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受験失敗と不況乗り越え社労士に 資格で切り開く人生

2015/7/27

日経ウーマンオンライン

 資格に興味があるけれど、取得までに時間やお金はどのくらい必要なのか。また、仕事や収入アップにつながるのだろうか。そんな疑問に答えるべく、有資格者の皆さんに「本当のところ」を聞きました。今回は社会保険労務士の漆原香奈恵さんにご登場いただきます。

■「女性起業家を応援したい」 独立開業して5年目に

 社会保険労務士の漆原香奈恵です。かなえ社会保険労務士事務所を開業して5年目になります。人事・労務の面から女性起業家・経営者の支援に力を入れています。また、年金では、障害年金の請求代理業務に特化し、著書の商業出版も実現しました。プライベートでは、2児の母でもあります。

 普段の仕事は、いろいろな企業で、人の採用から退職までに必要になる、労災保険・雇用保険・厚生年金・健康保険などの手続きから、適正な労務管理のお手伝いをしています。労働者と使用者の間でトラブルが生じないために、リスク対策などの労務相談を受けたり、就業規則など会社のルールを経営者と一緒に作成したりすることも多々あります。

 また、自分と同じ女性起業家を応援したいという気持ちから、従業員のキャリアアップと人件費の節減を同時に実施できる助成金の申請業務にも力を入れ、女性起業家の事業の継続と安定に貢献できるよう努めています。個人のお客様向けには、障害年金の請求代理業務に特化し、セミナー講師や執筆もしています。

 顧問事業所は、歯科医院、IT企業、ネイル・エステ・まつ毛エクステサロン等、建設業、自動車販売・製造業など、比較的小さい会社の女性社長の方が大半です。障害年金については、がんや人工透析からうつ病などの精神疾患まで、病気やケガをされた幅広い方からのご依頼をいただいています。

■企業内の「人」の手続きを一手にサポート

 国家資格である社会保険労務士として仕事をするためには、全国社会保険労務士連合会への登録が必要です。社会保険労務士の登録は3種類あります。独立向けの「開業登録」、企業内の人事労務部門や社会保険労務士事務所で勤める人には「勤務登録」、社会保険労務士会からの情報収集や研修を受けたい人には「その他登録」があり、種類によって登録料が違います。

 業務内容は幅広く、従業員が入退職するときや、業務や通勤途中でのケガをしたり、病気で休職した際に必要になる、労働社会保険(労災保険・雇用保険・厚生年金・健康保険)の手続きをします。また、法定三帳簿と呼ばれ、備え付けなければならない労働者名簿・賃金台帳・出勤簿の整備などの労務管理についてもサポートします。さらに、花形業務といわれている就業規則作成等のコンサルティング業務、雇用関係助成金の申請、年金、労務トラブル相談等々も請け負います。つまり、企業経営に欠かせない「人」に関して発生する手続き、トラブル対策、ルールづくりをする専門家です。

 なお、社会保険労務士がステップアップした資格である特定社会保険労務士は、労働者と経営者が争いになったとき、個別労働関係紛争解決における代理人として、裁判によらない円満解決を実現できる社会保険労務士を指します。

■大学受験の大失敗がきっかけに

 私が資格を取得しようと決意したのは大学生のときです。想像していなかった大学受験の大失敗と、当時の平成不況とが重なり、相当不安だったのです。でも、この挫折こそが、私を導いてくれることになりました。ただでさえ精神的に不安定な時期に終身雇用も崩壊していったため、何事にも振り回されない本物の安定を手に入れるには、自分自身が自立するしかないと考えたのです。このときに、男性に依存せず、女性のライフステージ(結婚・出産・育児)を通して一生続けられる仕事をしようと決めました。

 そして、インターネットや雑誌で様々な情報を得て、資格の取得にチャレンジしていきました。既に大学受験の失敗という手痛い経験から、試験自体に自信を失っていたため、難易度が低めの資格を選び、最初は秘書技能検定2級の取得から始め、少しずつ自信をつけていきました。次は個人情報保護士、行政書士、情報処理、そして、社会保険労務士の資格試験を徐々に突破していきました。

■社会保険労務士の資格に決めた理由

 大学生の頃に行政書士試験の勉強を始め、試験勉強の中断期間を経て、社会人2年目で合格しました。その後は、行政書士と試験も実務も関連の強い司法書士か、社会保険労務士のどちらを目指そうか迷い、司法書士事務所に勤めてみることにしました。不動産登記を主にしていた事務所でしたので、不動産売買をしたことがなかった私には、業務に対する現実味を感じられませんでした。

 結果的に、企業での人事・総務の経験から、働く人に関係する身近な仕事である社会保険労務士の試験を受けようと決心しました。当時の私にとっての資格は、食いっぱぐれないための保険であり、本気で独立までは考えていませんでした。そのため、前述したように社会保険労務士の特徴である、勤務社労士か開業社労士の登録を選択できるというところも魅力的でした。

■自分を追い込むために漫画喫茶で試験勉強

 社会保険労務士の試験合格までは、独学で勉強を始めてから約6カ月でした。平均して1日4~10時間、主に図書館やファミリーレストランで勉強しました。本試験の練習として、模擬試験は3回受けました。費用は、テキスト代と模擬試験・本試験などで約4万円ほどです。

 一見、独学で最短期間ですんなり合格したように思えますが、実は、その前の行政書士試験のときに苦戦していたのです。最初のお試し試験を入れると、3回目の試験でやっと合格しました。その時に生み出した勉強方法が社会保険労務士試験のときにも非常に役に立ちました。具体的には、仕事の日は疲れて、勉強する気はあっても寝てしまうため、漫画喫茶で勉強したのです。

漆原香奈恵さん  社会保険労務士。かなえ社会保険労務士事務所を開業し、今年6月で5周年。人事・労務の面から女性起業家・経営者を主に支援しています。障害年金の業務にも力を入れています。プライベートでは30代半ばの2児の母です。

 行政書士の受験時、8~9時間勤務した後に漫画喫茶で5時間(当時5時間パックというお得なプランがありました)勉強してから帰宅していました。テレビもなく、料金を支払っているということもあり、勉強せざるを得ない環境に自分を追い込んだのです。暗い人だと思われるのが恥ずかしくて、当時は誰にも秘密にしていました。

 さらに就寝前に1時間勉強し、翌朝の通勤時間を活用して暗記をしていました。いつも「何をやるにも一生懸命頑張ったことは、結果はどうあれ、人間として成長させてくれる。しかも、経験が残るため、無駄なことは一つもない。何もやらないことこそが失敗だ」と心でとなえて、自分を奮い立たせていました。

 ちなみに私が行政書士に合格したのは2005年、合格率が2.62%と一番低い時で、ちょっぴり自慢です。行政書士と社会保険労務士の試験は少し似ている部分もあるため、このときに学んだ勉強のコツや、問題の解き慣れのおかげで、社会保険労務士試験を効率よく突破できたのだと思います。

 私自身は資格試験を通して、諦めなければいつか実現するという自信を手に入れました。周囲の人は大学受験の大失敗を知っていたため、資格試験についても「また失敗して、これ以上あなたが傷つく姿を見たくない」と、最初から哀れみの目で見ていました。でも、試験に合格するとそんなふうに見る人はいなくなりました。それどころか、決めたことはやり通す人間だという信頼の眼差しに変わったのです。

[nikkei WOMAN Online 2015年7月8日付記事を再構成]

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