げっぷの正体は飲み込んだ空気 かみ締めすぎに注意
西洋のマナーでは、げっぷはおならより失礼に当たると聞いたことがある。本当かどうかは不明だが、当コラム筆者としては、基本的にどちらも生理現象だし、状況が許す限り、出たいものはなるべく我慢せずに出すのが体に良いと思っている。
とはいえあまり頻繁だと、胃が悪いのだろうか、悪玉菌が増えたのかなどと心配になる。それに、やはり人前でははばかられるので、社会生活上不便だ。
げっぷはどうして出るのか。ベイサイドさちクリニック院長の小野繁さんに聞いてみると、意外な答えが返ってきた。「げっぷの成分の約70%は外気、つまり口から飲み込んだ空気です。おならも一緒。げっぷやおならが盛んに出たり、お腹が張るという人はたいてい、飲む空気の量が増えています」
へー、げっぷもおならも、主成分は普通の空気なのか。でも、どうして飲み込む量が増えるのだろう。
緊張して歯をかみ締めると飲む空気の量が増える
「私たちは普段から、無意識のうちに、唾液と一緒に空気を飲み込んでいます」。小野さんはこんなふうに話し始めた。
試しに、ゴクンと唾液を飲んでみよう。そのとき、舌が口腔の上側にぴたりとくっつくはず。このとき密着した舌の奥のすき間に、唾液と一緒に少量の空気が封じ込められる。この空気を飲み下しているのだ。「1回飲むたびに、3~5mlの空気が飲み込まれます」。
飲み込んだ空気は、まず胃に入る。そこからげっぷとして放出されることもあれば、小腸→大腸と進んでおならになる場合もある。いずれにせよ、唾液と一緒に空気を飲むのはまったく自然な現象。問題はその頻度だ。
「たとえばストレスがかかって緊張すると、歯をかみ締めたり、唇やほおに力が入る。すると唾液が湧出されるのです」
なるほど。確かに歯をぎゅっと噛むと、唾液がジュワッと出る。唾液量が増えれば、飲む空気量も増えるだろう。
空気をたくさん飲んで、げっぷやおなら、お腹の張りなどが強く出る状態を、呑気症(どんきしょう)という。胃腸の検査をしても問題はなく「かみ締め」や口の周りの力みが主な原因だという。
「上司の近くにいた日はお腹が張るという患者さんもいます」と小野さん。また、強く噛みすぎて筋肉が硬直し、頭痛や肩こりになることも。うーん、思いのほか大変そうだ。
小野さんのクリニックでは、スプリントという薄いマウスピースを使ってかみ締めを防ぐ治療を行っている。「かみ締めが原因と気づくだけで症状が軽くなる人もいます。かみ締めていることに気づいたら、ふーっと息を吐くといいですよ」
ところでげっぷというと、食べ過ぎるとよく出る、という印象がありますが…。
早食いでげっぷが出る人、出ない人の違い
「食事に伴って空気を飲んでしまうことも、よくあります。この場合、問題は食べる量よりも、スピードです」
食べ物を飲み込むときも、舌が上あごに密着し、鼻への通路が閉じて奥に空気が密閉される。これは「か」と発音するときと同じ状態だ。ゆっくり食べていれば、ひと飲みごとに鼻が開いて息が抜けるが、息もつかずに「かっかっかっ」とかっ食らうように食べ続けると、抜けるはずの空気をどんどん飲み込んでしまうという。
「でも、中には飲み込みながら空気を鼻からうまく逃がせる人がいて、そういう人は早食いをしてもあまりげっぷが出ません」と小野さん。へぇ、そんなワザがあるのか。
コツは、口の中を、「あ」と発音するときの状態に保って飲み込むことだそうだ。もちろんもっと確実なのは、ゆっくり静かに食べることです。
この人に聞きました
ベイサイドさちクリニック院長。専門は心身医学。不安や緊張から歯をかみ締める「かみ締め症候群」を提唱。「かみ締めが原因で、頭痛や肩凝り、歯やあごの痛み、げっぷ、おなら、お腹の張りといった多くの症状が起きます」。
(ライター 北村昌陽)
[日経ヘルス2013年11月号の記事を再構成]
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