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カリスマの直言

米国の学費高騰にローン大国の影(田代桂子) 大和証券グループ本社取締役常務執行役

2015/8/2

「アメリカの大学の学費が高いのは、世界的な人気だけではなく、学生ローンの借りやすさにもありそうだ」

 アメリカが世界一を誇れる分野はいくつもあるが、その中で私が一番重要だと思うのが大学教育だ。世界大学ランキングを発表している組織は英国の「Times Higher Education」、アメリカの「US World News and Report」、中国の「Center for World University Rankings」などがあるが、どれを見てもトップ10のうち7~8校はアメリカだ。

 トップクラスにランキングされているアメリカの大学が世界の政治、経済に与える影響は多大である。数々のノーベル賞受賞者を輩出している上、アメリカ国内だけではなく他国の国家元首(イタリアのモンティ前首相、ケニアのケニヤッタ大統領、シンガポールのリー・シェンロン首相など)、国際機関で活躍する要人(欧州中央銀行のドラギ総裁、国連のバン事務総長、アジア開発銀行の中尾総裁など)もアメリカで学位を取得しており、ブルームバーグ、グーグル、フェイスブック(中退)、マイクロソフト(中退)、ナイキ、ソフトバンク、楽天の創業者の出身校もアメリカである。

 これらトップランキングに入っている大学のウェブサイトを見ると、どの大学も学部の年間の学費が4万ドル(約500万円)以上、生活費込で6万ドル(約750万円)を下らない。トップ校だけではない、100位以内でこの水準以下の私立大学は数えるほどしかないのだ。例外は公立大学で、カリフォルニア州立大学の学費は州内に住んでいれば1万4000ドル、州外で2万5000ドルである。参考までに私が卒業した早稲田大学の2015年度の学費は107万円で、日本の大学でランキングトップの東京大学は53万5800円となっている。ニューヨークに来て物価の高さにびっくりする場面も多いが、5倍以上の価格差があるのは学費と医療費ぐらいではないか。

 この高額な学費を一般家庭がどうやって払っているのか。子供の学費に年間500万円を払うには、よほどの収入がないと無理である。しかしOECD(経済協力開発機構)の統計によると、アメリカでは国民の45%(同じ統計で日本は58%)が何らかの形で、高校以上の学校に入学しているとのことなので超富裕層出身者以外でも大学に行っているはずだ。

 学費がこれだけ高いと、国の教育税制優遇制度を利用して学費を貯蓄してきたとしても収入が「中の上」ぐらいの親にとってどうやって学費を拠出するかは大きな問題である。一部の富裕層以外は、いかに自己負担分の学費を減らせるかを考える必要がある。

 収入に関わるのでかなりセンシティブな質問とはなるが、大学生の子供がいる知り合いに片っ端から聞いてみた。そこでわかったのが一筋縄では行かないアメリカの大学受験の実態だ。

 日本の場合、合否決定に占める大学入試の割合が非常に高いので、受験生はほとんどの時間とお金を入学試験の点数アップに費やす。ところがアメリカの場合は合否は試験や内申書の結果だけではなく、スポーツ、社会貢献、生徒活動などが考慮されるので勉強さえしていれば希望の大学に入れるとは限らない。

 そのため、アメリカでは高校に入学した時から親子ともども大学進学の戦略を練る必要がある。日本同様、学業優秀者やスポーツ有能な学生を対象とした奨学金を用意している大学もある。また親が一定の収入(ハーバード大で6万5000ドル=約800万円、スタンフォード大で12万5000ドル=約1600万円)以下で、その他条件をいくつか満たせば全額学費を補助してくれる制度もある。

 実際、ハーバードのウェブサイトによると学生の20%が親の収入が6万5000ドル以下なので学費免除となっているそうだ。学費が免除にならない程度の収入があっても全国一律の連邦学生援助申告書(FAFSA)というフォームを提出すると、各大学からいくらか奨学金を受けられることもある。大学側も当然のことながら、卒業生の基金が潤沢で財力のある学校は奨学金を武器に全国から優秀な学生を集めようとする。しかし、それでも生活費も考えると多くの学生及びその親に自己負担が重くのしかかる。

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