ミックスチャンネル、学園祭ノリで女子中高生にヒット
日経エンタテインメント!
女子中高生を中心に、スマートフォン(スマホ)向け動画アプリのミックスチャンネルが大ヒットしている。2013年12月にIT企業のDonutsからリリースされ、わずか約1年で動画再生数は5億4000万回、訪問者数は380万人(ともに月間)を超え、国内の動画コミュニティーとしては最大規模に成長した。ユーザーは10代が9割、女性が8割を占め、女子中高生の熱狂ぶりが際立っている。
ミックスチャンネルはユーザーが撮った動画や画像などに、音楽を組み合わせることで、バラエティに富んだ動画作品を作成することができるアプリ。それを「おもしろ」「歌」「メイク・ファッション」など、チャンネルと呼ばれる各カテゴリーにアップロードすることで誰でも見られるようになり、若者特有の「目立ちたい願望」を満たしている。
チャンネルの中でも投稿数が多く、ヒットをけん引するのが、「LOVE」だ。ネットなどでは、「カップルのキス動画が見られる」などと、野次馬的に騒がれることも多い。しかし人気上位を占めるのは、付き合って1年を記念して作られた動画や、遠距離恋愛の彼にあてたメッセージ動画など、思い出を意識した感動系のものだ。
また「やってみた」もヒットの一翼を担うチャンネル。ただ単にオチもなく歌ったり、ダンスをしているような動画が多いが、視聴者がリンク機能を使うことで、それらを真似した2次動画が数多く作られる現象も起きている。人気者の動画となると、2000件の派生動画が生まれることもあるそうだ。
開発を手がけたDonuts・プロデューサーの福山誠氏によると、「ミックスチャンネルの中では、常に学園祭が行われているイメージに近い。ステージで行われるパフォーマンスに憧れたり、それを見た観客の子たちが一緒になって踊り出すような感覚なのではないか」と言う。
人気の動画アプリには、ミックスチャンネルの他にも米国発のVineなどがある。Vineは6秒という時間制限があるのに対し、後発のミックスチャンネルは最大1分程度の動画にまで対応することで差異化を図っている。その結果、自由度の高い動画アプリという点で、10代の心をつかむことに成功したといえる。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー・原田曜平氏も「最近のトレンドとして、SNS文化が写真から動画へと大きくシフトしており、ミックスチャンネルはその波に乗った象徴的存在。そして10代のユーザーが圧倒的に多い理由のひとつには、動画を作るだけの時間の余裕があることが大きい」と語る。
■西日本での利用が盛ん
ユーザー属性にも特徴がある。一般的に、芸能人やモデルが多く参加する、インスタグラムのようなトレンド性の高いSNSのユーザーは関東に偏りがちだ。しかし、10代の素人が主役のミックスチャンネルに関しては、地方都市のユーザーが占める割合が高い。総務省が発表している、2014年の住民基本台帳によると、10代の地域別人口分布で圧倒的に多いのは関東の380万人、近畿となると206万人と約半減してしまう。それに対し、ミックスチャンネルの地域別ユーザーの割合は、関東の22.4%に対し、近畿は21.1%と肉薄している。つまり使用率という点では、近畿の10代のほうが関東よりも高いということになるのだ。また九州・沖縄も16.2%とユーザーの割合が多く、比較的ノリのよいとされる西日本エリアでの利用が目立つという傾向も見える。
また、ミックスチャンネルの広告展開に目を向けると、最近のSNSの拡散手法としては王道である芸能人を使った大型プロモーションなどを行っていない。「多くの芸能人に使ってもらいたいとか、スターを作りたいという気持ちよりも、10代がワイワイやっているコミュニティーとして、コンテンツがいかに面白いかということを一番大切にしている」(福山氏)。
今後の展開について、ユーザーの年齢層を広げたいという考えも、あまりないのだという。「ミックスチャンネルは青春の1ページでいいんです。昔でいうプリクラ手帳のように、高校卒業を機に辞めていくようなユーザーがたくさんいればいいのかなと(笑)。それが結果として新陳代謝につながると思う」(福山氏)。もはや全国区でのブームとなったミックスチャンネルは、等身大の10代のトレンドが分かるコミュニティーとして、貴重な存在となっていきそうだ。
(日経エンタテインメント! 中桐基善)
[日経エンタテインメント! 2015年7月号の記事を再構成]
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