数値目標、意識・働き方改革…女性活躍推進3つの要点
日経BPヒット総研所長 麓幸子
2015年5月22日、衆議院本会議で女性活躍推進法が審議入りした。その同日に開催されたのが、「日経WOMAN」と日経ウーマノミクス・プロジェクトによる「女性が活躍する会社Best100 2015」の表彰式である。
来賓の有村治子・女性活躍担当大臣は、女性活躍新法の審議入りと表彰式が同じ日になったことをスピーチで触れていた。これはもちろんまったくの偶然なのだが、神様のはかりごとのようにも思わなくもない。表彰式に登壇した総合1位の資生堂、およびこの日発表された各業種のトップ企業、計10社の取り組みには共通項がある。女性活躍推進の3つのポイントをまとめてみた。
【ポイント1】 女性管理職登用の数値目標がある
「女性が活躍する会社Best100 2015」は、日経WOMANと日経ウーマノミクス・プロジェクトの共同実施による企業の女性活用度調査に基づいて発表された。今回の調査では、女性管理職の人数や比率に対して数値目標を挙げている企業は46.6%で、約半数となっている。「女性リーダー比率を2016年度中に30%」(資生堂)、「2016年2月までに女性管理職比率30%」(セブン&アイ・ホールディングス)、「2018年に女性管理職比率を25%にする」(第一生命)など、業界のトップ企業は軒並み数値目標を設定している。
女性活躍推進を加速するためには、数値目標は持つべきであろう。もしそれがなければ、施策が効果的かという分析も、PDCAサイクルを回すこともできないからだ。数値目標は、経営側の女性活躍に対する本気度を示す証ともなる。ただし、数値目標がひとり歩きし、数字合わせの登用が進むようではかえって逆効果である。自社の現状と課題を分析し、自社の実態を踏まえた数値目標であることが望まれる。
数値目標を持ち、対象となる管理職候補の女性の育成計画を立てて実行する。管理職候補の母集団を大きくし、管理職へ、さらに上位管理職へという人材のパイプラインを構築する。トップ企業ではそれが着実に実行されている。
【ポイント2】 女性社員、男性管理職双方の意識変容を促す研修を実施する
トップ企業は、女性社員を対象にした研修を積極的に実施し、女性の意識変容を促す施策をしている。ANAでは2014年より、女性のキャリア開発や次世代女性リーダー育成の新たな取り組みを始めている。これまで男性中心だった外部研修に女性役職者を積極的に参加させ、また部門を横断する女性ネットワーキングセミナーを実施した。
女性は未だに組織の少数派であるため、ロールモデルを獲得できなかったり、キャリアパスが見えにくかったりする。そのことが、女性の就業継続意識や昇進意欲の阻害要因になってきた。しかし、キャリア研修や女性同士のネットワーキング構築は、女性の仕事に対する意識を確実に変える。昇進意欲も高まる。それが女性管理職増加につながっている。
さらにトップ企業は、男性管理職対象の研修も積極的に実施している。女性リーダーが生まれるかどうかは、上司の育成にかかっているのだ。2014年に4回の「ダイバーシティマネジメントセミナー」を実施し、全管理職の意識改革に注力したのはセブン&アイ・ホールディングス。このように、女性リーダーを育成できるような男性管理職を増やすための研修を実施し、男性側の意識変容、行動変革を促す企業が増えた。
【ポイント3】 組織全体の生産性を上げる働き方改革を実行している
育児期の女性を対象にした両立支援制度を手厚くする企業が多いが、それだけでは女性活躍は進まない。そういう企業は、時間制約のある女性社員が増えて、仕事がアサインしにくい、他の社員とのコンフリクト(衝突)が発生するなど様々な問題が生じがちである。
それに対し、トップ企業は長時間労働を前提とした「男性の働き方」を見直し、組織全体の生産性を上げる働き方改革を実行、制約のある・なしかかわらず、すべての社員の力を最大化しようとしている。資生堂は、育児短時間勤務を利用する美容職(ビューティーコンサルタント)約1200人の働き方改革を実施、育児をしながらでも活躍しステップアップするための環境を整備した。
第一生命保険では、「ワークスタイル変革ワーキング」を立ち上げ、トップダウンで職場風土改革に向けて取り組みを開始。各所属でもボトムアップで業務効率化、総労働時間削減の取り組みを推進する。
今回の調査では、「在宅勤務制度あり」と答えた企業は29.9%(前回24.0%)、「テレワークの取り組みあり」が31.9%(同26.5%)で、前回と比較すると、働く時間と場所を限定しない柔軟な働き方の実現に取り組んでいる企業が大きく増えた。女性活躍を推進するポイントは、育児期の女性が手厚い両立支援制度がなくてもフルタイムで勤務でき、成果を上げられるような環境を整えることにある。すなわち、働き方改革を実行できるか否かにかかっている。
日経BPヒット総合研究所長・執行役員。日経BP生活情報グループ統括補佐。筑波大学卒業後、1984年日経BP社入社。1988年日経ウーマン創刊メンバーとなる。2006年日経ウーマン編集長、2012年同発行人。2014年より現職。同年、法政大学大学院経営学研究科修士課程修了。筑波大学非常勤講師(キャリアデザイン論・ジャーナリズム論)。内閣府調査研究企画委員、林野庁有識者委員、経団連21世紀政策研究所研究委員などを歴任。経産省「ダイバーシティ経営企業100選」サポーター。所属学会:日本労務学会、日本キャリアデザイン学会他。2児の母。編著書に『なぜ、あの会社は女性管理職が順調に増えているのか』『なぜ、女性が活躍する組織は強いのか?』(ともに日経BP社)、『企業力を高める~女性の活躍推進と働き方改革』(共著、経団連出版)、『就活生の親が今、知っておくべきこと』(日経新聞出版社)などがある。
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