不調の原因は女性ホルモン? 知っておきたい体の話
生き方まで左右する、女性ホルモンとライフサイクルの関係(1)
女性は男性よりホルモン変動の波が大きい
日本人女性は世界一長寿だが、男性より女性が長生きである理由の一つは、女性ホルモンに守られているからだといわれる。ホルモンのレベルの変動という点からすると、男性の一生と女性の一生はは大きく異なる。
思春期は男女ともホルモンのレベルが上がったり下がったりしながら、大人に向けて体の変化(二次性徴)が起こる。同時に心も不安定になり、感情的になったりイライラしたりすることがある。
成熟期になっても、女性は毎月、月経によるホルモンの変動がある。月によっても調子のよいときと悪いときがあり、周期によって体の調子が変化する。
そして更年期になると、男性ホルモンはゆるやかに減少し、生涯ゼロになることはないのに対して、女性は50歳前後で閉経を迎えると急激に女性ホルモンが減少する。このときも思春期同様、心が不安定になり、イライラしたり、落ち込んだりといった心の問題も生じやすい。
そして、人生の前半で女性ホルモンという潤滑剤を使い果たし、残り約40年をほぼゼロに近い状態で生きることになるのだ。
女性は心も体も、一生を通じてホルモンの変動の影響を受け、さまざまな精神的・身体的トラブルに見舞われやすい。
「こうした性差があるため、本来は男性と同じ働き方、同じ生活スタイルというわけにはいかないのですが、そうした違いに対するヘルスケアのしくみは整備されていません」(種部さん)
月経回数=子宮と卵巣に負担をかける回数
女性ホルモンがはたらくからこそ、その影響によって生じる女性特有の病気もある。現代は女性の生き方が変わって、昔に比べて出産回数が減った。初経から出産までの期間も昔は5~6年だったものが約18年に延び、生涯の月経回数は約450回に増えたといわれている。
この間、毎回の月経ではがれた子宮内膜は、おなかの中にまき散らされ、排卵が起きるたびに卵巣の殻に傷がついて修復をくり返す。それを450回もくり返していれば、その過程で病気のリスクが増えてくるのは当然なのだ。
「乳がん」の増加も、初経年齢が早くなって出産までの時間が長くなったことと関連しているといわれている。また、月経回数が増えたことによって「子宮体がん」「卵巣がん」も増えている。
「子宮内膜症」の増加も、月経回数が増えたことと関連があると言われている。逆流した血液が原因とする説が有力で、月経ではがれた子宮内膜組織が卵巣や子宮表面、骨盤表面の腹膜などに「飛び火」をして、そこで毎月月経を起こす病気だ。出口のないところで出血を起こすため激しい月経痛、性交痛を引き起こす。10人に1人程度の割合でこの病気があるという。
子宮内膜症の最少発症年齢は14歳で、発症すれば閉経まで飛び火した場所での出血をくり返す。おなかの中がかさぶただらけになれば不妊にもつながる。卵巣に飛び火すれば卵の質が低下し、くり返した出血がチョコレートのう腫と呼ばれる腫瘍になって、この腫瘍からがんができてくる場合もある。そのため、病気が進行してしまうと治療しても出産できなくなる可能性がある。出産するか、いつ産むか、人生のプランに向き合わなければ、この病気とつきあうことはできない。
妊娠・出産を考えるような時期に、病気が起きてくるという点では、「子宮筋腫」も同様だ。医学の教科書では「大きいものは悪いものの可能性があるから取る」とされてきたが、子宮筋腫は閉経して女性ホルモンのレベルが下がると小さくなっていく。症状が何もなければ無駄な手術をする必要はないのだ。
「悪いものかどうかは、今の優れた診断技術を使えばわかります。経過を見て安全と思えば、子宮筋腫を無理して取る必要はありません。ただ、出産を考えるときは、場所によっては出産のとき邪魔になる可能性があったり、大きくて炎症が起きれば早産のリスクが高まったりします。ですから、大きさや発育の具合によって取るほうが得策なのか、取らずに産んだ方がいいのか、治療との兼ね合いを考えてうまくプランを立てる必要があります」(種部さん)
女性は、単に病気を治すだけでなく、人生のプランもあわせて考える必要がある。
この人に聞きました
女性クリニック We! TOYAMA 院長。平成2年、富山医科薬科大学医学部卒業。平成10年同大学大学院医学研究科修了。富山医科薬科大学附属病院、愛育病院等を経て平成18年より女性クリニック We! TOYAMA 院長。専門は生殖医療、思春期、更年期、性差医療・女性医療。思春期婦人科診療や性教育をはじめ、女性を取り巻く社会問題に関する啓発活動も積極的に行っている。
(ライター 塚越小枝子)
[nikkei WOMAN Online 2015年7月30日付記事を再構成]
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