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ヒット総研の視点

実は怖い「やせのリスク」 生まれてくる子供にも影響

 

2015/6/25

日経BPヒット総合研究所

 エンターテインメント、トレンド、健康・美容、消費、女性と働き方をテーマに、ヒット案内人が世相を切るコラム「ヒットのひみつ」。今回のキーワードは「やせのリスク」です。昨今、ダイエットに励む女性は多くいますが、やせ過ぎは肥満とともに疾病リスクを高めることも知っておく必要があります。

 2015年4月3日、フランス国民議会の下院が、体格指数(BMI=体重kg÷身長m÷身長m)が「18未満」の“やせすぎモデル”をファッションショーなどに出演させるのを禁止する法案を可決し、波紋を広げた。

 やせすぎモデルを使ったモデル事務所の経営者に対する罰則は、6カ月以下の禁固刑と7万5000ユーロ(約1000万円相当)以下の罰金という厳しい内容だ。

 日本ではBMI18.5未満が「やせ」とされているが、最新の「平成25年度国民健康・栄養調査」(厚生労働省)によると、成人女性におけるやせの割合は12.3%で、この調査開始以来最高値となった。

 同調査で第二次世界大戦後の日本人のBMI変化を見ると、男性はずっと上昇傾向にあるが、女性では反対に、20~40歳代は1970年頃、50歳代以上の女性も1990年頃から減少を続けている。特に20代のやせは深刻で、5人に1人を超えている状態だ(21.5%)。

■丸の内OLは3割弱がやせ

 23万人の女性が働く日本を代表するオフィス街、丸の内のOLに占めるBMI19以下の「やせ女性率」は28%という驚くべき結果も発表された。

 2014年9月から活動している「まるのうち保健室」が、同地域の20~30代のOL749人を調査したものだ。日本人がとっている1日の摂取エネルギー量が減っているので、このような一群が存在するのは当然だともいえる。

 ことにやせが多い20代女性の1日あたりの平均摂取エネルギー量は平均1628kcalで、18~29歳の平均的な身体活動量の女性の必要エネルギー量1950kcal(「日本人の食事摂取基準2015年版」)をはるかに下回っている。

 そして、さらに驚かされるのが丸の内OL。前述の調査によれば、平均摂取エネルギーはなんと1日1479kcalしかない。しかも、働く時間が長い人ほど低くなっているというからことは重大だ。

 再び日本の食事事情に戻ってみよう。ずっと摂取エネルギー量とほぼ同じ減少カーブを描いているのが、炭水化物の摂取量だ。

 糖質(炭水化物から食物繊維を除いたもの)が血糖値の上昇を招き、それに伴って分泌されるホルモン・インスリンが食事でとった余剰エネルギーを体脂肪に蓄積するとして、糖質自体の摂取を控える“糖質制限食”をダイエット法として取り入れる人も見受けられる。そもそも減っている日本人の炭水化物摂取量と対をなすように「やせ」が増えているのだ(下のグラフは成人女性におけるやせの割合の経年変化)。

 このような食事法が、日本人女性の“やせ化”に拍車をかけている可能性も否定できない。

■死亡リスクまで高くなる「やせすぎ」

 今回はそのリスクに踏み込まないが、もちろん肥満も問題だ。しかし、肥満ほど話題に上らないにもかかわらず、様々な疾病リスクが増加するやせにも、もっと社会の関心が集まってしかるべきだろう。

 日本人を含む東アジア人85万人についてBMIとがん、心血管疾患、それ以外の疾患による死亡リスクを分析した研究(下のグラフ)を見ると、どの項目も、肥満が進んでもやせが進んだ場合でも高くなっている。

 2014年に発表された、BMIと死亡リスクに関する51の研究を分析した報告では、がんや慢性肺疾患などの疾患が原因で低体重になっている人たちを除外しても、BMI18.5以下のやせの死亡率は普通のBMI(18.5~24.9)の人たちに比べて1.8倍になるという結果が出ている[注1]

[注1] J Epidemiol Community Health 2014;68:683-690

 日本では30歳代以下の女性のやせ傾向が目立つが、若い女性のやせは、将来の骨粗しょう症とそれに伴う健康寿命短縮のリスクや、妊娠する力の低下、生まれくる子供の健康にも影響が及ぶ可能性があるので注意が必要だ。

 極端なダイエットやスポーツ競技などのために体脂肪が減少しすぎると、神経性食欲不振症を招いたり、免疫機能が低下したり、卵巣機能の低下によって月経不順や無月経になることもある。

 そして、無排卵が長期化し女性ホルモン・エストロゲン値が低い状態が続くと、骨形成が満足に行われず、健康寿命に関わる骨粗しょう症のリスクも高まる。

■お母さんのやせと新生児のリスク

 やせている女性が妊娠し、そのまま適正な体重増加がないまま出産すると、その影響は生まれてくる赤ちゃんにもおよぶ可能性がある。

 妊婦がやせているほど赤ちゃんの在胎日数が短くなり、出生体重が小さくなる傾向があることを昭和女子大学管理栄養学科志賀研究室と森永乳業栄養科学研究所の共同研究(論文執筆中)が明らかにしている。

 「このデータは、2007年1月から2011年12月の5年間に静岡県の一般産婦人科施設で妊婦健診を受け、正期の妊娠週数で1児を出産した健康な妊婦2359人のもの。初診時にBMIが18.5未満だったやせ妊婦では、妊娠から分娩までの在胎日数が短く、子供の体重も有意に低かった」と森永乳業栄養科学研究所の武田安弘所長。

 厚生労働省は、「妊娠期の至適体重増加チャート」で、やせの女性が妊娠したときのリスクとして、低出生体重児の分娩 、子宮内胎児発育遅延、切迫早産や早産、貧血などを挙げている。

 「低出生体重児」とは、2500g未満で生まれた新生児のことだが、日本では1975年の5.1%から上昇を続け、2011年には全出生児中の9.6%に達している。この比率はOECD(経済協力開発機構)加盟国先進国の中でも顕著に高い。

 「母親の栄養状態が悪くやせている場合、赤ちゃんの出生体重が小さくなる可能性があり、さらに受精時から胎児期の栄養状態が赤ちゃんの将来の疾患発症に影響を与えるおそれが指摘されている」というのは早稲田大学理工学術院の福岡秀興教授。

 日本で行われたものを含む78の研究を分析した報告でも、やせの妊婦が低出生体重児を産むリスクは普通体重の妊婦の1.64倍になっている[注2]

[注2] International Journal of Epidemiology 2011;40:65-101

 そして、これまでの研究から、低出生体重の赤ちゃんに将来発症するリスクがある疾患として、虚血性心疾患、2型糖尿病、高血圧、メタボリック症候群、脳梗塞、脂質異常症、神経発達異常などが挙げられており、この相関を実証する研究が進められている。

 こう見てくると、そもそも一昔前まで言われていた「小さく生んで大きく育てる」という発想自体が危険だったのではないか。

■最新の知見を共有する研究会開催

DOHaD研究会のホームページ画像(http://square.umin.ac.jp/Jp-DOHaD/)

 「母親の子宮内の環境が悪いことで、胎芽期や胎児期の赤ちゃんにエピゲノム(遺伝子の働きを調節するメカニズム)の変化が起こり、赤ちゃんが成人になったときに発症する疾病の一因になるという考え方がある(成人病胎児期発症起源説)。これを受けて、成長の早い段階で土台ができてしまう健康や疾病の原因に関する研究を進め、次世代の健康を守り、疾病を予防するための対策を講じるための活動が世界で活発化している」と福岡教授。

 このような問題意識と研究活動はDOHaD(Developmental origins of health and disease)と呼ばれている。

 わが国では、福岡教授を代表幹事とした日本DOHaD研究会があり、来る2015年8月1日、2日に、昭和大学医学部の板橋家頭夫教授を学術集会長として、「第4回日本DOHaD研究会学術集会」(http://dohad4.umin.jp/index.html)が東京・品川区の昭和大学で開かれる。

■若い女性のやせと低出生体重児を防ぐには

 さて、このコーナーのテーマである「ヒット」という視点から考えたとき、若い女性のやせ解消につながる妙薬はあるのだろうか。

 本来なら、国が、もっとも大切な資産である子供の健康を守るためにも、妊娠が可能な年齢になった女性向けの「教育プログラム」を構築するべきであるし、妊娠を望む女性のための適切な「プレ妊娠食」などが開発され、広く使われるべきだろう。

 また、赤ちゃんの出生体重や将来の疾病リスク低下にかかわるというデータも多い、ビタミンDや葉酸といった栄養素に関する正しい知識の周知と、必要十分量含まれた食品の定番化も望まれる。

 BMIが18.5に近づいたら危険信号を出す体組成計があってもいい。薄着の季節になると多くのメディアで目にする「ダイエット特集」には、「BMI18未満の閲覧禁」という自主規制や禁忌表示が必要かもしれない。

 最後に、妊娠中のパートナーがいる男性は、5kgくらい体重が増えたくらいで「ちょっと太ったね」などと心ない言葉をかけないようにしたい。厚生労働省による「妊娠全期間を通じての推奨体重増加量」では、BMI18.5未満の「やせ」で9~12kg、18.5以上25未満の「ふつう」で7~12kgの体重増加を推奨しているのだ。

西沢邦浩(にしざわ・くにひろ)
日経BPヒット総合研究所 上席研究員・日経BP社ビズライフ局プロデューサー。小学館を経て、91年日経BP社入社。開発部次長として新媒体などの事業開発に携わった後、98年「日経ヘルス」創刊と同時に副編集長に着任。05年1月より同誌編集長。08年3月に「日経ヘルス プルミエ」を創刊し、10年まで同誌編集長を務める。早稲田大学非常勤講師。

[参考]日経BPヒット総合研究所(http://hitsouken.nikkeibp.co.jp)では、雑誌『日経トレンディ』『日経ウーマン』『日経ヘルス』、オンラインメディア『日経トレンディネット』『日経ウーマンオンライン』を持つ日経BP社が、生活情報関連分野の取材執筆活動から得た知見をもとに、企業や自治体の事業活動をサポート。コンサルティングや受託調査、セミナーの開催、ウェブや紙媒体の発行などを手掛けている。

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