではない」という強い意志がこめられている。

 音楽業界は配信サービスが市場を拡大し、CDも売れなくなっている。歌い手と聴き手の距離も遠ざかっているのが現状だ。歌旅座が支持を広げている理由は一言でいえば「ライブへの回帰」だ。

終演後のサイン会。ファンとのつながりを大事にしている

 1970年代からの「レコード芸術」の時代は録音された媒体を通じて、いかにクリエイティブなものを作るかがテーマだった。人気ロックバンド「L'Arc-en-Ciel」のパリコンサートの日本の映画館への同時中継や、国民的アイドルグループ「AKB48」のオフィシャルカフェ&ショップを手掛けたコンテンツプロデューサーの斉藤豊さんは解説する。「インターネットが浸透した現在では録音物よりも『ライブ』を重んじる傾向がある」。目の前で繰り広げられる一瞬一瞬のパフォーマンスから、アーティストの感性を体で感じ、会場全体で共有する。「その一瞬をいかに濃いものにするか。コンサートが終わってもずっと余韻や記憶を残しつづけられるかが送り手側の課題であり、オーディエンスの期待となる」(斉藤さん)

 ■「ライブ」で心動く体験を

 「お客さんの顔をみて一人ひとりに音楽を伝えたい」(弥藤さん)。曲がいいだけではない。昔を懐かしんだり、会場の一体感に仲間を感じたり、明日に希望を持ったり、笑ったり、泣いたり――。歌旅座はさまざまな感情を通じ、「自分達のライブを通じて、喜んで帰ってもらおう」というシンプルな目的に立ち返っている。

渋谷公会堂のコンサートのチラシ

 「ライブ」で心動く体験を中心にしたビジネスモデルを作っているのかもしれない。こんな時代だからこそ、音楽を通じて人と触れ合う喜びを共有する。「『原体験の提供に立ち返ろう』とする今の音楽業界の目指すべき姿ではないか」と斉藤さんは指摘する。

 10月から建て替え工事が始まる渋谷公会堂。閉館までに沢田研二さんやみなみこうせつさんなど大物歌手やアーティストのファイナル公演が多数予定されている。歌旅座もその中の一組に加わる。昭和の雰囲気が色濃い聖地は収容2084席とこれまでで最も大きな会場。9月10日のコンサート当日は北海道内からも100人のファンが駆けつけるという。

(村野孝直)

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